第27話 伏線回収
「あのさ、久吾。私、ずっと考えてたんだけどさ」
ついに耐えられなくなったのか、舞香は照れ隠しのように咳払いをし、話題を転じてくる。
「この転生って、もしかして、こーゆーことだったんじゃないかな。これのためだったんじゃないかな、って」
「これとは」
「だからさ、叶えられちゃってんじゃん。私ら元きょうだい三人が、甲子園で結んだ約束、ぜんぶ。あ、叶えられちゃったってか、まだ、叶えられる条件が揃ったって段階ではあるけど」
なるほど。確かに……うん。確かにそうだ。
元々、いささか不可解な形の転生ではあった。いや転生自体不可解なんだけど、それはそれとして。一貫性がなかった。
俺と舞香は、元からゲーム内に存在していたキャラに、体も精神も入れ替わるという形で転生したのに、璃子だけがそうではなかった。璃子は璃子のまま、この世界に入ってきて。本来ゲームには存在していなかった、山田久吾の妹になってしまった。
ルールが統一されていないように見える。
だが、俺が二人の妹と、甲子園で交わした二つの約束――そのどちらをも同時に叶えさせる――それこそがこの転生の目的であると仮定すれば、矛盾はなくなる。
俺は甲子園に行くために、俺と同名の野球部員に転生し。舞香は俺のお嫁さんになるために、俺と血の繋がらない、同名のヒロインに転生する。璃子は生まれ変わってもまた俺の妹になるために、本来存在しないはずだった妹として、この世界で新たな命を与えられた。
全部、叶ってる。叶えられる。
あの世界では、叶えられなかった。不可能だった。
たとえ俺が野球を辞めず、甲子園に行けていたとしても、何一つ叶えさせてやることはできなかった、大切な二人の願い。
この世界でなら、叶えられる。
俺は、愛する二人を甲子園に連れていって、かけがえのない二つの約束を果たすことができるのだ。
「舞香、これって、一体……」
「魅入られたんだよ、きっと」
舞香は不思議なことを言う。その瞳は子どものようにキラキラとしていて。それは、あの日初めて野球場のスタンドに足を踏み入れ、小さな体で背伸びして、あの神聖なグラウンドを見下ろした瞬間の瞳と、同じように綺麗で。
「久吾が甲子園に魅入られたのと同時に、甲子園もあんたに魅入られたんだ。あんたに、甲子園の土を踏んでもらいたかったんだよ、何をしてでも、絶対」
甲子園には、魔物が棲むと言われている。というか、棲んでいる。俺は、それを目撃した。
舞香の手を握りながら見せ付けられた、日本文理 対 中京大中京の最終回。
璃子の手を握りながら魅せ付けれらた、仙台育英 対 開星の最終回。
神様のイタズラのようなことが俺たちの目の前で起こっていた。あの時は、そんな意地悪な神様の名前なんて知らなかったけど、向こうは、俺のことを知っていたのだ。
魔物が、俺に言っている。
辿り着いてみせろ、と。
「でも、きっとさ、久吾。甲子園の魔物さんも、あんたにそれで、壊れてほしいなんて思ってないよ? だってあんたの野球が見たいから、甲子園に呼んでるんだもん。その先もずっと、続けてほしいに決まってる」
「ああ、そうだな……」
正直、方法はまだ思いつかない。だが、何とかする。何とかしてみせる。
別に投手じゃなくたっていい。内野でも外野でも何でもやる。舞香と璃子を甲子園に連れていった上で、野球を続けて、ずっと二人にカッコいい俺を見せつけ続けてやりたい。
だって、そうしねーと。プロに行けねーと、
「お前を、家族を、養っていけねーもんな」
「……バカじゃん……」
「ああ、バカだぞ。バカだから野球以外じゃ稼げねーし、バカだからお前にずっと支えてもらわねーとまともに野球もできない。お前に家庭に入ってもらって、何とか野球を続けてくってのが、最善だと思う。お前がそれで良ければ……っていうかそうしてくれ。後悔はさせねーから。世界一幸せにしてみせるから」
「……ほんっと、バカすぎ……私も、だけど……」
恋人をまた、きつく抱きしめる。今日はもう何度も抱きしめてきたけど、今までとはまた違う。ようやく、躊躇いを消し去ることができたから。やっと、覚悟が決まったから。
「舞香」
「ん……」
どちらからともなく、唇を合わせる。今日で九回目、人生で十八回目のキス。
一度離して、見つめ合う。
濡れた唇、濡れた瞳。
愛しくて仕方がない。欲しくてたまらない。こいつの、全てがほしい。
思わず、喉が鳴る。目も血走ってしまってると思う。そんな俺を見て、舞香も小さく、か弱く、だけど確かな決意を込めて、頷いてくれる。
いいん、だよな?
さっそくになっちまうけど、やり直しはもう、今ここで、いいんだよな? 止められなくなっちまうかもしんねーけど……いや、いいんだった、それで。
もう俺が、俺と舞香が、止まらなくてはいけない理由なんて、世界からなくなったんだ。俺と舞香の間を、隔たるものはもう、何もない。このまま繋がって、溶け合ってしまっても、誰にも文句は言わせない。
「久吾……っ」
俺は、俺はこいつが――
「好きだ、舞香。世界で一番、お前を愛してる。舞香、俺の嫁になれ」
「うん……なる。久吾のお嫁さんに、なる。好きなの、久吾」
「――――」
もう、止まれない。
再度、舞香の唇を奪い――十九回目、二十回目、二十一回目――何度も何度も、回数を更新する。
俺からだけじゃなく、舞香の方からも記録を求めてきてくれる。二十二回目、二十三回目――必死に俺に抱きついて、必死で俺と交わろうとしてくれている。二十四回目。
ついばむような口付けじゃ我慢できなくて、もっと一つに混じり合いたくて、いつの間にか俺たちは、互いの舌を絡ませていて。戯れる互いの温度と湿度が、漏れる吐息と水音が、さらに俺を昂らせて。俺は、舞香のジャージのファスナーを下ろし、Tシャツの裾から手を入れ――舞香もそれを受け入れるように、ビクンと震えながらも、上目遣いで俺をビュルルルルルッ!
「ぁうぅっ……!!」
「え。は?」
ビュルルルルルッ!ビュルル! ビュル……ッ……ビュッ!! ビュルルルルッ!
「はううぅ……っ!」
「は? は? は?」
ビュル……ビュ…………びゅ……………
「……ふぅ……」
「ふぅ、じゃないんですが。……は? え。え、嘘でしょ?」
「本当です」
本当だった。マジだった。ガチだった。射精だった。本射精だった。いっぱい出た。全部出た。出ちゃった。
うん。そうだった。そうだったわ。止まらなくてはいけない理由、あったんだわ。めっちゃあったわ。めっちゃ止まらなくちゃいけなかったんだわ。試合中だったんだわ。
「……ふぅ…………やっち……やぁっちまったぁああああああああっ!! 出しちまったぁあああああああっ!! めっちゃ気持ちよかったぁあああああああああああっ!!」
俺は、膝から崩れ落ちていた。もう一つ今気付いたけど、そういやここ試合中のベンチ裏ブルペンだった。こんなことしてる場合でも場所でもなかった。
「え。え。え。え? いや……いやいやいやいやいや! 久吾、マジで何やってんの、あんた! 興奮しちゃったんだとしても、止めろし、途中で!」
「だから無理だって言ってんだろ、そんなことぉおおおおおお!! お前は! 男の体のことを! もっと勉強しろ!!」
甘出しできるようになったと言っても、それはあくまでも刺激を完全にコントロールできるという状況下での話だ。端的に言えばオナニー時の話だ。
初回から八回までにしてきたような、舞香と見つめ合って高め合ってからのライトキスみたいに、ちょうど良い感じで調節された刺激を見つけるなんて簡単ではない。
甘出しというのは繊細な技術と緻密な計算が求められる、職人技なのだ。生半可なエロシーンで達成できるようなものではなビュルルルッ……! まだ余韻が続いていた。まだビクンビクン飛び跳ねてる。間男の本射精、マジでやばい。
「ちょ、ちょっと、どうすんのこれ……そ、そそそうだ。とりあえず、それ、ユニフォームとスラパン脱いで、コンドームに溜まったやつを回収しないと……」
俺に比べれば、まだ舞香の方が冷静さを保っているようだ。
確かにこいつの言う通り。俺は今、500ミリリットルの粘着液を、スライディングパンツというピチピチパンツの下で、コンドーム内にぶちまけた状態なのだ。重みと膨らみで、極厚くんがブラブラしている。外れそうになっている。辛うじて、出入り口がカリに引っかかっている状態だ。重力に負け、スラパン内でぶちまけることになってしまうのも時間の問題。大惨事だ。
本来であればここまで八回分の甘出し計240ミリリットルを消費済みのはずなのだが、昂ぶりがエグかったせいか、そんなの関係なくしっかり500ミリリットル以上出ている。とても気持ちかった。
「そ、そうだな、まずはこれを何とかしねーと……って、あ。ダメだ、ヤバい。思った以上に疲労感が……」
何かものすごくダルくなってきた。射精自体で疲れたというより、ここまで密かに蓄積されてきた疲労を、初めて実感してしまったというか。
今まではたぶん、舞香とのキスによる昂揚感&ムラムラのおかげで誤魔化せていただけで。本来なら徐々に強まっていったはずの疲労感がドッと一気に流れ込んできたせいで、実際以上にキツさを感じてしまっているというか……。
射精後の処理するってだけのことが、めちゃくちゃ億劫だ……。
「そんなこと言ってる場合じゃないっしょ! とにかく脱ぐ! 早くしないと……」
「あ、ああ、マジで急がんと、ゴムだけの問題じゃなく、そろそろうちの攻撃が……」
舞香の手助けも借りながら、ベルトを外し、ズボンを脱いでいく。このままだと、必然、俺の射精直後ちんぽを舞香に見られてしまうことになるが……
「ち、違うからな、舞香。射精直後にゴム外すと、ゴムに引っ張られた余り皮が若干戻っちまうってだけであって。しかも精液の粘着性のせいで皮が亀頭に張り付いちまうってだけであって。フル勃起状態ではちゃんと全部剥けてるんだからな? 誤解すんなよ? がっかりすんなよ?」
「時と状況を考えて!? 見栄張ってる場合じゃないでしょ! 被ってる方が可愛くて好きだから安心して!」
「ものすごく安心した」
ものすごく安心したタイミングで、しゃがんだ舞香の手により、俺のスラパンがズリ下ろされる。ウエストゴムに引っかかった勃起亀頭がギュゥーっと下方に押さえつけられ、そして限界まで下ろされたところで、一気にその弾性エネルギーを爆発させた。
「ふぇっ!?」
幼女のような声を漏らす舞香。そのつぶらな瞳の前で、俺の勃起ちんぽがバネのような勢いで飛び出し。そしてその勢いで、先っちょから外れた水風船が、弾け飛んでしまう。
べちゃっ。という音。
幼き頃の夏休み、リトルのメンバーでやった水風船合戦を思い出す。あれは確か、ライトの中島だったか。奴が暴投した水風船が、観戦していた舞香の足元に当たり、小三の俺はブチ切れたんだっけ。舞香は笑っていたけど、俺は妹に少しでも危害を加える奴が許せなかった。
そんな俺が今、舞香のキレイな金髪めがけて、精液満タン水風船を、大暴投してしまった。直撃させてしまった。
「…………」「…………」
あの日との違いは、風船が割れなかったこと。さすが『おかもとスーパー極厚くん』。日本の技術力もまだ捨てたもんじゃない……というのは全く関係なく、単に風船の入り口が結ばれていなかったから、というだけの話だ。
つまり。舞香の頭に乗った極厚くんの、結ばれていない出入り口からは。ドローっとした俺の本気汁が。重力に従って、ダラーっと垂れていき。舞香のプリティな顔面を、大蛇のように伝っていくのだった。
「あ、これ、サンプルCGで見たやつだ!」
セフレヒロインが頭に使用済みゴム乗せて、そこから垂れた尋常じゃない量の精液で顔面真っ白にしてるとか、抜きゲーでありがちなやつだ! このゲームでも百乃木舞香が山田久吾の使用済みゴムを頭に乗せてるCGあった! このゲームのエロシーンなんて絶対再現させてやらんと心に決めてたのに、思わぬ形で再現しちまった!
「す、すまん舞香……。どうしよう、そうだ、とりあえずタオルで、」
「そんな場合じゃないでしょ。れろ」
狼狽することしかできない俺(丸出し・皮被り)に対し、足元から、冷静沈着な声が飛んでくる。
「舞、香……?」
「れろ。ん。ごくん。あんたはもう行って。極厚くんのおかげで、スラパンとズボンは無事。んれろ。早く穿いて、最終回の準備でしょ。ごくん」
「舞、香……」
そのタイミングで、ベンチからのノックが響いてくる。初回以来覗いてくることはなくなったが、佐倉宮からの合図だろう。祢寅学園の攻撃が、ついに終わってしまったのだ。
俺は、最後のマウンドに、向かわなければならない。
「じゅるる。ここは私に任せて。私が何とかする。れろれろ。勝つんでしょ、この試合。甲子園、連れてってくれるための、大事な試合の大事な最終回、エースがいなくてどーすんの。んごくん」
「舞香……っ」
顔面に垂れてくる俺の精液を長い舌で器用に舐め取りながら口の中で転がししっかり味わってから嚥下する舞香はこんな状況でもなお取り乱すことなく俺の背中を押してくれる。
「じゅぞぞぞぞぞぞぞぞっ! ね、久吾。私のこと、お嫁さんに、してくれるんでしょ? やっぱ出したては違う。んっ。行って、久吾。信じてるから。ごきゅんっ」
「舞香……! 悪い、任せた! 愛してるぞ、世界中の誰よりも!」
「うん! 私も! 大好きだよ、久吾!」
顔の精液を粗方飲み干し、今度は地面に垂れてしまった精液を四つん這いになって必死に掻き集める舞香の姿は、まるで甲子園の土を集める高校球児のようであった。
ズボンを穿き、ベンチを経由してグラウンドへと駆ける。太陽が高く昇って、俺たちの頭にその光を降り注いでいた。今日は、今年一番の暑さになることだろう。
夏が、近い。
俺はもう一度、ベンチの方、舞香がいるだろう方向を振り返る。
あいつ……あれ回収して、どうするつもりだ……? この暑さだぞ……?
「……え? あ……! あいつ、まさか……!」
俺の頭脳が、一つの衝撃的な『答え』に到達する。
伏線はずっと、張られていたのだ。
「クーラーボックス……!!」
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