第18話 45万字書いて☆1つしか入らなかったカクヨム小説

「違うから! マジで違うから勘違いしないでよね! 実験のためなんだから! 食べてたとか、璃子の嘘だし! 口の中で転がしてテイスティングノートつけたりとかしてないし!」


 午後三時半。練習前の部室にて。

 俺と二人きりになるや否や、掴みかからん勢いでまくし立ててくる舞香。顔が真っ赤で爆発しそうになっている。テイスティングノートなんて怖すぎるワード、璃子は一度も出していないのに勝手に自白している。


「大丈夫だ、安心しろ。俺はな、舞香。昔からお前のそういう一面を見たときには、ちゃんと忘れてやるようにしてるんだ」


「優しい顔で頭ポンポンすんな! 昔から忘れてやるようにしてる記憶がある時点で全然忘れてないってことじゃん!」


 確かに。言われてみればたぶん大体覚えてるわ。

 自分自身をヒロインにした、実の兄目線の一人称恋愛小説ノート見つけたときには戦慄したわ。璃子に対する「ざまぁ」展開のレパートリーが豊富すぎて震えが止まらなかったわ。実はヒロインと血が繋がっていないことが判明して結婚するというラストには驚愕したわ。

 なに読破してんだ小六の俺。忘れてやる気皆無じゃねーか。


「舞香、アドバイスだがな、ストーリーをひっくり返すようなオチを用意してるなら、伏線や仄めかしみたいなものをちりばめておけよ。唐突すぎるとユーザーや読者に叩かれることになるからな」


「何の話!? 今は久吾の精液の話でしょ!」


「もはやそこは隠す気もないんだな」


「だって! 別にやましいことなんて何もないし! 言ってるっしょ、実験のためだって! 野球に活かせる可能性を探ってたの!」


「精液をどうやって野球に活かすんだよ……。怖えーよ、発想が。重要なのはそれを生成するホルモン量のことであって、放出済みの精液自体を……――」


 言いかけて、俺の頭に、ある考えが思い浮かぶ。


「久吾……? どったの、突然黙りこくって」


 …………これは、もしかして……。いや、ダメ、だよな……? ん? いや、いやいやいや……? え、いける……?


「舞香……俺は、とんでもないことを思いついてしまったかもしれん……」


 まさに天啓に打たれた思いだった。


 これが上手くいけば、俺たちはまた一歩――いや何十歩も甲子園に近づくことになる。

 璃子との約束を果たせるんだ!


「とんでもないこと思いついたって、あんた……ん? 『唐突なオチ』? 『読者に叩かれる』……? きゅ、久吾、あんたまさか……! 私が高校のときカクヨムに投稿していた純愛小説を読んでたの……? ふざけんな死ね! 忘れろド変態!! あ、あの主人公とヒロインの名前はプロット段階であくまで仮としてあんたと私の名前つけといたやつを変更し忘れたまま投稿しちゃったってだけだし! 勘違いすんなし!」


 それは知らねーよ。もう聞いちゃったから忘れねーよたぶん。俺が主人公の小説で読者に叩かれてんじゃねーよ。泣くぞ。

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