030 ジャガイモ

 魔法肥料で作った作物の販売が禁止されたことで、私は無職になった。


「一体全体どうしたものですかねー! 一切合切放り出してボルビーと旅にでも出てやりましょうかねー!」


 朝、私はダイニングでだらだらしていた。

 アスパラガスの肉巻きを食べながら、浴びるようにお茶を飲む。

 フリックスが淹れてくれたハーブティーだ。


「一体全体と一切合切で韻を踏むのはいいが、旅に出られるのは困るな」


 向かいに座るフリックスは、今日も今日とて優雅に牛乳を飲んでいる。

 ボルビーから搾った最高にフレッシュな一杯だ。


「フリックスの旦那ー!」


 ぐうたらしていると、家の扉が豪快に開いた。

 ノックもせずに飛び込んできたのはペッパーマンだ。


「おはよーございます、ペッパーマンさん!」


「おはようアイリスちゃん! なんだか思ったより元気そうだね! 仕事がなくなって悲しんでいるかと思ったけど!」


「休業中もお給料を払ってくれるってフリックスさんが言ってくれまして! おかげで野垂れ死なずに済みそうだなという安堵感があります!」


「ははは、現金な子だなー!」


「で、何の用だペッパーマン?」


 フリックスが上唇に牛乳を付けながら話す。

 てっきり彼が呼んだものだと思っていた。


「残念ながら俺の目的はフリックスさんじゃなくてアイリスちゃんなんだなぁ! これが!」


「「え?」」


 私とフリックスの声が被る。


「私ですか?」


「さっき俺のことを呼んでいたと思うが?」


「すみませんね旦那」


 と、笑って流すと、ペッパーマンは私を見た。


「アイリスちゃんって料理するよね?」


「しますよー! いつもこの家で作っています!」


「よかった! 実はウチの若いもんが仕入れる量をミスっちまってさぁ、ジャガイモが通常の100倍近くあるんだよね」


「100倍!?」


「そうそう! だからさ、今日はウチのジャガイモで何か商売してみない? 三割引で売るからたくさん買ってよ!」


「ジャガイモで商売……!」


 考え込む。

 ジャガイモは優秀な野菜なので、色々な活用法が存在する。

 だが、それ単体で何か作ろうとした場合には、用途が大幅に限られていた。


「そのまま売ったらいいんじゃないか?」とフリックス。


「それだと面白くないじゃないっすか! せっかく露店を出すんだから付加価値をつけないと! それが醍醐味でしょうよ!」


 フリックスが言いそうなセリフをペッパーマンが言う。

 それがなんだか面白くて、私はクスリと笑った。


「他にも必要な物があったら言ってよ! 用意するからさ!」


「そうですねぇ……」


 私は顎を摘まみながら「うーん」と考える。


 できればジャガイモ以外は使いたくない。

 あくまでもジャガイモの在庫処分に貢献するのが目的だから。


「あ! そうだ!」


 ピンッと閃いた。


「ジャガバターかい? あれ美味いんだよな」とフリックス。


「あー、ジャガバターかぁ! 賢いなぁアイリスちゃん!」


 ペッパーマンが感嘆している。


「ジャガバターもアリですけど、もっといいのを閃きました!」


「「もっといいの?」」


 首を傾げる二人に、私は「はい!」と頷く。


「実はブルーム公国の貧困層の間で馴染みのある食べ物なんですが……」


 そう前置きしてから、私はその料理の名を言った。

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