第60話 浮気
抜かった……そうだった、璃子は、甲子園の魔物なんてものまで魅了しちまった天使なんだぞ!? 童貞男子を落とすのなんて、一瞬でもあれば充分だったのだ!
許せねぇ……許せねぇよ、マジでこんなの!
俺は、璃子のモチモチほっぺを挟むように両手でモチモチし――そして叫ぶ。
「ふざけるなよ! 璃子! 兄さんは許さないぞ! 俺以外にモチモチアピールするだなんて……浮気だ! いつからそんなモチモチ悪女に……兄さん一筋のモチモチじゃなかったのかよ!」
宇宙一大切な璃子相手とはいえ、いや、璃子だからこそ、許せない。俺だけの璃子の俺だけのモチモチだったはずなのに……!
こんな、こんなの……NTRじゃないか!
しかし、モチモチ浮気女は、まるで開き直ったかのように、カッと目を見開き、
「先に璃子のモチモチを
「言われなくてもそのつもりだ! 絶対俺だけのモチモチにしてやる……! モチモチ! モチモチ!」
「モチモチ!」
欲望のままに、璃子のモチモチほっぺをモチモチしまくる。璃子もとても幸せそうな顔をしていた。モチモチ!
「兄さん」
「モチモチ!」
「兄さん、そんなほっぺモチモチだけで満足なんですか! その程度のモチモチでは、璃子はいつかの他の人のモチモチになっちゃうかもしれませんよ!」
「モチモチ!」
「さぁ、もっと! ほっぺ以外もモチモチしてください! 上半身も下半身もモチモチして璃子のモチモチ処女を奪ってください! モチモチ璃子を兄さんのものにしてください!」
「モチモ――…………モチモチ……?」
「さぁ、早く! あ、でも極厚さんはちゃんと着けてくださいね? あと胸は見ないでください。別に他意はないのですが、胸を外に出すと寒くて風邪を引いてしまうかもしれませんので」
「モチモ…………」
頬をポッと染め、両目をギュッとつむり、両腕をバッと開いて体を差し出してくる璃子。全く意味がわからない。わからなすぎて、ついにモチモチほっぺから手を離してしまった。モチモチ……。
「ほら、遠慮せず! 兄さんのゴツゴツおちんちんに極厚さんを被せて璃子のモチモチヴァージンを、」
「黙れ、この泥棒猫。ソフトボール処女」
「あぁん!? 陥没処女は黙っててください!」
陥没処女の蹴りがソフトボール処女の横っ腹めがけて飛んでいた。が、ソフトボール処女が華麗にそれを避ける。
俺の前で睨み合う、デカ乳輪処女二人。片方は陥没乳首。片方の両乳が陥没乳首。
「久吾を誘惑とか……バッカじゃないの。させるわけないじゃん、そんなこと。あんたの思惑なんて私らにはお見通しなの。久吾もなに乗せられちゃってんの。しかも意味不明な方法で。あとなんかめっちゃ失礼なこと考えてるっしょ」
エスパーかこいつ。
しかし、まぁ、舞香に睨まれてやっと俺にもわかった。てか冷静になれば、エスパーなんかじゃなくても、璃子の
璃子自身それを自覚しているからこそ、とにかく勢いでゴリ押し、いやモチ押しするしかなかったのだろう。モチモチ!
「そういうことだったんだな、璃子。お前は与儀蒼汰を自分に惚れさせて、そして自分を俺に寝取らせることによって、このゲーム内で、サブヒロインNTRを完成させようとしていたんだな……!」
「はい、
「…………」「ばか久吾」
ぐぅっ! やられた! モチモチ妹がこんなに策士だったなんて……!
そして頼むからもっと自分を大事にしてくれ……。
「ま、別にいいけどね」
ムチムチ嫁はため息をつきながらも、冷静な声音で続ける。
「どっちにしろ、その確信があったからこそ、こんな手を使ってきたんでしょ。大方、お父さんから聞き出したんじゃないの、全部。璃子、どうせあんたが監禁してんでしょ、この世界のシナリオライター様を」
「監禁じゃありません。モチモチ監禁です。いわゆる
「相変わらずモチモチの概念が私には理解できてないんだけど」
「モチモチはモチモチです。お父さんも璃子にモチモチ監禁されて嬉しそうにしています」
「……まぁ、この世界がNTRゲームってゆー秘密の根幹を漏らしちゃったのは私らだしね。お父さんも最初は頑張ってたんだろうけど、そこまでつかまれちゃった上で
「詰問じゃありません。モチモチ詰問です。いわゆる誘導尋問です」
「まぁいいや。情報源を奪われちゃったってゆーなら、どうしようもない。ってか大した問題でもない。根本的な話として、情報があろうがなかろうが、あんたに有効な手なんて残されてないんだから」
「…………」
舞香の指摘に、璃子は表情を崩さない。しかしそれは、何も言い返せないが故の、苦し紛れの抵抗のようにしか見えなかった。
舞香の言う通りだ。
自分がサブヒロインの一人だと知られてしまったこと、その上で与儀蒼汰を落とされてしまったこと、この二つに関しては確かに、失敗だった。出し抜かれてしまった。
だが、そこまでだ。それまでの話だ。その二つは、あくまでも最終的なミッションをクリアするための前提に過ぎない。ただの最低条件だ。璃子にはその上で、成し遂げなければいけないことがある。
自分を、誰かに寝取らせること。
しかし、それこそ、俺が絶対にさせてはやらないことだ。
うん。マジでぜってぇに許さねぇ、そんなこと!!
与儀蒼汰だけでなく、そんなのは俺にとっての寝取られだ! NTRはフィクションに限る! 現実での舞香や璃子のNTRなんて絶対に起こさせてやらねぇ!
俺の、俺だけの大事な嫁と妹なんだよ!
そして璃子も、俺以外に興味なんてない。俺以外を愛すことなんてあり得ない。俺以外に体を許そうだなんて思いもしないだろう。
たとえ、果たさなければいけない目的があったとしても――というか、その目的が、俺の一番になることなのだから――俺以外のものになるなんていう手段は、端から存在し得ないのだ。
つまり、残される手段は、俺に自分を寝取らせること――俺に体を捧げることになってしまうわけだ。
そして、もちろん、俺はそんなことはしない。絶対にしない。だって妹である璃子をそんな目で見られるわけがない。血が繋がってなかったとか関係ない。
兄妹として育ってきた璃子と体を重ねられるわけがないんだ……!
それに俺には、舞香という恋人が、婚約者がいる!
「わかってるっしょ、璃子。久吾には私がいるの。血がつながってなかったとはいえ、妹であるあんたに手を出すなんてこと、私のダーリンがするわけないっしょ」
「ああ、俺が舞香を裏切るなんてあり得ねぇ。妻への愛と妹への愛は別物だ」
「ものすごくツッコミどころ満載な兄と姉に璃子は絶望するしかないんですが。そんな十数年間だったんですが」
「それに璃子。これはあんたにとっても痛手だよ。与儀弟君がずっと璃子に惚れたままでいてくれれば、他のサブヒロインに目移りしなければ、ヒロインNTRは永遠に起こらないんだから」
確かに言われてみればその通りだ。こんな天使に一度惚れてしまった以上、他のものに目移りするなんてあり得ないだろう。
璃子をいやらしい目で見るのも許せねぇが、璃子という天使がいながら他に浮気するのも許せねぇ……!
「……そうですか……」
そんな指摘は、しかし璃子自身も充分理解していたのだろう。俺たちを見つめたまま、特に表情を変えることもなく、
「わかりました、ええ、いいです。わたしの企みが舞香ちゃんにお見通し……そんなのは想定の内です。それならそれで、構いません。確かにベストな選択は全て潰されてしまいましたが……わたしにはまだ最後の、奥の手が残されていますから」
「奥の手、だと……?」
「騙されないでよ、久吾。どうせハッタリでしょ」
舞香はそう言うが、証明しようがないのだ。この問題に答えなんて出せない。この世界が終わるまで、この世界を終わらせる方法があるのかないのかなんて、誰にもわからないのだから。
例外があるとするならば――つまり、そんな答えを持っているとするならば、それはこの世界を作り上げた神のみであって。もしかしたら、そんな神ことクソ親父から、璃子は何か重大な情報を入手しているのかもしれない……いや、それはないよな?
万が一そんなもんを父さんが持っていたとして、璃子が死んじまうかもしれないってのに、漏らしたりしないよな……?
……うーん、信用できねぇ……。璃子のモチモチ口車に乗せられてついついお漏らししてそう。
「舞香ちゃんがそう思うんならそれでいいんじゃないですか? さ、兄さん♪ 今日も一緒におねんねしましょ♪」
俺の腕に抱き着いてくる璃子は、やっぱり今日もモチモチで、明日もモチモチなはずで、そしてずっとずっとモチモチであってくれなければ困る。こんなモチモチ天使が死にたがっているだなんて、あまりにもおかしいのだ。
改めて、思う。
璃子に本当に、この世界を終わらせる奥の手があるのかどうかとか、そんな璃子の思惑を防ぐためにどうするべきかとか、そんなことは全部、根本的な話ではないのだ。
辛い現実に向き合っているつもりで、実際には目を背けていた。
主人公キャラのNTRを防ぐだとか、そんなのは上っ面の、対症療法でしかない。俺たちの対策全てが上手くいったところで、何も解決などされはしないのだ。
璃子に、この世界で生きていきたいと、本気で思ってもらう――それだけが、俺たちのハッピーエンドなのだから。
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