第11話 私は透け透けだって構わない

「それじゃあ買った服着てそのまま帰るのね。収納系の魔術とか魔道具ってある?」


 ジンクさんとシャルティアさんは、店に着いた後も色々話していました。


「あー、俺の方はないな。そっちは?」


 そして、最後の確認とばかりに荷物の扱いについて私に声を掛けてくれたのですが――


「すみません。あまり得意ではないので服くらいの大きさだと一着収納するのが限界です……」


 収納系の魔術より戦いに使えそうな魔術の習得を優先していたのが裏目に出たようです。


(こんな事ならもっと優先しておけば……)


 そうしたらきっと、ジンクさんは驚いてくれた筈なのに。


「いや、その年で使えるだけで凄いわよ」


「うん。浮遊魔術も凄かったし、下手な貴族より魔力量多いんじゃないか?」


「……ありがとうございます」


 魔力量が多くったって、弱い上に役にも立たないなら何の意味もありません。


「え、えーと、そうね。じゃあ暫く預かっておくから後で取りに来てよ。忘れてても暫くなら保管しておくしさ」


「あ、ああ。悪い。そうしてくれるなら助かる」


 話は、まとまったみたいです。


「それじゃあ奥に行きましょうか」


 そう言ってシャルティアさんは、私を奥にある試着室へと誘います。


「どうしてです? ここで着替えた方が早いと思いますが……」


 見たところ、わざわざ奥に行かなくてもすぐ近くの試着室を使えばいいように思います。


「ほら、下着とかもあんまり持ってないんでしょ? そういうの選んでいるところ、見られてもいいの?」


「いいと言いますか、それなら選んでもらえばいいのではないでしょうか?」


 そもそも私は訓練用の服だけでいいと言っているのに、俺が見たいし金も出すからと言って服を勧めてきたのはジンクさんです。


 それなら少しでも彼が喜ぶ物の方がいいでしょう。


「いや、よくねえよ。大体下着選ばせてどうする気だ。着けたとこでも見せるのか?」


「それは選んでもらったのですから見せないと意味ないのでは?」


「……スマン、奥に連れていってもらっていいか?」


 微妙な表情を見せたジンクさんに、自分がおかしな事を言ってしまったのだと気付きます。


「はいよ。それじゃあ行くわよ」


 それが何なのかを確認する前に、シャルティアさんが私の腕を掴んで奥へと引っ張って行ってしまいました。


「あの――」


「はいはい。文句は後で。そりゃあ着替えてるトコ見るのも楽しいとは思うけど、おめかしした姿をいきなり見せられるのだって男なら嬉しいものよ」


 そこでシャルティアさんは言葉を区切ると――


「それがこんなに可愛い子なら余計にね」


 私の方を見て微笑みかけてきます。


(そもそも、それが間違っているのです)


 ジンクさんは私の事を可愛いなんて思っていません。


 本当に私の容姿が好きで色んな姿を見たいなら、それこそ私が玄関で着替えるのを放っておけば、裸だって下着姿だって、いつでも見放題だった筈です。


 それなのに、ジンクさんは戦ってまで私があそこで着替えるのを止めさせました。


(それが私の何かを心配してくれての事だってくらいは解ります)


 その何か、が何なのかまでは全然解らないけれど。


 優しさや気遣いから来ているものだという事くらいは、私にだって伝わってます。


(だから、少しでもお返しがしたいんです)


 優しさには優しさを。


 気遣いには気遣いを返したい。


 けど、私にはジンクさんの何を心配して何を気遣えばいいか解りません。


(だって私が心配して何かが変わる程、ジンクさんは弱くないです)


 隙を突けたから勝てただけだ、なんて言っていました。


 確かに私自身、戦っている最中は手も足も出せてないと自惚れていたのは事実です。


(でも、そうじゃなかった)


 ただ手の内を見せなかっただけ。


 だって戦って負けた筈なのに、私は彼がどんな魔術を使うのか。


 全く見ていないのです。


(だからこそ、出来る事で少しでも喜んでもらいたかったのですが……)


 私は楽しいお喋りは出来ないですし、料理だって出来ません。


 それなら彼好みの服や下着を付けた姿をお見せするなりした方が、少しはお礼になるかと思ったのですが――


(何だか複雑そうな顔をしていました)


 やはり私みたいなお子様体型の女なんて、どんな格好をしていたとしても見たくないのでしょうか?


 しょんぼりです。


「んー、セーラちゃんはどういう感じの服がいいとかある?」


 お礼の方法が思い浮かばなくて、ぼんやりと渡された物を着るままになっていた私に、シャルティアさんが声を掛けてきました。


「大人っぽくて、男の人が好きそうなのがいいです」


 確か年上の女性が好きだと言っていました。


 きっとシャルティアさんみたいな美人で、メリハリのある身体をした人の事なのだと思います。


(顔も体型も変えてはあげられませんが――)


 服装くらいは大人っぽくした方が、少しは喜んでもらえるかもしれません。


「えー、そんな事言っているとこういうの着せちゃうわよ?」


 そう言ってシャルティアさんは、服なのか下着なのか、よく解らない物を持ってきました。


 身体全体を覆えるくらい大きいのですが――


「透け透けですね」


 少しボヤける程度で、向こうまでハッキリくっきり見えます。


「男の人はこういうのが好きなのですか?」


 これでは裸と大差ないように思えますが……。


「んー、結構好きな人多いわよ。こう、裸とは違ったエロさがあるしね」


「エロいと男の人は嬉しいのです?」


「そりゃあ男の人ですから。エロは正義よ」


「ですか。じゃあこれにしましょう」


 よく解りませんが正義というなら良い物なのですね。


 早速着替えて見せに行くとしましょう。


「待って待って待って。ごめん、私が悪かったから、そんなの見せに行こうとしないで!」


 と思ったら止められてしまいました。


(正義とは何だったのでしょう?)


 解らない事がいっぱいです。。


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