第47話 勝利の兆し
(積み上げてきたものが違い過ぎる……)
今になって、ようやく目の前の男の真の凄さを、ジンクは垣間見る。
現実を見て、圧倒的な差を理解しながら。
それでも本気で自分より何十倍も魔力量が上の相手に勝とうと創意工夫を続けてきた。
そして、一割以下の勝率だったのかもしれない。
それでも絶望的な魔力差に挫ける事無く、金級相手に勝利を拾ってきたのが目の前の男なのだ。
(こんなのに勝とうと思ってたなんて身の程知らずもいいとこだ……)
魔力量という生まれ持った部分でナナシに負けていたのなら、ジンクは諦めてなんてやらなかっただろう。
むしろ反骨心が身も心も奮い立たせてくれた筈だ。
皮肉にも今まで自分を支えてきた部分で負けた事で、敗北を受け入れつつあった。
(だからって、まだ終わる訳には――)
もはや勝つのは難しいなんて次元の話じゃない。
それでも降参出来る訳もなく、刺激しないように距離を取ろうとするジンクだったが――
「目が死んだね」
その態度がナナシの気に障ったらしい。
「確かに諦めは肝心だとは思うけど、それは目的と手段を履き違えるなって話であって、心では負けを認めたのに、無駄な足掻きをしろって事ではないんだけどな」
あまりにも期待外れだという態度を隠しもせず。
それでもすぐに勝負を決める事もせず、ナナシは語り掛けていく。
「まあ、仕方ないか。君に戦いを教えた師匠は、どうやら相当に間抜けらしいからね」
それは失望等とは違う明らかな否定。
ナナシにしては珍しい侮蔑すら混じった言葉であり、諦めてしまったジンクを挑発するだけの言葉なのは明らかだったが――
「……おい、今なんて言った」
(先生が間抜けだと?)
挑発と解っていて尚、どうしてもジンクには聞き流せない単語が混じっていた。
「ああ、君に戦いを教えた奴は間抜けだと言った。そうでないなら、教え子の適正も見ようとせず、自分のやり方を押し付ける事しか出来ない無能だろうな」
ジンクの目に怒りの炎が灯るのを見て。
これならもう少しくらいは楽しめそうだとばかりに、ナナシは更に言葉を重ねていく。
「戦えば解るよ。君はどっちかと言えば、積み上げてきた経験から来る直観や閃きで戦う方が強いタイプだ。けれど、今の君の戦い方は知性のない獲物を罠に嵌める狩人のような戦い方だ」
(先生に習ったのは魔獣の討伐の仕方だけだからな……)
「その戦い方が悪い訳じゃない。君を知らない上で経験の浅い相手にならば通用するだろう。けれど、君の本質はそこにないよ。罠を仕掛けて相手をコントロールする事に楽しさを見出すような性格の悪さを感じないというか、むしろ馬鹿正直で素直さがあるからね」
「…………」
最初こそ怒りを覚えた研一であったが、その怒りは長くは続かなかった。
過去に先生も同じような事を言っていたのを覚えており、きっと対人戦の戦い方を教えてくれるまで一緒に居たのなら、おそらく魔獣と狩る為のモノとは違う全く新しいスタイルを一緒に考えてくれただろう事を想像出来てしまったから。
「そんな貼り付けたような借り物のスタイルでは、自分の個性と向き合い、磨き上げてきた本物には通じない。それどころか僕みたいな偽物だって倒せはしないよ」
(この人、挑発下手だなあ……)
最初こそ先生を馬鹿にされたような気分になって怒りはしたが、もう怒りは消え失せてしまっていた。
だって、ただの助言にしかなっていない。
これなら最初の時に期待外れの雑魚だったみたいな目で見られていた時の方が、余程ムカ付いたくらいだ。
(悪いな、先輩……)
逆に冷静になったジンクは距離を取る。
ナナシは魔力が低い以上、少しでも威力を上げようと思えば近付くしかない筈。
それならば距離さえ取っていれば、倒される事はないだろうという判断だったのだが――
「ほら。そうやって頭で小難しく考えるから、失敗する」
すぐ傍から声が聞こえた瞬間、咄嗟に前方に飛び込むようにして転がる。
その瞬間、ジンクの頭のあった場所をナナシの拳が通過した。
「お、やはり勘と反射神経は中々」
即座に立ち上がって振り返ったジンクだが、今更驚きはしない。
何度か見た攻撃だし、もうその正体は予想出来ていた。
「さっきまで話してたのは分身か……」
おそらくナナシは姿を消す魔術と分身の術を組み合わせて使っているのだ。
先程の分身を見た上に、ござる男という姿を消して戦える人間の姿を見ていたからこそ辿り着けた答え。
「御名答。よく解ったね」
凄い凄いと言いたげに話すナナシだが、ジンクとしては技の正体が解ったからと言って何も安心など出来ない。
(これじゃあ少しも油断出来ねえ……)
今、目の前に居る筈のナナシすら本体なのか分身なのかすら解からない。
このままではジリ貧どころじゃない。
(……どうする)
ここから選べる道は多くはない。
それでも運任せに無様に逃げ回るか、玉砕覚悟で突っ込むかの二つだけ。
どちらの方が時間を稼げるのだろうかなんて、あまりにも弱気過ぎる事をジンクが考えたところで――
「間に合いましたか!」
響いてきたセーラの声に口元を笑みの形に歪めた。
まるで勝利を確信でもしたように、心から満足そうに。
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