第34話 仲間割れ

 ダンジョンは、突如としてボス級の魔物が現れることがある。

 以前のウォーターサクリファイスがその一例だろう。


 椿姫たちの前に現れたのは、キングアイアンゴーレムと呼ばれる最上級種である。

 大きさは約三倍、硬度は五倍以上。


 “こんなデカイゴーレム初めてみた”

 “超大型級じゃね!? こんなの国内にいたのかよ”

 “ゴーレムを大量に殺したから、怒って出現したとか?”

 “なんにせよ逃げたほうがいい”

 “さすがに二人で討伐できるレベルではないな”


 さすがの椿姫も連戦により魔力が少なくなっていた。

 具現化クリエイトは、常に魔力を出し続けているといっても過言ではない。

 さらに椿姫は目覚めし者アウェイカーとしての経験は浅い。技術は伴っていても、魔力消費についてまだまだ学ぶところがある。


 もちろんそれは伊織もわかっていた。魔物のことは誰よりも知っている。


「椿姫さん、どうしますか」


 しかし伊織は気づいていた。椿姫がなんて答えるのか。


「――私は戦える」

「ですよね。――わかりました。援護します」


 “ひゃあっ、やっぱりやるのか”

 “無理しないでくれえええ”

 “流石大剣豪と伊織、気合が違うぜ”

 “ヤバイと思ったら逃げてくれよな”


 まず伊織が、椿姫に防御シールドを付与した。全身を覆う事により、防御力が格段に向上する。

 これによって、椿姫は全身への力をふっと解くことができる。椿姫は自然とやっているが、自身の魔力を少なからず防御に回しているのだ。

 しかし伊織のおかげですべてを攻撃力に充てることが可能。


 椿姫がまっすぐ駆けると、ゴーレムはその場で右手を勢いよく振った。

 まだ遥かに遠い距離。当たるわけがない。


 椿姫も眉を顰めるも、直後、目を見開く。


 “岩!?”

 “瞬時に魔法を構築したのか”

 “魔法を使う魔物なのか”

 “脳筋じゃねえのかよ”


 何もないところから突如、デカイ岩が出現した。

 そのまま、岩を椿姫に投げつけてくる。


 それもすさまじい速度だ。物理的に考えても威力は高い上に、魔力で構築されている。

 当たれば椿姫ですらただではすまない――。


「――大丈夫です。椿姫さん!」


 伊織はそのタイミングで大きく叫んだ。椿姫は言葉の通り、防御せずに突っ込んでいく。

 

 “さすがの伊織ちゃんの防げないんじゃないか!?”

 “これは――やばいぞ!”

 “うわあああああああああああ”

 

「――変化チェンジ

 

 デカい岩が椿姫の身体に直撃する瞬間、伊織は両手をかざした。

 均等に覆っていた防御が前に集まってくると鋭角になる。


 それが岩の圧力を分散せる。衝撃と共に、岩が左右にはじかれていく。


 “すげええ、こんな技が”

 “衝撃を分散させたのか”

 “こんな事できるの!?”


 伊織もただ日々を過ごしているわけではない。椿姫に追いつけるように、日々研鑽を積んでいるのだ。

 そのことは誰にも話したことはない。

 ただ、椿姫だけは知っている。


 魔力量や体つきが、以前とは違うことに。


 それをあえて言及することはないが、心からの信頼を置いている。

 伊織が相棒で、良かったと。


「――ゴオオオオオオオオオオ」

「補えるというのは良い事だな。悪いが、お前の敗因は一人だったことだ」


 椿姫は二刀で十字を作ると、そのまま勢いよく突撃し、ゴーレムの身体を貫通した。ダイヤモンド同様の硬度といわれていたはずが、腹にデカい穴が開く。


 瞬間的に魔力を爆発させるすべを、椿姫は戦闘の中で身に着けていた。

 これもすべて、攻撃に集中できたからこそなせたわざでもある。


 “うおおおおおおおお、凄すぎるw”

 “強すぎる大剣豪”

 “マジでやべえ”

 “さすが大剣豪”

 “宮本! 宮本! 伊織!”

 “これスキャンしたら一気にランク爆上がりじゃね?”

 “大剣豪、やっぱりとんでもねえ。もちろん、伊織ちゃんもだけどw”


 さすがの椿姫も疲労を感じたのか、額の汗をぬぐう。 

 連戦に次ぐ連戦、集中力も切れかかっていた。


「ありがとう伊織――」

「スキャアアアアアアアアアアアアン!」


 “草www”

 “端的なツッコミwwwww”

 “盛大にふいたwwwwwwwwwwwwww”

 “今まで一番早いスキャン、俺でなきゃ(ry”

 “大剣豪、カメラ忘れがちwww”


 椿姫の代わりに急いでパシャリ。しかしなんと、伊織のカメラに『エラー』が表示された。


「え? ――椿姫さん、まだ生きて――」

「――ゴオオオオ!」


 伊織が気付いたと同時に、ゴーレムが右拳を伊織に振り下ろした。

 椿姫はそれを瞬時に受け止める。


「凄まじい生命力だな。――だが、これで終わり――」


 最後のとどめだと力を込めたとき、声が聞こえた。


「――さようなら」


 長刀が伸びてくると、ゴーレムの頭部を切断。その一撃で、岩首が転がっていく。


 “まさか一撃で!?”

 “この刀は”

 “マジかよ!?”

 “この声は――”

 “誰だかすぐわかった”

 “そういえばダンジョンにいるって誰かがいってたな”


 椿姫が振り返ると、そこにいたのは――。


「あら椿姫、伊織さん、危ないところだったわね」

「小倉、参上です!」


 黒いパンツルック姿の帆乃佳と、忍びのような恰好をした小倉だった。


 二人が登場したことで、コメントはさらに加速。

 しかし問題が発生。どちらがスキャンするのかとなった。


 通常、横殴りはご法度である。

 しかし緊急時は別だ。それこそ、伊織が危険だった可能性もある。


 魔物は、強ければ強いほどダンジョンに吸収されづらい。

 時間の猶予はまだあるかのように思えたが――。


「私たちが仕留めた獲物だ。帆乃佳であっても、渡すつもりはない」

「あら、でも私が息の根の止めたのよ。さすがにここは譲らないわ(怒ってる椿姫可愛い可愛い可愛い)」

「小倉もそう思います! 今のは危なかったです!」

「いえ、椿姫さんなら次の瞬間に倒してましたよ」


 どちらもランクを上げている真っ最中だった。当然だが、お互いに意識していた。

 椿姫が上がれば帆乃佳が上がる。小倉が上がれば、伊織もあがる。


 ネットでも既にニュースになっていた。

 今ちらが上か、その話題は常に議論され続けている。


 椿姫は静かに呼吸を整えた。

 それを感じ取った帆乃佳が、不適な笑みを浮かべる。


「――私たちはいつもそうだったわね。何かを決めるとき、決着をつけるときは真剣に戦う」

「そうだな。――いいだろう。伊織、まだ余力は残っているか?」

「は、はい! ――絶対に負けませんよ」

「小倉も手加減しません!」


 “え、まさか”

 “おいおいおいおい、さすがにそこまでするのか!?”

 “魔力を失ってる状態のバトル、やばすぎるだろ”

 “まだダンジョン中だぞ!?”

 “これはヤバイって”

 “やめて、喧嘩しないで……”

 “あかーーーん”


 不穏な空気、コメントが加速する。

 まず動き出したのは――椿姫だった。



 スマホを片手に。


「――アプリが、ホーム画面にないぞ伊織!」

「え? ま、またですか!?」

「今よ小倉、ほらスキャンしなさい!」

「はい、小倉! スキャンします!」

「――色付き防御シールドブラック」

「うわあああ、なんですかこの黒い防御。お嬢様、スキャンエラーでましたああああ」

「なら私が――」

「で、できたぞ伊織! よし、スキャン――」

「ま、待ちなさい! ――伸びなさい!」

「くっ、エラー!? 何だ、写ってるのは帆乃佳の刀じゃないか!?」


 “……え?”

 “え?”

 “え?”

 “勝負って、スキャン勝負!?w”

 “なんだよwwwww”

 “いやでもちゃんと真剣だぞww”

 “椿姫いつまでアプリ消えるんだよw”

 “伊織、新しい技手に入れてて草”

 “小倉が瞬間移動テレポートしながら撮影してるwww”

 “それを伊織が防ぐのおもろい”

 “帆乃佳の伸びる刀、スキャンを阻止できるの!?”

 “なんて攻防だ。これが、宮本vs佐々木か”

 “いつまで続くんだよww”

 “消えるぞwwww”



 結局、魔物は消えてスキャンできたとか、できなかったとか。



 “面白い。――私、どっちかの道場ギルドに入りたいな”

 

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