第58話 モチモチの向こう側
俺の隣に座るモチモチストーカーこと璃子は微笑んだまま、
「兄さんがやっていたこのゲームが野球ゲームではない=甲子園に行ってもクリアにはならないと知って、動揺してしまいましたが……でも、仕方ないですね! もうわたしや魔物さんにできることは何もありません! わたしたちの完敗です!」
「え……? て、ていうことは、じゃあ……」
「はい♪ 諦めました! だって璃子には寝取られがどうこうとか全くわかりませんし、もうゲームをクリアさせて元の世界に戻るなんてこと、やりようがありません! 死ぬことは諦めるしかありません!」
「ほ、本当か、璃子!?」
「逆にお聞きしますが、兄さん。このモチモチ愚妹が、NTRゲームとかいうガチガチ変態さん
「お、思えない……!」
そ、そうか。そもそもそうだよな。
さっきまでの俺たちの会話がどこまで聞かれちまったのかはわからんが……万が一全部筒抜けだったとしても、「璃子が璃子の手でこの世界を終わらせるための答え」なんてものはどこにもなかったはずだ。
そもそも俺たちが、というかこの世界の誰一人、そんな答えは知らないんだから。璃子は、自分がNTRゲームのサブヒロインだということすら知らないはずなのだから。
つまり、璃子に、打つ手なんてない。
やはりあとは俺が、与儀蒼汰のNTRを防いでいけばいいだけなはずだ。
……ていうか、NTRと言えば。同じくらい、重要な問題があった。まさに俺の人生を左右する、大問題が……!
「な、なぁ、璃子。その……すまなかった。ずっと騙してて……」
出来るだけ深く頭を下げる。申し訳ないという気持ちを表すため――というより、璃子の顔を直視できないからだ。
璃子が息を呑む音が聞こえる。
ものすごく長く感じたが、もしかしたらほんの数秒だったかもしれない間ののち、璃子の、かすかに震えた声が降ってくる。
「……確かに、ショックでした。兄さんに嘘をつかれていたことが。しかも舞香ちゃんと共謀して、二人だけの秘密を共有して、だなんて……わたしだけ
「ごめん! 本当に悪かった!」
「……いえ。どうか頭を上げてください、兄さん」
「璃子……?」
恐る恐る顔を上げると、璃子は、一度深呼吸をしてから、柔らかく微笑み、
「わかっています、わたしにショックを与えないためだったって。甲子園に連れていってくれるというわたしとの約束を、汚したくなかったんですよね?」
「璃子……! わかって、くれるのか……!」
「いや久吾はそんなことより単純に自分がNTR好きのド変態だとバレたくなかっただけっしょ」
「黙れ愚妻」「黙っててください愚姉」
だがしかし、愚乳首の言うこともスルーはできない。璃子にそう思われてしまうことこそを、俺は危惧していたのだから。璃子にバレたらショックを与えて……だとか以前に、そもそも何でバレたら困るようなゲームなんてプレイしてたんだよって話だし。
「璃子は、その、でも……さすがに、引いちまったよな? 大好きな兄さんが、そんなゲームやっていたなんて……嫌いに、なっちまったよな……?」
「なるわけないじゃないですか!! おかしなこと言わないでください! たとえどんな変態さんだったとしても、どんな極厚さんだったとしても、兄さんは兄さんです! わたしが永遠に一番大好きな――兄さんです!」
「璃子……! や、や、や――やったぁあああああああああああああああ!!」
やったぁあああああああああああああああああ! 極厚は今関係ないと思うけどとにかくやったぁああああああああああああああああああああ! 璃子に嫌われてなかったぁああああああああああああああああ!!
「ううぅ……! よがった……! 璃子……っ、よがった……!」
璃子に嫌われてもいなかったし、璃子が死ぬなんてことを諦めてもくれた。
あれ? 何だこれ。じゃあ、結果的に、この世界がNTRゲームってバレたことで問題解決されたってことじゃねーか。むしろバレた方がよかったんじゃねーか。
「いったい何のために俺はずっと、野球ゲームに転生したと信じてる妹に実はNTRゲーだとバレぬよう本気で甲子園目指してたんだ……?」
「うふふ♪」
涙を流しながら呆然とする俺とは対照的に、璃子は口を押さえてお上品に笑い、
「何を言っているんですか、兄さん♪ 逆に言えば、兄さんはもう純粋に野球にだけ集中できるってことじゃないですか♪ 無駄なことなんて一切考えずに、甲子園に行くことだけに全力を注いでください! 璃子は死ぬことはできなくなってしまいましたが、当然、兄さんとの甲子園の約束は大切に思っていますよ! ぜひ璃子を甲子園に連れていってくださいね! 当然それまでは、舞香ちゃんとエッチなこと禁止のモチモチルールも継続です!」
「おう、もちろんだ! 俺が絶対、璃子を甲子園に連れていってやるからな!」
「…………! 兄さん!」
「璃子! モチモチ璃子!」
「はい! モチモチ璃子です! モチモチ!」
「モチモチ!」
熱く抱き合い、体全体でそのモチモチ感を味わう。
モチモチ! モッチモチだ! モチモチーー! モチチーー!
――と、俺がモチモチ妹のモチモチを堪能していると――
モチモチの向こう側にいたムチムチと、目が合ってしまう。
俺の陥没乳首妻が、ものすごくジトーっとした目で、陥没亀頭夫を見つめていた。
「…………」
「モチモチ! 兄さんのお体ゴツゴツ! モチモチとの相性抜群!」
「モ、モチモチ……」
「…………」
俺の腕の中でモチモチきゃっきゃっと、はしゃいでいるモチモチの後ろで、ムチムチが強烈に伝えてくる。めっちゃ目だけで言ってくる。
――あのさ、希望的観測しないって話じゃなかったの? その子がホントに諦めてくれただなんて思ってる? そんなチョロくて都合の良い女だと思う? 私の妹が。
「兄さんのゴツゴツ! 璃子のモチモチ! 合わせてゴツモチ!」
「ゴ、ゴツモ……モチゴツの方が良いかな、兄さんは……」
「モチゴツ! 璃子と兄さんでモチゴツ! モチゴツ!」
「…………」
あーあーあー、わかってるわ! わかってんだよ、そんな風にジト目されなくても!
璃子は俺たちを
わかってるわ、そんなこと!
璃子とモチモチ
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