第24話 謎のメッセージ

『大剣豪宮本&守護ガーディアン伊織、試練ダンジョン30階まで一直線』

『世界初!? 世界最速!? 目覚めし者アウェイカー、二刀流の秘密に迫る』

『配信界で話題の二人、宮本と佐々木』

『今だからこそダンジョンが熱い!』


 学校、昼休み。

 椿姫と伊織は、食堂で食事をとっていた。

 以前と同じ魚定食は椿姫。美しい橋使い、サバの骨を綺麗に取っていく。

 伊織はオムライス。ケチャップ少なめだ。


「椿姫さん、本当にお魚好きですね」

「そうだな。食べ慣れているというのもある。叔父が作ってくれていたものを食すのが日常だったからだ」

「叔父さん、お料理上手だったんですね」

「そうだな。熊の煮込み鍋や猪焼きは、特に大好物だった。ワニの丸焼きも案外おいしいぞ」

「へ、へえ!? そ、そうなんですね。良かったら、オムライスも一口食べてみますか?」


 そこに伊織がスプーンにオムライスを載せて提案した。

 椿姫の頬が、ピクリと動く。


 存在は知っていた。だが、あまりにも可愛すぎるのだ。

 それを口に含む? 良いのか?


「……でも、私は初めてなんだ」

「誰でも初めてはありますよ。優しく口に入れますから」

「そうか。なら――ありがたく」


 椅子から伸びをしてスプーンを前に突き出す。椿姫は、おそるおそる頬張った。

 卵の甘味とケチャップが絡み合い、なんともいえぬ濃厚な味わい。


 白米の旨味まで感じられる。


「美味しい……」

「ですよね。ここの食堂、おすすめなんですよ」

「次は……おむらいすにしてみるか」

「おお、いいですね!」


 するとそのとき、隣で男子学生たちが声をあげていた。


「なんか、百合百合してないか?」

「確かに……あれは百合百合だな」

「くぅ、二人とも可愛すぎるぜ」


 それに気づかない二人ではなかったが、百合という知識がなかったので、花の言葉だと思っていた。

 椿姫は思わず、山のユリの花を思い出す。

 そのとき、女子生徒三人が隣にやってきた。


「あ、あのー!」

「は、配信見ました……その、凄かったです!」

「私ももです! 本当にその、かっこよかったです!」


 それだけ言うと、女子たちは恥ずかしそうに去っていく。


「女性も見てくれているんだな」

「見たいですね。男の人からは声を掛けられるようになってきましたけど。まあ、さすがに隠し通すのも限界ですよね」


 先日の試練ダンジョンは探索協会のスパチャ少なすぎぷち炎上があり、多くの一般ユーザーが見ることになった。

 椿姫の処遇は、協会からの連絡待ちという状態である。


「そうだな。とはいえ、話しかけてもすぐ離れていってしまうが」

「皆さん、椿姫さんが凄すぎて話しかけられないみたいです」

「凄い? 何がだ?」

「強すぎるからですよ。憧れや尊敬を抱いてるんです。私も気持ちは分かります」

「そうなのか。私は、気軽に声を掛けてもらいたいのだがな」


 伊織の言う通り、学校で椿姫の認知、人気度は高まっていたが、話しかけづらいという空気も出ていた。

 だがそこには強さだけではなく、伊織の凄まじい可愛さと人気があることも当人は知らない。


 例えるならば世界的人気なアイドルが二人で食事をしているようなものだ。

 それもオムライスを食べあうような百合百合。誰もが入るのを躊躇する。


「まあでも、私は少し椿姫さんを独占できて嬉しいですけどね。こうやって、いっぱい話せますし」

「そうか。そういってもらえると嬉しいな」


 二人のやり取りに、後ろの男子学生が頬を赤らめていた。

 

「協会からの連絡はまだないですが、今後はどうしていきますか? 色んなダンジョンを攻めて行きます?」

「そうだな。私にはまだ知らないダンジョンや魔物、それに目覚めし者アウェイカーとしてまだまだ新米だ。今までは叔父の背中を追いかけていたが、これからは自分の興味があることに目を向けていきたい。――それに気づかせてくれたのは、伊織、君のおかげだ」

「え!? そ、そんな私なんて!?」

「これもよろしく頼む」

「とんでもないです。はい。――そういえば、椿姫さんずっとスマホ鳴ってませんか? ……もしかして」

「帆乃佳だろう。日常茶飯事だ。おかげで、随分と打つも速くなった」


 椿姫の言う通り、魚定食を終えると、凄まじい動きでボタンを打ち始めた。それもフリック入力。

 それを見た伊織は、私も負けたくないと拳を握った。


 そして椿姫は、なぜか眉をひそめていた。今まで見たことのない表情を浮かべている。


「…………」

「どうしました? 椿姫さん」

「いや、協会から帆乃佳に通達があったらしい。そして、一緒についてこいと」

「あ、そうなんですね。佐々木さん、協会の方からの信頼ありますもんね。放課後、じゃあ私もついていきますよ」

「ありがたい。それで、その、よくわからない文言が付いているんだ」

「え? ちょっと、いいですか?」


 伊織は、失礼しますと顔を覗き込む。

 そこには、帆乃佳のメッセージが映し出されていた。


『椿姫、会長から話があるから一緒に行くわよ。後、待ち合わせはどこにする? 別に近くまで行ってもいいけど。それと、水着・・持ってる?』


 

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