第47話 まさかのダイジェスト展開

 それからの一か月間は、端的に言って、順風満帆だった。これだけ多くの問題を抱えていながら、大方のことが上手く行っていた。


 まず何よりも野球部についてだが、部員たちは引き続きどんどん筋肉をつけて体を大きくしていった。

 打球の速度、飛距離だけで言ったら、もはやうちが県下ナンバーワンだろう。

 俺の球速もコンスタントに150キロ台が出るようになった。これに甘出し汁による高スピンレートが合わされば、初見の学園生ではまず打てないはずだ。


 野茂についてだが、あの日以来、あの怪しい雰囲気を俺に見せることはなかった。

 右投げはみんなの前で披露し、練習試合でも試してみた。左右ともに高い精度で130キロ台を投げているのはめちゃくちゃ凄いが、それでも俺があの夜に見た剛腕とは程遠い。

 うん、まぁ、さすがに見間違えだったんだよな、あれは。暗いと動きが速く見えてしまうということは起こりうるし、何より疲れていたしな、あん時は。

 まぁ、二番手投手の武器が増えたというのであれば、やはりこれも僥倖ぎょうこうと言うほかないだろう。


 ただし、合宿をしてまで練習時間を増やすというのは、やはりやり過ぎだった。裏目に出た。

 もちろん守備力が向上した選手も多いが、正三塁手の金子が足首を痛めてしまった。あと何か俺と顔を合わせるたび腹も痛そうにしていた。オーバーワークが原因だろう。

 舞香が完治までの上半身メインの筋力強化メニューとリハビリスケジュールを完ぺきに作ってくれたおかげで夏本番までには間に合いそうだが、ヒヤヒヤさせられちまったぜ。

 クソ金子がよぉ。お前のケガのせいで、合宿ねじ込んだ璃子が気に病んだりしたらどうしてくれるんだ。まぁ全く気に病んだりしてなかったが。璃子は俺のことしか見てないからな。


 璃子は道具係を買って出てくれても遠征の際にロジンバッグを忘れてきてしまったりと、おっちょこちょいなところも結構あって、これがまたモチモチ可愛かった。モチかわだった。

 正直、璃子がどんなミスを犯してもどうせ舞香が全部カバーしてくれるから全く問題ないんだよなぁ。ただただ璃子が可愛いだけなんだよなぁ。璃子のミスに対して溜め息つく部員とかいても、俺がガチ切れして部の雰囲気めっちゃ悪くなるだけだしなぁ。そんな時も舞香がちゃんと強めに俺にツッコんで笑いにしてくれるからかえって雰囲気良くなるしなぁ。普段は偉そうだが年下彼女の尻に敷かれて頭の上がらないボスという、憎めないキャラ像が出来上がってるからなぁ。有能。


 そもそもロジンバッグに関しては、俺にはもちろん必要ない。最強の滑り止めがあるからだ。


 どんどんキスが上手くなっていく舞香が、甘出し汁採取の際にも絶妙に調整してくれるようになった。


 俺の精液を前にしてもしっかりと理性を働かせて、射精しそうになったタイミングでピンポイントにストップをかけてくれる。俺の射精に対する嗅覚の鋭さも役に立っているのだろう。採取後も理性を働かせて、1イニングで必要な分はちゃんと俺に渡し、残りの分だけを飲むようにしてくれている。こうやって理性を働かせてくれる舞香のおかげもあって、初めての練習試合以降は一度も暴発することなく最強のチート粘着物質を扱えている。

 舞香も定期的に甘出し汁を摂取することで赤ちゃん欲を制御し、璃子の言いつけ通り、俺とエッチなことはせずにこの夏を乗り切ろうとしてくれている。本当に理性的な女性だ。


 困難を乗り越えて、俺たちはますます強くなっている……!


 もちろん、困難ばかりではない。甘いロマンスだってある。


 俺の仲介のおかげで、生徒会長と与儀兄の仲も良い感じに進展しているようだ。正式に交際し始めるのも時間の問題だろう。

 服越しでも感じ取れるらしい与儀の金玉臭にご満悦の生徒会長は、コンドーム依存症治療回復プログラムも順調に進められているようだ。


 また、俺の要望通り、会計と書記に適当な女子を入れてくれた。オリヴィアさんとやらの妹二人(双子)らしい。姉と同じで綺麗な天然ブロンドらしい。いや、その二人、次回作のために用意されてたNTRヒロインか何かだろ、たぶん。何だこのNTRヒロイン数珠つなぎ。


 与儀のロマンスに嫉妬を覚える部員もいたようだが、舞香がチア部にかけあって練習試合などに応援に来てもらうようになったおかげで、それも解消された。


 恋愛といえば、佐倉宮からの恋愛相談にも舞香が乗ってくれている。

 相も変わらず鈍感な野茂、自分がその野茂に好意を寄せられているとも知らずに、佐倉宮の恋愛奥手っぷりをイジる璃子。ブチ切れそうになっている佐倉宮。上手くなだめてくれる舞香――そんな構図を幾度いくどとなく見てきた。ガールズトークに花を咲かす璃子が可愛かった。


 うん、俺何もやってねぇな。真のラブコメマスターは舞香だったわ。あいつ自分のラブコメは精液飲んでるだけなのに。


 とにもかくにも、多少のゴタゴタはありつつも、やはり大方は順風満帆だと言えるだろう。

 ちなみに父さんは仕事が上手くいかなくて軽く病んでいる。たまに璃子とビデオ通話させてあげてるからたぶん大丈夫だろう。順風満帆だ。




 そして七月中旬。合宿期間も終わり、ついに迎えた、夏の県予選。


 一回戦は長打とフォアボールで初回から大量得点を上げ、守っては先発の野茂が危なげなく投げ切り、結局10-0、五回コールドの大勝。


 ちなみにうちの県では記録員が二人ベンチ入りできるので、他のチームの役割分担と同様、佐倉宮がスコアラー係、舞香が主にベンチ裏などでの雑務係をになっている。雑務係っていうか、実質アレ係だ、うん。俺専用の雑務な。

 とにかく、まぁ、予想通りではあったが、最高のスタートを切れた。


 甲子園まで、あと5勝。


 次の対戦相手は、ついに強豪。第1シード校であり、そしておそらく、甲子園への道のりにおける最大の障壁となるであろう、県内最強のエリート軍団――春の選抜甲子園ベスト8の優勝候補筆頭――作陰学園だ。




 勝ちました。

 ワイが先発完投してホームランも打って、3-2で勝ちました。


 ちなみにスタンドには与儀ママと与儀弟も見に来ていた。

 まぁ与儀は特別目立った活躍をしたわけじゃないが、それでもパスボールはゼロだった。俺がワンバウンドさせてしまったスイーパーも全部体に当てて前に落としていた。生徒会長にプレゼントされたという新しいファウルカップのおかげもあるのだろうが、何よりもやはり、あのミットと共に、厳しい練習に耐えてきた成果だろう。


 久しぶりに会ったらしい母と弟とは三人涙を流しながら抱き合っていた。母親は必死に謝っていたが、与儀は彼女の背中をポンポンと叩き、涙ながらの笑顔を浮かべていた。金玉が臭そうだった。ものすごく金玉が臭そうだと、家族再生の感動的なシーンを眺めながらポニーテール美少女が呟いていた。

 実際試合終わりは一番金玉が臭いだろう。おほ顔を浮かべながら与儀ママに挨拶しに行こうとしていたから、それは止めておいた。感動的なシーンにおほ汁を差したくないというのもあったが、念のため、まだ弟くんには近づかせないでおきたいというのが一番の理由だ。

 まぁたぶん時間の問題で与儀兄とデキ婚とかするだろうし、それから会うのが一番間違いないんじゃなかろうか。


 相も変わらず順調だ。

 佐倉宮は二回戦だというのに号泣していたし、舞香は「ま、あんたが先発したんだから当たり前っしょ。次からはもっと球数減らしなよ?」的なお澄まし顔浮かべながら目を赤くしていたし、スタンドで『兄さん』『単独首位』という応援うちわを振ってくれていた璃子は、あの日とは違って、満面の笑みで俺を祝福してくれた。でももっとちゃんと紫外線対策してほしいとは注意しておいた。モチモチお肌を守らなきゃ……!


 次の三回戦は、投手力はそこそこだが貧打のノーシード県立学園。野茂が完投しても余裕だろう。

 準々決勝からの三試合は全て俺が投げ切るつもりだ。舞香は難色を示しているが、高校野球は一度でも負けたら終わりなのだ。さすがにここで妥協はできない。

 それに、璃子は「全球全力投球で、甲子園まで突っ切ってください!」と応援してくれてるしな!


 絶対俺が舞香と璃子を、甲子園に連れていってやるんだ!

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