CAR.4 完璧な慣性ドリフト

「24時も回りましたし、ぼちぼち帰るとしましょうか。」俺は先輩にそう告げ、ハチロクに乗る。そして、走ること数分。後ろから1台ものすごいスピードで追ってきているのが1台いる。



「くっ、速い。」なんの車だ?後ろから来てんのは。バックミラーにその姿が写ったので見てみた。リトラクタブルの車か。180sxか、それともなんだ?俺が考えているとヤビツ特有の直角コーナーが迫ってきた。「ウォウウォウ」「コク」「オゥゥゥゥ」難なくこのコーナーをクリアする。すると、ゆるい右コーナーにオーバースピードで入り、ケツを左に振り、そのまま右にハンドルを切る。俺は『慣性ドリフト』を決め、再度バックミラーを見てみた。



するとそこに見えたのは、俺と同じ『慣性ドリフト』を決めて、2つのコーナーを抜けた同じ型式のハチロクであった。まさかさっき見たあのハチロクか?溝落としを使ってでも無理矢理振り切ってやる!!「ガリッ」「ガリッ」嘘だろ。まさか溝落としまで決めてくるとは。



ここまで見てきた走り屋の中で、一番かもしれない。くそ。どうやっても振り切れない。そして、遂には、横に並ばれた。「バァン」隣のハチロクが『アフターファイヤー』を起こし、俺を抜いて離していく。俺はアクセルを抜いて、スピードを落とし、路肩にハチロクを止める。「なんだあのハチロクは。」暫くすると、先輩のスープラ(A70)が追いかけてきた。「見たか。今のハチロク。」「えぇ。とんでもないやつが現れましたね。」「拓夢以上のテクを持っている奴は見たことがない。」と言った。



あのハチロク何もんだ?「先輩、追いかけましょう!!」スキール音を立てて、俺のハチロクは走り始める。走ること数分。路肩にハザードを焚く車を見つけた。「ん?あれは.....。間違いない。さっきのハチロクだ。」



エンジンフードを上げて立ち尽くしている女のコを見た。何かエンジントラブルだろうか。俺は少し、離れた場所にハチロクを停め、声をかけた。「どうかしたのか?」俺が声を掛けると、彼女は振り向き俺に言う。「ピストンの動きがおかしかったので停めて診てみたんです。でも、よくわかんなくって。」なるほど、彼女はエンジンの不調でここに停車していたわけか。



「さっきの完璧な慣性ドリフトを決めていたのは君か?」俺は聞いてみた。「はい。何度か練習しているうちにできるようになったんです。」



彼女の名前は桐澤真菜香で20歳だという。「あなたの名前は?」「俺は、神谷拓夢だ。よろしく。」

新たな走り屋の仲間が増えたのだった。

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