第23話 最強の矛、最強の盾。

「なるほど、ようやく使い勝手が分かってきたな」


 笑みを浮かべる椿姫。

 試練ダンジョン23階層。内部は既にとてつもない広さになっていた。

 大型魔物が生息しているからか、それに伴って天井が高い。


 椿姫の周りにはケンダウルスと呼ばれる牛の魔物が三体も立っていた。

 デカい斧、魔力を帯びた武器を構えている。


 ”大剣豪、よくこんな所で笑えるな……”

 ”見てるこっちがヒヤヒヤしてしまう”

 ”でもマジで強すぎて安心感はある。どこまで行くんだろう”

 ”そろそろ魔力切れするんじゃないか?”

 ”目覚めし者アウェイカーの特別な能力とかはないのかな”

 ”確かに、まだ発動はしてないな”

 ”いや、普通の剣技でここまで来れるのがやべえよw”

 ”そうだなww”

 ”絶対に壊れない刀、だけじゃここまでこれるやつはいないぞw”

 ”どれほどの研鑽を積んだんだろうな”


 コメントの通り、椿姫は今まではいつもの剣技で戦っていた。

 だが、ようやく気付く。


「伊織、試したいことがある。悪いが防御を頼んでいいか」

「はい! 無理はしないでくださいね」

 

 ”まだ余裕あるのか”

 ”伊織ちゃんの魔力量、どうなってんだ?”

 ”ダンジョン崩壊時もそうだったけど、とてつもないよね”

 ”治癒はめちゃくちゃ魔量消費凄いって聞いたけど、それに合わせて防御もでしょ?”

 ”二人だけで探索者百人分ぐらいの力がありそう”


 椿姫はその場で足を折りたたむと、次の瞬間、反動で高く飛んだ。

 突然、敵が近づいてきたことに驚いたケンダウルスたちは、椿姫を真っ二つにさせんとばかりに勢いよく斧を振る。


「グオオオオオオ!」


 ”当たったら即死じゃね!?”

 ”防御があるから大丈夫じゃないか?”

 ”このレベルの魔物は防御貫通を持ってるよ”

 ”流石にお守りみたいなもんじゃないか? いや、伊織ちゃんを舐めてるわけじゃないが”

 ”どうだろう。防げる気もするけどこえええ”


 それに対し、椿姫は顔色一つ変えずに斧を回避した。

 続く二激目、斧が頬をかすめるも、足をかけて反対方向に飛ぶ。


 そこには、もう一体のケンダウルス。


「――さて、どうなるか」


 すると椿姫は右手の闇の剣に力を込めた。より一層闇が深くなる。

 そのまま首に剣を這わせる。防御エフェクトが光るも一直線に進む。魔物に激突と同時に切り裂くと、首を落とした。


 ”攻撃力ヤバすぎwww”

 ”すげえ、ケンダウルスってめちゃくちゃ防御が高いで有名じゃなかった?”

 ”1㌧の打撃でもビクともしないって聞いたことあるぞ”

 ”それを一撃って、宮本ヤバすぎる”

 ”大剣豪、ちょっとやりすぎではw”


 しかしそこでコメントが加速する。

 それは、視聴者が椿姫の剣に気づいたからだ。同時に伊織も。


「つ、椿姫さんそれは!?」

「ああ、ようやくわかった。この武器は――進化するみたいだ」


 闇の剣が禍々しい形に変化していた。より魔力が漲っている。


 ”進化!?”

 ”どういう原理だ!?”

 ”相手の魂を吸い取る? いや、魔力か?”

 ”進化する剣なんて初めて聞いたぞ”

 ”すげえええええええええ”

 ”大剣豪、これ以上強くなったダメですよおおお!?”

 


「――そしてもう一つ」


 そのとき、一体のケンダウルスが怒り狂って突撃してきた。

 椿姫はまっすぐ進み、光の剣を大きく振りかぶった。

 するとなんと、斧を真っ二つにする。


 これにはケンダウルスも叫んだ。しかし椿姫は容赦なく闇の剣で切断した。


「光の剣は防御を貫通させるみたいだ。おそらくだが、魔法を斬っているともいうべきか」


 ”ヤバすぎですよwww”

 ”は、なにそれ!?”

 ”つまり防御無効化!?”

 ”進化する剣と無効化の剣……え?”

 ”元々凄まじい剣技なのにwww”

 ”ヤバすぎるだろww”

 ”ここからどうなるんだ!?”

 ”ちょっと伊織の開いた口が広がってないぞwww”

 ”これは流石の伊織でもなww”


「凄すぎですよ椿姫さん」

「いや、まだまだだ。今は能力に振り回されているにすぎない。これから、もっと研鑽を積む。私は気づいたよ伊織。――まだまだ、強くなれる」


 武者震いをする椿姫に伊織は真剣な面持ちで声を掛けた。


「なら椿姫さん、私のも見ていてください」


 ”伊織ちゃん!?”

 ”前に出た!?”

 ”あ、危ないよおおおおおおおおお”

 ”一体何をするんだ!?”


 残ったケンダウルスはさらに怒り狂っていた。

 そして伊織に斧を振りかぶる。


 椿姫はただそれを見ていた。伊織の言葉を信じている。


 ”やべええええええ”

 ”大剣豪、助けてあげてくれ!?”

 ”し、死んじゃう!?”

 ”伊織ちゃん!?”


 斧が伊織に迫りくるも、寸前でガラスが響いたような音がこだました。

 なんと、寸前で斧が止まっているのだ。


 そして魔法のエフェクトが発動していた。


 ”は?”

 ”え、受け止めた!?”

 ”誰だよ防御貫通っていっていったやつ!?”

 ”おいまて、また攻撃ふってきたぞ!”


「グガガガガァアッ!」


 だが何度攻撃を当てても伊織の防御シールドは防げなかった。

 

 椿姫は微笑み、そして前に出るとケンダウルスを一撃で堕とす。


「腕をあげたな」

「こそ練してますからね。――私は今まで誰かを助けてばかりでした。でも、少しは自分の気持ちも大事にしたいです。椿姫さんに、追いつきたいですから」

「――楽しみにしているよ」


 そして二人は、更なる階層に駆けていった。


 ”ヤバすぎコンビwwwwwwwww”

 ”もう誰も手がつけられねえよw”

 ”これが最強の矛と盾の実写版だ。マジで実際どっちが強いんだ?”

 ”その試合みてえw”

 ”さすがに大剣豪じゃないか? でも、これからどうなるかは気になるな”

 ”いつか戦ってくれるのか?”

 ”おまいらそれよりまだ上に上がるみたいだぞww”

 ”た、たしかにww”

 ”もう魔物のライフはゼロよ!”


 

 その日、矛と盾がトレンド入りしていたのは言うまでもない。


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