第三章 桜燗花街の決闘
【シノプシス】第八回 銀鱗兇娘は桜爛花街に逗留し、怪焔童子を迎え撃つ ノ段
第八回 銀鱗兇娘は桜爛花街に逗留し、怪焔童子を迎え撃つ ノ段
※浪蘭編パート②桜爛花街編。
●銀鱗兇娘、湯屋に逗留中
桜爛花街の湯屋に逗留している烈愁麗。
悪徳商人から巻き上げた銀票を使って湯屋を貸し切りにし、大勢の遊女を呼んで飲めや歌えのどんちゃん騒ぎに興じている。
戒児は遊女たちに可愛がられているが、
性懲りもなく桜爛花街に忍び込み、湯屋に戒児を訊ねてくる飛胡。
「おうおう、派手にやってんな! オレもご相伴にあずかりてえぜ。ところで三次救命の誓いをさっさと終わらせる名案なんだが……」
飛胡は前回の毒を盛るアイデアを修正し、戒児が愁麗の毒味役を買って出て毒に当たればそれは愁麗の命を助けたことになるのではと提案。
「毒味かあ……烈姐姐がさせてくれるかなあ?」
当の愁麗は何も気にせず鯨飲馬食の真っ最中である。今さら毒見役というのも無理があった。
「呑気なもんだ。周りが敵だらけだって分かってんのかね」
飛胡は戒児のために情報を仕入れていた。
今や浪蘭の中にも外にも噂を聞きつけた多数の悪漢共が集まっていて、愁麗の持つ〈神煌龍経〉を奪おうと手ぐすね引いて待ち構えていた。
武威浪ランキングに数えられている悪党の中には前回の悪徳商人のように銀鱗兇娘の標的にされるのではないかと恐れている者もいて手勢を集めている。
桜爛花街は自治特区であり、顔役の莫蓮香主が銀鱗兇娘の逗留を許している限り、浪蘭郡司も手を出せない。
だが桜爛花街を出たとたんに襲われるのは目に見えていた。脱出するには何かしらの方策が必要で、兄の欽成隆がそれを考えているところだという。
「たぶん姐姐は全部承知ですよ。そのうえで……何かを待っているんだと思う」
「ここで待ってれば天雷七星が乗り込んでくると?」
「本命はそれだけど……それだけじゃない気がする」
「ハッキリしねえな。何か気になることでも?」
「白地に赤い半月って、何の旗印か分かります?」
「そいつは玉露峰の紅月院じゃねえか。そういやちょうど来てたな。巡回紅月院が」
街中で巡回紅月院の一団を見かけて以来、愁麗の様子がおかしいことに戒児は気付いていた。
飛胡は常識として知られている範囲で巡回紅月院について教える。
※女性のみで構成される玉露峰の紅月院は〈白地に紅い上弦の月〉の旗印を掲げて龍輿各地を巡回し、無償で治療行為を行う。紅月師の中には武術の鍛錬を積んだ者もいて〈紅地に白い上弦の月〉の旗印を身に着ける。その武功は天雷門にも引けを取らないと言われるが、あくまで自衛のためにしか戦わない。
●丁泰羅が紅月院を訊ねる
浪蘭市街に設営された巡回紅月院の巨大な天幕。
※巡回紅月院は医師の少ない辺境や貧しい村々を回って無償で医術を施す。大都市である浪蘭に立ち寄ったのは資金と物資の調達のため。
紅月師たちが炊き出しをして無料で食事を施している。
ボロ布を纏って変装した丁泰羅は、施しを待つ行列に紛れて天幕に潜入。
巡回紅月院を率いる玉露峰の師傅・
第五星・
「天雷七星に課せられた使命の重さを理解しなさい。迂闊な行動が取り返しのつかない危機を招くこともあると心得るのです」
丁泰羅は先日出会った生意気な紅月師のことを訊ねるが、玉露峰の秘事に当たることと教えてもらえない。
愁麗の居場所は分かっているのでやはり自分が行くと言い張る丁泰羅に、多南はすでに弟子が烈愁麗捕獲に向かったと告げる。
●
桜爛花街の中で突然の爆発が起きる。
それは
※怪焔童子/暴れん坊の武威浪。幼児体型の巨漢。〈金焔功〉の使い手。体内に神気を巡らせると勝手に周囲の金属が加熱されてしまう。直接肌に触れていると本人も火傷するので手に革のグローブを装備して保護している。巨大な
用心棒たちが取り囲むが、武器や身に着けた金属類が高熱を帯びて火傷してしまい近寄ることもできない。
「ウラ~~ッ! 銀鱗……ナントカって蛇お嬢~~! オリと勝負しろや~い!」
「バカが来たぞ」
怪焔童子が真っ赤になった金砕棒をブン投げる。
金砕棒は遊郭の建物に着弾し大爆発。
「訂正。とんでねえバカが来た! 〈怪焔童子〉だ!」
「武威浪名次第七位の!?」
先日の簫兄弟の人形劇で紹介されていたので戒児も知っている。
「銀鱗兇娘対怪焔童子か! うひょー! こいつは面白くなるな」
「面白いもんですか」
怪焔童子の前に飛び出す戒児。
「烈姐姐に何か御用ですか?」
「誰だァ? オメー」
「ええと……」
名乗りを躊躇する戒児に「練習した通りにやれ!」と飛胡。
「しょ……〈小桃鉄心〉戒児と申します」
「なんだとぉ~~」
怪焔童子が戒児に顔を近づけて鼻の穴を広げる。
「ホントだ! 甘ァ~い桃の実の匂いがすんぞ!? オメーが桃の精か!」
「桃の精じゃないですけど……それより勝負しろってどういう理由ですか? 烈姐姐に何か恨みでも?」
「オリは悪党名次で第七位だからよォ~、上位のやつをぶっ倒せば順位が上がるだろォ~~? ついでに秘伝書も手に入れりゃウハウハだぜ~~フヒ~~」
怪焔童子は簫兄弟の人形劇の武威浪ランキングをすっかり真に受けている。
「どうしてもと言うなら僕がお相手をします」
戒児対怪焔童子。
戒児は高速回転する鉄睾で金砕棒を削って穴を開けるものの打ち返される。
鉄球を加熱されてお手玉。
生体磁力で遠隔操作してぶつけるが〈鉄布衫〉で防がれて効果が薄い。
そこへ愁麗が登場。
「〈神煌龍経〉が欲しいんだって? ほ~らよ!」
湯屋の台帳を〈神煌龍経〉の代わりに投げ付ける。
怪焔童子は台帳を受け取るが加熱した金砕棒の熱で燃え上がり、慌てて能力を解除して火を消す。
その隙に愁麗は複数の銀針を怪焔童子の背中に打ち込み、経穴を封じる。
結果、怪焔童子が加熱能力を使うと体内の針も加熱されて悶絶することに。
愁麗は銀鱗双蛇をポンプ代わりに使って放水し、怪焔童子を湯屋の外へ放り出す。
用心棒たちが木製の檻で怪焔童子を捕らえて運び去る。
「私の代わりに戦おうなんて一〇年早いんだよ」
愁麗は自分を訪ねてくる者があれば案内するよう戒児に命じる。
●
怪焔童子よりもさらに巨大な鎧武者(約二・五メートル)が湯屋に現れる。
「烈愁麗はいるか」と問われた戒児は案内するが、愁麗はひと目見ただけでその正体を見抜く。
※鉄観娘/身長二・五メートル、樽に手足が生えたような体型。外見は中華風鎧武者だが外装は飾りにすぎず、本体はリング状の装甲パーツ〈
愁麗対鉄観娘。
正面からのパワー比べは互角。
愁麗は銀鱗双蛇の連打でボコ殴りにして鉄観娘を圧倒。
鎧は砕け散るが、その下から鋼のリングの集合体である正体が露わに。
〈鉄環錠〉を飛ばして愁麗の蛇と身体を拘束する。
鉄観娘の胴体が上下に開き、中の人――
「お久しぶりです。
[第八回・了]
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