第31話 宮本と伊織の過去

「――こんな弱そうな女が大剣豪とは思わなかったぜ。お前を倒して、俺様の知名度をあげてやる」


 椿姫は、都内のとある小さな道場――教室で剣を構えていた。

 目覚めし者アウェイカーの二刀流ではなく、竹刀である。


 対峙していたのは、椿姫よりもはるかに大柄な男だった。

 手には、魔力が満ちた斧を構えている。


 “今配信つけたけど、道場破り配信ってなに?”

 “最近、目覚めし者アウェイカーの道場とか教室が乱立しているんだけど、詐欺とかヤバイところに大剣豪が突撃してる”

 “何それ、面白そうなことしてるな”

 “悪質な相手には断罪を、正しい行いをしているものには礼儀を、で配信してます”

 “今これはどこ?”

 “都内だよ。相手は斧の権三郎ごんざぶろう

 “あー、なんかダンジョン内で勝手に私人逮捕しまくって問題になってたやつか。こいつ、教室なんか開いてたの”

 “何も知らない子供や目覚めたばかりの人を強引に集めて、適当な講習をしてるみたい”

 “そいやネットニュースでみたな”

 “でも強そうだな”

 “恵まれた体格は能力にも影響するみたいだね”


「性別で人を判断するとは、おろかだな」

「なんだとぉ? お前の人気なんて、探索協会のステマだろうが! ――竹刀なんかで、俺に勝てると思うなよッ!」


 権三郎は、デカイ斧を両手に突っ込んでいく。

 そのまま大きく振りかぶり、勝利を確信。力いっぱい椿姫の頭部を狙った。


 しかし、それは空を切る。


「――お前で四人目・・・だ」

「なっ、ぐがあああああああああああああああぁっああ……」


 “一 撃 粉 砕 ”

 “大剣豪、やっぱつえええええええ”

 “能力なしで勝てるのかよw”

 “さすが宮本”

 “これでこいつの評判もガタ落ちだな”

 “天誅! いや、人誅!”

 “本当に大剣豪はつええな”


 ◇ ◇ ◇ ◇


「椿姫さん、お疲れ様です!」

「ありがとう伊織。しかし悪質な輩というものは、みな傲慢だな。おごらず、研鑽を積めばいいものを」

「そうですね……。ダンジョンが誕生してから、ああいった人たちが増えてるんですよ。力を得ると、やっぱり人は使いたくなるんでしょうか。今の教室も、多くの人が詐欺で訴えていましたけど、法律がまだ完全じゃなくて泣き寝入りしてました。でも、椿姫さんのおかげで被害者は減ると思います」

「だといいな。……しかし私も自分の事しか考えていない点は同じかもしれない。ただ、叔父のように強くなりたいだけだ」

「全然違います。椿姫さんは、間違ったことはしないですから」

「……そうありたいが」


 二人は放課後、視聴者から寄せられた情報を元に道場破りをしていた。

 悪質な輩には断罪し、正しい道場には礼儀を尽くし戦う。

 これにより、宮本の名はさらに広まっている。


「椿姫さん、ずっと聞きたかったことがあるんですが」

 

 河川敷、夕日を眺めながら、伊織が尋ねる。


「どうした?」

「叔父さんって、どんな人だったんですか?」

「……強さに貪欲だったな。厳しかったが、時折見せる優しさもあった」

「そうなんですね。叔父さんは、どうしてそこまで強くなりたかったんでしょうか? そして、椿姫さんに強くなってほしいと思ったのか。――すいません、言いたくなければ――」

「いや、構わない。ちゃんと理由はあるよ」


 するとそこで、椿姫がいつにもなく真剣な表情を浮かべた。


「私には両親はいない。その話を、していなかったな」


 椿姫の言葉からは叔父の話しか出てこない。伊織は何となく察していたが、尋ねることはなかった。


「……はい。でも、本当に言わなくても――」

「いや、聞いてほしいんだ。伊織に」

「……はい」

「私は元々、剣とは無縁の生活をしていた。田舎で、両親と共に農業を手伝っていたんだ。そのころから、叔父は強かったが、強くなれということなんて一度もなかった」

「……驚きました」

「だろう。だがそんなある日、大変な事が起きた。私の両親が魔物に殺されたのだ。私もその場にいたらしいが、記憶がない。覚えてないんだ。のちに聞いたが、たまたま、ダンジョン外にあふれた魔物だったと」

「そんなことが……」

「私は両親に守られたと聞いている。二人が、私を覆ってくれていたらしい。それから叔父は私を強くあろうとしてくれた。両親のようになってほしくないからだろう」

「確かにそれはつらいですね……」

「宮本の名を広めたいのは、叔父や両親が残してくれた名を、もっと広めたいからだ。宮本は強い、凄いと、両親たちの名まで後世に残したい。気高く、誇り高い人たちだったと」


 何も知らなかった伊織は、椿姫の信念を知った。

 静かに涙を流し、それに気づいた椿姫が驚く。


「大丈夫か、伊織――」

「私も幼い頃、死にかけたとこがあるんです」

「……もしかして魔物か?」


 伊織は、静かに首を横に振る。


「違います。通り魔でした。目覚めた能力で無差別に暴れたみたいです。私も巻き込まれました。そのとき、男性に助けられました。でもその人は、私を守って亡くなってしまいました。何の接点もなかったんです。ただ、危ないと思って助けてくれたそうです」

「……凄い人がいたんだな」

「はい。本当に。でもその男性には家族がいました。今でも、お墓参りに行くと顔を合わせます。私は申し訳なくなりますが、立派に育ってくれて嬉しいと笑ってくれます。私が人を助けたいのは、その人から受け取ったバトンを繋げていきたいからです。できるだけ無関係な人を助けたい。それが、私のすべきことだと思っています。椿姫さんは自分の事ばかり考えていません。叔父さんのこと、ご両親のことを考えられる、素敵な人です。だから、落ち込まないでください」

「……ありがとうな、伊織」

「いえ!」


 しかしそのとき、ピロンと音がなる。


 “辛すぎて耐えられない”

 “あまりにも尊い”

 “これからもマジで応援します”

 “大好きです。二人とも”

 “頑張ってね”

 “配信切り忘れてるの見ててごめん”

 “悲しすぎる過去”

 “俺たちがいるよ”

 “これからも応援し続けます”

 “大好きふたりとも”

 “二人は本当に優しいよ”


 それを見た椿姫の頬が緩む。


「はっ、どうやら聞かれていたらしい」

「……ですね。でも、良かったです。全部わかってもらたほうが、安心します。――視聴者さんも、これからよろしくお願いします!」


 それからも椿姫と伊織は悪質な道場、教室を倒しつづけた。

 正しい行いをしている所には、しっかりと礼節をもって。


 それは話題となり、伊織、宮本の名がさらに広まっていった。


 そんなある日、椿姫、伊織が予約配信をしていた。


 “重大発表?”

 “なんだろう。めずらしいね”

 “気になる”

 “いったい何が!?”

 “いつもお疲れ様”

 “引退!? いや、さすがにそれはないか”


 そしてそこに、二人が現れる。


「さっそくだが、今日はダンジョン配信じゃない。――ちょっとした報告だ」

「皆さん、よろしくお願いします!」

「私と伊織で、宮本の名を使った道場ギルドを作る事に決めた。――まずは二人だが、ギルドランクを上げるためにダンジョン配信も増やしていく。そして門下生メンバーも募集している。当然、誰でもいいというわけではない。我こそは、という人は連絡してきてほしい。いつでも挑戦は承る」


 “うわああああああああああ、まさかのギルド!”

 “マジかよ、これどうなるんだ!?”

 “探索者ではなくギルドは個人ランクがあるから、そこにランクインすることになるね”

 “宮本の名を広めるために門下生も募集か、すげえことになるな”

 “誰が加入するんだろう。これはワクワクする”

 “これはネットニュース間違いなしだな”


 そしてこの宮本道場ギルドは瞬く間にニュースとなり、世界を巻き込んでいくことになる――。

 


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