第44話 クズ
崩れ落ちる舞香に肩を貸しつつ、俺は考える。
こうなってくると、もしかして。というか、やはり。俺たちのそんな、キャラとの名前や見た目の一致が、転生の原因の一つになってると考えんのが妥当なのか……。
まぁ転生の原因なんてわかったところで特に意味はないのだが。だってもうこの世界で生きていくって覚悟は決まってるし。とっくに。俺だけでなく、舞香と璃子も。
まぁ父さんについては知らんが……って、そうだ。
「親父の名前については? 何で自分の作品の間男校長に自分の名前付けてんだよ。それに、璃子だって何でNTRサブヒロインなんかに。殺すぞ」
パワフル甲子園のキャラについては璃子からの依頼ってことなんだとしても、次回作の後藤豪雪校長と百乃木璃子についてはどう説明する? まさか、これも璃子の要望だっていうのか?
「……それはまぁ、思いついちゃったから、さ。ゲームキャラに家族の名前をつけて欲望発散するという発想を、璃子ちゃんが教えてくれちゃったから、さ……」
「はぁ?」
ここまでの自白の連続で、罪の意識も
だが、もちろん、誤魔化そうったって無駄だ。そんなのを俺の鬼嫁が許すわけがない。
「ひぃっ!? そ、そんな睨まないでよ、舞香ちゃん……あれだよ、璃子ちゃんを
「お父さん……それ以上ホラ吹くなら私も容赦しないよ? おかしーよね。そーゆー動機だったんならエロ校長とエロ校長にエロいことされるキャラにする必要ないよね。朗らかに微笑むわけないよね」
「舞香ちゃんが論理的な賢娘になってる……!」
「そうだぞ、クソ親父。あの舞香にエロ関係でこんな正論を吐かせてしまうだなんて、相当ヤバいことだと自覚した方がいいぞ。さっさと白状して罪を償え。どんな理由だったとしても、感情的に怒ったりなんて絶対しねーから。意味ねーしな」
「そう、だね……分かった。
「死ね!!」
「ぐはっ予想通りっ!」
俺の右ストレートを左頬に食らい、吹っ飛んでいくロマンスグレーのダンディ中年。
「ちょっと久吾! なに利き手使ってんの! 大丈夫!?」
駆け寄ってきて、俺の右手を触診してくれる舞香。顔や声は怒気に溢れつつも、その両手はまるで宝物を扱うかのように、俺の商売道具を労わってくれている。
「大丈夫だ、本気で殴ったわけじゃねーしな」
「もうっ、気をつけてよね、ホントに。こーゆーときは、ほら。こーやってテキトーな刃物とかで刺しとけばいいんだから」
「ちょっと待って舞香ちゃん。カッターを向けないで。二人とも冷静になってよ! たかがゲーム内での話だろう!? しかも名前だけ! 璃香さんの奴、ボクだけ似ても似つかぬハゲデブキャラにしやがって! だいたい舞香ちゃんだって、久吾君とエロいことするキモキモ小説書いてたじゃないか!」
「何で知ってんだ変態オヤジ!」
「舞香、舞香。ほんとに死んじゃうから」
ほぼ反射でカッターを振り下ろそうとした舞香の右腕を、寸前で押さえる。床でへたり込むおっさんの額から血が流れていた。ちょっと間に合わなかった。てへ。
「いや普通に久吾君のパンチの方が百倍痛かったけどね?」
口からも流血しながらおっさんは続ける。てへ。
「まぁ、いいじゃないか、別に。舞香ちゃんが久吾君を好きだったのとかほんとバレバレだったし。久吾君が舞香ちゃんでシコシコしてたのもほんとバレバレだったし」
「舞香。やっぱりこいつを殺そう。今ここで」
「そーだね。知られちゃったからには葬るしかない」
「待って待って待って、待ってってば! え? これは別にボク悪くなくない? 君らが勝手にブラコンシスコン
「本気で心配してくれてるとこ悪ぃが、ヤってるわけねーだろ!」
だが、そうだな。もういい。この機会に言ってしまおう。
こいつだって一応元父親だし、20年間養ってもらったってのは事実だし、報告くらいはしておく義理もあるだろう。
「そうだよ、確かに俺たちはシスコンブラコン拗らせまくってたヤバ兄妹だったが、でも前世では何もしてねーよ! ちゃんと気持ち抑え付けてたわ! そんくらいの倫理観あったんだよ! 俺たちが交際を始めたのはこの世界に転生してからだ! 俺たち結婚します!」
「します。久吾と結婚」
「何だこの兄妹」
うるせぇ、お前のマイキッズだよ。
「ま、別に親父に認めてもらおうだなんて思ってねーよ。俺だってお前が璃子とどうこうだなんて絶対認めねーし。殺すし。この世界でなら血が繋がってないから、とかお前には関係ねーからな? いやマジで。実の娘をそんな目で見てたとか引くわ……」
「いや別に認めるけど、ボクは。久吾君と舞香ちゃんが結婚? うん、まぁ、いいんじゃない? ちゃんと自分らで家族養っていけるようになるまでは避妊だけ……って、ん? 何か違和感あるな、会話に。ん? この世界で、なら……?」
「なに首傾げてんだよ。だって、そうだろ。どうせお前も、前世と違ってここでなら璃子と血が繋がってないから手ぇ出せるとか期待してんだろ。俺も舞香に対してそうだからよくわかる」
「…………。は……? いや、久吾君。君、もしかして……」
なぜか目を見開き、口をポカンと開けた父親は、舞香の方に目をやり、
「なに? 私にも何か言いたいことある? うん、そうだけど。私もこの世界でなら久吾の精液、合法で飲み放題だって歓喜してるけど。なんか悪い?」
なんか悪い。めっちゃ悪い。合法とか違法とかではなく、そんな行為を法律が想定していない。
「え、嘘だよね? マジかよ、君たち……まさか自分らが血の繋がった兄妹だったって、未だに思ってたの……?」
「…………」「…………」
「璃子ちゃんはちゃんと知ってたんだけど。舞香ちゃんと璃子ちゃんは
「…………」「…………」
俺と舞香は顔を見合わせ、どちらからともなくフッと穏やかに微笑み。そして同時に、床のおっさんに蹴りを入れた。
この息の合い方、やっぱ血ぃ繋がってるって。
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