032 ポテトチップス

 昼前、私とフリックはポテチの販売を開始した。


 場所は町のど真ん中に位置する十字路の中心。

 露店番号1番の一等地だ。

 ペッパーマンが謎の力で確保してくれた。

 ジャガイモを大量に購入してあげたお礼らしい。


 そんなペッパーマンは既に町を発っている。

 卸売業者として今日も国中を走り回るようだ。


「いやぁ、最高の場所でポテチを売り出したのはいいんですけど……」


 私は苦笑いを浮かべて、正面の道に目を向ける。

 ブルーム公国から真っ直ぐ伸びるその道には――。


「姉ちゃん、ポテチ3袋!」


「俺は10袋頼むぜ!」


「店で使いたいから20袋分売ってくれー!」


 ――とんでもない行列ができていた。

 ポテチは私の想像を大きく上回る売れ行きを見せたのだ。

 子供から大人までポテチ欲しさに並んでいる。


 発端はペッパーマンのインチキテクニックだ。

 サクラと呼ばれる演者を何人も雇い、店の前に列を作らせた。

 そして、サクラたちに大袈裟な演技でポテチを絶賛させたのだ。


 これが呼び水となって子供が寄りついた。

 さらにその保護者や近くの町民たちも興味本位で集まる。

 あとは本当のお客様からの大絶賛によって口コミが大爆発。

 人が人を呼ぶ展開となり、町の外まで列ができる事態となってしまった。


「ちょっと待ってください! ただいま作ってますからぁ!」


 露店に持ってきた寸胴鍋にスライスしたジャガイモを投入していく。

 寸胴鍋といっても家庭用なので、業務用に比べたら大したサイズではない。

 そのため一度に揚げられるチップスの量には限りがあった。


「アイリス……俺の腕はもう限界だ……」


 ジャガイモのスライスはフリックスの担当だ。

 左手にスライサー、右手にジャガイモのスタイルで頑張っている。


「何言ってるんですかー! 他の作業は全部私がしているのに!」


 ジャガイモの皮剥きや芽の除去、果てには接客まで私の仕事だ。

 フリックスの役目は本当にジャガイモをスライスするだけである。

 最初は皮剥きなどもお願いしていたが、あまりにも時間が掛かりすぎた。

 今までの人生で一度も調理をしたことがないらしい。


「おーい、まだかよー!」


「早くポテチ食わせろよー!」


 しびれを切らしたお客さんが怒り始めた。

 急かされたところで完成までの時間が短縮されるわけではない。

 それは相手も分かっているはずだが、長すぎて待てないのだろう。


「ちょっと私たちだけじゃ追いつかないので誰か手伝ってくれませんかー!」


 そこで私は町民に助けを求めることにした。


「ワシが手伝おうじゃないかアイリスちゃん」


「私も手伝うわ!」


 この呼びかけに顔馴染みの方々が応じてくれる。


「ありがとうございます!」


 私はポテトチップスのレシピを教えた。

 ジャガイモは仕入れ値で買ってもらい、油は私が使っている物を無償で提供。

 これによって、付近にポテチの店が数軒誕生した。


「おいおい、アイリス、こんなことをしたら利益が減ってしまうぞ」


 フリックスが「解せぬ」と言いたげな顔をしている。


「いいじゃないですか! 自分の儲けより皆の笑顔ですよ!」


 他にポテチの店が誕生したことで、客の行列が分散された。

 とはいえ、それでも私の店に並んでいる人の数が頭一つ抜けて多い。

 同じ材料で同じ製法のため、味の違いは塩加減の差くらいしかないのに。


「せっかくなら発案者のポテチが食べたいじゃん!」


 というのが、私の店に並ぶ客の声だ。

 発案者は私ではないと説明するが、大した効果は見られなかった。


 そんなこんなで、この日の営業は終了した。

 日が暮れるまで働き続け、疲労困憊の末に完売になった。

 大量に余ると思っていたジャガイモは、今や皆の胃の中だ。


 手応えが良かったので、今後もポテチの販売を行うことにした。

 栽培を再開できるようになるまでの間はこれで食い扶持を稼がせてもらおう。

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