第15話 世界観を共有する次回作のNTRヒロイン生徒会長

「よし、じゃあ昨日の作戦会議通り、生徒会長の女を脅すぞ。いいな、舞香」

「もっとちゃんと説明してほしかった」


 翌日の昼休み。

 俺と舞香は校舎二階の生徒会室前に来ていた。


「説明も何も、生徒会長を脅してトレーニング器具を購入させるってだけの話だからな。生徒会予算で」


「それはわかってるけどさ……」


 学園中で恋人だと紹介し回ったことで、午前中はものすごくフワフワとしていた舞香だったが、ここでは一転、不満げな表情を見せている。


 まぁ、気持ちはわかる。NTRゲーのことを知らない舞香からしたら、この作戦には疑問点が多すぎるのだろう。


 まず第一に、生徒会長にそんな権限があるのかという点だ。予算を自由に割り振れるような権利が、一生徒にあるわけないと思ってしまうのも当然だ。

 だが、ある。その権限が。なぜならここはエロゲーだから。生徒会長様の権限は強大である。

 何も、他の部の予算削って野球部に回せってわけでもないしな。トレーニングルームは全運動部共用。どこの運動部も弱小なアホ学園だから、実質的に年中野球部の貸し切り状態にできそうではあるが。ていうか、するが。


 そして、生徒会長にそんな権限があるとして、どうやってそんな権力者を脅すのかというのが、第二の疑問だろう。

 だが、それも問題ない。なぜならここはNTRゲーだから。


「安心しろ、舞香。ちゃんと仕込みは済んでる。ほら見ろ、この盗撮動画」


「元兄で現恋人が当たり前のように盗撮している」


 俺のスマホ画面に映っているのは、教室で座る黒髪ポニーテール女子学生の姿。スクールバッグを漁っていた彼女は、ふと不思議そうに首を傾げ、中から数センチ四方の薄い袋を取り出す。


「コンドームだね」


「そうだ、コンドームだ」


「さすが生徒会長さん、こんな酷い世界においても、ちゃんとしてる人はちゃんとできるんだね、当たり前のことが。ほとんどの人は常識人なんだよね、やっぱ」


「そうはならないんだよな。先日まで俺らが生きてきた世界においては、確かにコンドームはただの管理医療機器に過ぎなかった。が、ここはNTRゲームだ。NTR作品の世界において、コンドームは極めて卑猥なものとして扱われている。コンドームを学園に持ち込むなんて、不良行為に他ならない。生徒たちの規範となるべき生徒会長が校内に持ち込むなどあってはいけないこと。大麻持ち込んだのと同レベルの罪だ。まぁ、だから俺がこっそり仕込んでおいたんだけどな」


「ずっと怖いこと言ってる」


 脅しのネタとしてはこれだけで充分だろう。

 普通に考えればガバガバだ。たとえコンドーム持ち込みが重罪なのだとしても、こんな動画一つだけなら、いくらでも弁解の余地はある。仮に弁解が不可能なのだとしても、口止めの方法は他にも探せる。素直に要求に従って大金を支払う必要などない。


 だが、それらの「普通」は、「普通」の人々にしか当てはまらないわけであって。大多数のモブキャラの常識に照らし合わせただけの「普通」など、NTRヒロインの前では紙クズも同然。


 NTRヒロインと間男キャラの常識は、一般人の理解の範疇には収まらないのだ。


 俺は知っている。公式サイトを見たから知っている。

 この『実況!パワフル系先輩野球部に僕の年上幼なじみ女子マネが……。甲子園に連れていくって約束してたのに……!』には、世界観を共有する次回作が存在するということを。

 同ブランド最新作――『僕を生徒会に無理やり引き込んだ気高き女子生徒会長が変態校長に……。共に学園を変えようと約束してたのに……!』のメインヒロインこそが、この祢寅学園の現生徒会長であることを。


 ちなみに主人公君以外の生徒会メンバーは全員美少女で、全員、変態校長のメス犬おもちゃにされるらしい。クライマックスでの変態が集まる秘密のパーティーで変態おじさんたちにめちゃくちゃにされる生徒会メンバーの姿を撮影するのが主人公君(書記)の仕事になるらしい。公式サイトのサンプルCGで見たので間違いない。


 最新作のストーリーが始まるのは、確かこの数か月後(つまり『実況!パワフル甲子園』のNTRストーリー終了後)になるはずなので、生徒会長さんはまだ堅物男勝り生徒会長のままだ。


 が、本質はNTRゲーのNTRヒロイン。

 エロシーン以外のストーリー内容についてはいちいち調べていないが、どうせその他のNTR抜きゲーと同じだろう。どうせめちゃくちゃ下らない理由で寝取られてる。


 佐倉宮琴那のような身持ちのお堅い大和撫子が、不良野球部のガバガバ脅しにあっさり屈して体を許し、オホ顔ダブルピースを決めてしまう。それがこの世界のNTRヒロインというものだ。


 生徒会長の彼女もまた簡単に「くっ……!」とか言って屈してくれるに決まっている。


 メス犬オホ顔ダブルピースさせられるくらいなら、内部保留を部活動備品に回すくらい、口止めの対価としては安いものだろう。飲ませるのは難しくないはずだ。


「まぁ、任せろって。気になるなら、通話は繋いでおいてやるから、お前は安全圏でゆっくりゆったり盗聴しているといい」

「そんな上手くいくわけないっしょ、さすがに……ダメそうなら無理せず引き下がりなよ?」




「ものすごく上手くいってた」

「な? 言ったろ? めっちゃあっさり行ったろ? これがNTRゲー」


 三分で決まった。普通に弁当食べる時間も余った。今は屋上で舞香特製の弁当をつついている。エロゲだ。そういや屋上で山田久吾と百乃木舞香が駅弁してるエロCGもあったな。


 ――生徒会長の女は一瞬で屈した。

 いきなり訪ねてきた不良と名高い俺に対しても、最初は毅然とした態度を取っていた。が、例の動画を見せるや否や、瞠目して硬直し、大量の汗を流しながら震え始めた。


「こ、これは、私のものではなく、何かの間違いで……ま、まさか貴様、謀ったな……!」みたいなことを言っていた。

 俺が何も言わずにジッと見つめていると向こうから体を差し出そうとしてきた。

 俺の前に跪き、「くっ……! これが目的か……! は、初めてなのに……」とか言いながら涙目で俺のズボンのチャックを下ろそうとしてきた。何だこいつ。


 それを制して、トレーニング機器の購入を要求すると、彼女は目を丸くしていた。呆気にとられていた。「そ、そんなことで許してくれるのか!?」的な顔をしていた。「だがどうせ、この後もどんどん要求がエスカレートしていって、最終的には私を性的に調教し、孕ませるつもりなのだろう!? くっ……!」みたいな顔をし始めたので、そこは丁寧に否定しておいた。


「というわけで、トレーニング環境っつー問題点はさっそく解決できちまったな!」

「まぁ、結果が良かったならそれでいいけど」


 昨晩、舞香に作成してもらった購入リストをそのまま渡し、早急に注文するよう約束させたので時間はかからないだろう。

 舞香がこの世界のフィットネス器具メーカーを調べて、機能性充分かつ即納品できるものをチョイスしてくれたしな! 有能。

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