第8話 兄が転生した間男キャラのセフレキャラに転生する妹

「ちょっとさ……マジで、いやマジで」


 うずくまるように眉間を押さえる舞香。


「寝取られゲームって、どーゆーこと? 寝取られって……いやエロコンテンツを享受するなとは言わないけどさ、何でよりにもよってそんなド変態チックな……あんた、いつの間にそんな性癖を……」


「俺がNTRに目覚めた経緯か。内心下に見てた同期や後輩たちが野球部で活躍しているのを目の当たりにしてだな。俺がいないとダメだと思ってた野球部が『久吾を勇気づける』という御旗の下にむしろ一致団結してそこそこ良いとこまで行ったり、後輩たちに至っては甲子園一歩手前まで勝ち上がったりしてるのを見て、ショックと同時にめちゃくちゃ興奮した。俺が手にするはずだったうちの高校の初出場を、初めての甲子園を、あんな奴らに奪われるんだって。俺の中で、甲子園NTRという新たな概念が生まれたんだ」


「めっちゃ聞きたくなかった。あの子ら、尊敬する久吾先輩のためにってめっちゃ頑張ってたのにそのせいで最悪な概念生み出してた」


「そういうわけで、本来俺が興奮するのは、主人公が下に見てた男に大切な存在を奪われるっていうシチュエーションだけなんだよな。このゲームみたいな、間男が主人公より強者な作品はストライクゾーン外れてるんだ、インハイに。一歩間違えりゃ危険球だ」


「野球の例え使うな、そんなことに。汚すな、私と兄の神聖な思い出を」


「まぁ、だから、こんなゲーム買った覚えないってのは本当なんだよ。ちゃんと吟味してたなら買うはずがない。あいつらが今年も勝ち上がってるの見て、ちょっと野球汚してやりたいって気持ちで開いてはみたけど、まだ序盤しかプレイしてなかったしな」


「序盤しかプレイしてないのに、何でそんな内容に詳しいんだよ」


「運動部NTR抜きゲーなんて全部同じ内容だから」


「暴言だ……知らないけどたぶん暴言だ……」


 いや実際、製作者側も割り切ってるだろうし。公式サイトとかでネタバレしまくってるしな。プレイせずともホームページ流し見するだけでストーリーは一通り把握できたわ。


「え、てかじゃあ、私は?」


 舞香は祈るような面持ちで、声を震わせる。


「さっきのあんたの最悪なストーリー説明に、百乃木舞香の名前がなかったと思うんだけど。二年のマネージャーってことは、そのヒロインの佐倉宮って子の友だち、みたいな……?」


「セフレ」


「せふれ」


「俺のセフレ」


「久吾のせふれ」


「サブヒロイン――とも言えないようなただのエロ要員だな。元々俺に都合の良い穴扱いされてるセフレなんだが、主人公をハメるための罠として利用されることになる」


「ただのエロよういん。久吾のつごうの良いあな」


「部室で野茂誠に迫って、半ば強引にエロいことをする。俺の命令でな。その現場を俺に押さえられて、俺の女に手を出した&部室で不純異性交遊をしたというネタで脅すわけだな。結果として奴には謹慎処分が下る。それに加え、俺にあんな啖呵たんかを切っておいて、自分が一番卑猥で非倫理的なことをしたわけだからな、仲間からの信頼も急落して、居場所を失くしていく。そんな幼なじみを救おうとするメインヒロインは俺との取り引きに嫌々ながらも応じ、体を差し出して……という展開だな」


「なるほど。最後の一文でものすごく飛躍してる。なぜそれで体を差し出してしまうのか」


「NTRゲーだから。説得力のあるストーリーなんて求めてはいけないから」


「果たしてそのストーリーに私という存在は必要だったのか」


「NTRゲーだから。フルプライスのNTR抜きゲーだから。清楚系お姉さん幼なじみヒロインだけだとエロシーンが足りなかったんだろうな。だからギャル系のエロ要員も出して、主人公とのエロシーンや俺とのエロシーンを無理やりじ込んだんだろう」


「久吾とのえろしーん」


 なぜ(元)マイリルシスターはさっきから淡々とリピートアフタミーしているのだろう。


「まぁ、お前が心配していることはわかるぞ、エロ要員。だが安心しろ。山田久吾は俺になったわけだからな。もちろんお前にエロいことなど絶対させん。野球部を強化し甲子園に行くために、エロ展開・NTR展開なんて起こさせない。NTRに繋がるストーリーを俺は既に知ってるんだから、避けるのは難しくないはずだ」


「いや、そうじゃん。てか、それは大前提じゃん!」


 ようやくスイッチが入ったかのように、声を荒らげる舞香。脳がやっと話を理解してきたのか、顔も一気に紅潮している。


「私はね! この際あんたがNTR趣味持ってたとか、別にいいの! しょせん創作物の話だし! お父さんだってエロゲくらい隠し持ってたし。でもね、それを堂々と妹に話せちゃうとこが嫌すぎるの! 恥じれ! 結果的にバレちゃうとかならしょーがないけど、とりあえず隠そうとはしろ! バレないように頑張れ! 悟らせずにエロ展開避けろ! 野球ゲームに転生したと信じてる妹に実はNTRゲーだとバレぬよう本気で甲子園目指せ! それがお兄ちゃんの矜持きょうじってもんでしょ!」


「よくわかってるじゃねーか」


「あぁん!? ぶっ殺すぞ!」


「それだ。俺は最愛の妹――璃子に、この世界がNTRゲーだと隠し通したままで、甲子園に行く。それが、璃子との約束を果たすための条件だ」


「…………っ、……また……」


 璃子は、野球と甲子園と兄と、そして兄との約束を、神聖視している。

 そんな神聖な約束を、穢すわけにはいかない。


 ていうか、うん。


 嫌われたくない!


 NTRエロゲーやってたとかバレたら絶対幻滅される! しかも野球部が舞台の! 璃子が大好きな高校野球穢しまくってる! 璃子の大好きな兄さんが!


 バレるわけにいかない……!


 俺は絶対妹に、ここが野球ゲームだと思い込ませたまま、甲子園に行ってやるのだ!


「そのためには、舞香にもこの世界の真実に精通してもらっていた方が都合がいいだろ? バレたら困るのはもはや璃子にだけだからな。お前にはそこも含めて協力してもらう」


「せいつう」


「それはエロワードではない」


 まぁもちろん、できることなら舞香にだって知られたくはなかった。こいつだって俺の大切な妹だ。

 でも背に腹は代えられん。舞香に璃子は代えられん。

 てか舞香にだったらエロバレくらいいいわ。今更だわ。中学んとき父さんが隠し持ってた自作エロ小説っぽいのでシコってたら、こいつに見つかってぶん殴られたことだってあるし。


 問題だったのは、俺がエロゲキャラに自分の名前を付け、そのセフレキャラに舞香という名前を付けた――そう、勘違いされることのみだった。さすがにそれはダメだ。俺が舞香を性的に見ているだなんて思われるわけにはいかない。


 その誤解が解けた今なら、NTRゲーであること自体はもうどうでもいい。むしろ知っててもらった方がいい。


「というのもな、舞香。『この世界がNTRエロゲーである』という事実は、隠し通さなきゃいけねぇ障害であるのと同時に、俺らの武器にもなり得るんだ。甲子園に行くために、NTRゲーであることを最大限利用してやる。そのためにもやっぱ、お前にはこの最重要の情報を共有してもらいたかったんだ。俺の唯一の協力者としてな」


「久吾の、唯一の、協力者?」


「ああ。これらは全部、俺と舞香だけの一生の秘密だ。絶対誰にも、特に璃子には漏らしちゃいけねぇ」


「久吾と、一生の、秘密の、共有?」


「ああ」


「久吾とのえろしーん?」


「それは今言ってない」


 何か知らんがやっと受け入れてくれる雰囲気になってきた。

 舞香は俺の言葉を噛みしめるかのようにコクリコクリと頷き、


「え、あっ! ちょっと待ってよ!」


「どうした、まだ何か問題が?」


「あんた、じゃあもしかして、私が憑依する前の私、百乃木舞香の裸の絵とか見てるってこと!? キモすぎる!」


 そこかよ。


 真っ赤な顔の舞香は、自分の体を抱きしめて後ずさる。


「まぁ、そりゃ見たけど、公式サイトで。乳輪が小さかった。綺麗なパイパンだった」


「…………!? そ、そんなまさか……もしかして……」


 俺に背を向け、何やらごそごそと自身のブラウスの中を確かめる舞香だったが、


「…………。…………嘘つき! 騙された! デカい! いつも通り! ものすごくデカい! 下は目で確かめるまでもない! 大嘘!」


 はだけた胸元を押さえて、キッとこちらを睨みつけてきた。言いがかりも甚だしい。


「そりゃ体は俺たちのものに丸々入れ替わってるんだから、そうなるだろ。俺だってそうだ。公式サイトで見た山田久吾はズル剥けだったが、今の俺は前の世界と同じで、ものすごく皮が余っている。ものすごく仮性だ。だから安心しろ」


「ものすごく安心した」


 妹はとても穏やかな顔をしていた。

 ものすごく悲しかった。



――――――――――――――――――――

セリフとセリフの間、一行空けしてみたよー! シリアスシーンだから頑張ってみた……!

でもどういうのが読みやすいのか未だによくわからんから、この先もたぶん統一とかはさせないかも。星とハートとコメントとフォローくれ。


2024/08/22 追記:以前のお話も一行空け修正しました^^ 星とハートとコメントとフォローくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る