第10話 快進撃
ダンジョン第二層。
階段を降りて広がるのは、広大な鍾乳洞のような洞窟である。
『うわ、すごいな』
『これは……見事』
リスナーたちが思わず感嘆の吐息を漏らす。
ダンジョン第二層は、まるで別世界だった。
洞窟の壁や床が青白く発光し、視界は十分以上に確保されている。
そして何より目を引くのが、天井から壁、床にかけて、所狭しとひしめくクリスタルの群れだ。
『うおお! なんだこれ!』
『きれい』
『これ全部水晶? 宝石?』
『ガラスだったりして』
コメントも驚きに溢れている。
「まあほとんどはただの水晶だからそこまで価値があるわけじゃないけどね。ごくまれにこれら水晶群に魔石や希少鉱石が入っててそれを狙ってる連中もいるな」
班長が説明する。
「さあ、ワシらの目的は別に鉱物採集ではなく、モンスター狩りだ……! 気張っていくとするか……!」
「「「はい!」」」
班長の号令に、俺たちは揃って返事する。
そして道を進んでいくと……
「む!」
ずしん、と重厚な音を立てて現れたのは……
「ゴーレムか……!」
『うおおお! でっけええええ!!』
『でっか!』
『やべえ』
その大きさは、おおよそ五メートルくらいだろうか。
ずんぐりむっくりした体形で、全身岩のような材質のモンスターだ。
「こいつはゴーレムだな。見ての通り、岩でできたモンスターだ、硬くて強力だぞ」
班長が解説する。
「さぁて……! 今回は皆の衆は阿久羽冬志郎クンとアナト様の活躍を見たいだろうから、ワシラは後方援護に徹させてもらおう……無論ピンチになったら手助けはするが、まずはキミたちの実力を見せて欲しい」
班長の言葉に、俺たちは前に出る。
さあ、ここが正念場だ。ここで活躍して、視聴者の関心を集め、そして会社が俺達を認めざるを得ない状況を作り出す。そのための第一歩だ。
『がんばれー!』
『がんばれ!』
「フフフ、年長者からアドバイスだ。ゴーレムは身体のどこかに「emeth」という魔法文字が刻まれている。これの頭文字であるeを……」
「必要ないわ!」
アナトはそう言って前に躍り出る。
「GAAAAAAA!!」
ゴーレムの拳を華麗にかいくぐり、
「――【
アナトの指先に深紅の電撃が灯り、放出される。それはゴーレムを直撃し――粉微塵に吹き飛ばした。
『えっ』
『え』
『えっ?』
『え?』
『は?』
「……破壊すると真理を意味するemethは死を意味するmethと……」
コメントも班長も呆然としている。いやそりゃそうだ、なんだこの破壊力。
「弱点を攻めるより、全部破壊した方がてっとり早いもの」
……。
こいつ脳筋だな。
『うおおおおおおおおおおお! すげえええ!!』
『やべえ』
『やべええええ!!』
『やばすぎ』
『一撃かよ』
『瞬殺wwwwwwww』
『マジチートやんけ』
コメントは大盛り上がりだ。
「お、おお……さすがはアナト様……いや、さ、さすがですなあ……」
「フフ、もっと褒めてもいいのよ?」
「ふ……フフフ……こいつは当たり……! このようなチート悪魔の恩恵に授かれるとは……なんと僥倖……ククク……!」
邪悪な顔をして笑う班長だった。いや別に文句はないよ。
「さあ! この調子でどんどん行こうじゃないか!」
班長の号令に、俺たちは再び歩き出す。
その後も、ゴーレムやコウモリ型モンスターなど、様々なモンスターと遭遇したが……
「GAAAAA!!」
「【
アナトが一撃で粉砕していく。
「あっストーングリズリーだ!」
「【
「あれは……デーモンビーだ!」
「【
「あれは……ホーンラビットだ!」
「【
…………。
『アナト様強すぎ』
『瞬殺wwwww』
『チート悪魔つよす』
コメントも大盛り上がりである。
いや、確かに強いけど。それに引き換えこの俺の出番の無さよ。
「フフフ……ドンマイ」
何もせずに素材やドロップアイテムゲットでホクホク顔の班長が俺の肩をたたく。
「キミはモンスターテイマーなんだろう? なら使い魔の力はそのままキミの力さ、卑下する事は無い。それにワシは知っておるよ、皆が怯え逃げ惑っていた中、一人だけあのキングトロールに立ち向かったキミの勇気を」
「班長……」
『その通り』
『あそこで立ち向かえる人間そうそういない』
『よくやった』
『えらいぞ!』
「あ、ありがとうございます」
俺は思わず目頭が熱くなった。
「フフフ……そろそろ腹も減ったし戻ろうか。ああそうそう、最後に花を持たせる……というわけではないが、アレをやってみるかね?」
「アレ……とは?」
班長は笑う。
「モンスターテイミング配信だよ」
◇
モンスターテイミング配信。
【モンスターテイミング】スキル持ちか、あるいはスキルカード、テイミングアイテムを持つものがモンスターを捕獲契約する様を配信するもの、だそうだ。
このジャンルは人気であり、モンスターテイミング専門の企業や部署もあるらしい。志波コーポレーションにもテイミングチームは存在するとかなんとか。
テイミングモンスター同士を戦わせたり、品評会を行ったりもあるらしい。
「確かに、気が付いたらアナトと契約していたけど実際にテイミングスキルの契約を使った事は無いんだよな……」
「フフ、ならちょうどいい機会じゃないか。次に出たモンスターとはキミが戦い、テイムするんだ」
「了解っす」
そして俺達は岐路につく。少し進んだところで、地面からモンスターが現れる。
「あ、
「よし今だ冬志郎クン……! あれをテイムして……」
「【
班長が言い終わる前に、早口で叩きこまれた魔法で九つ首蚯蚓は消し炭になった。
「……」
「ねぇマスター」
アナトは笑顔で言った。
「もしかして、アレを、私の、仲間に、しようと、した?」
「してないです」
巨大な九つ首の蚯蚓は彼女のお気に召さなかったらしい。いや、俺だってあれは嫌だって班長に言おうとしたんだよ?
「あれをテイムしてはいけないよ、と言おうとしたんじゃよワシ。さあ、行きましょうか、フフフ……!』
『誤魔化したwwwwww』
『まああれはキツい』
『わかる』
『草』
『ドンマイ』
そして俺達は進む。
うん、契約するモンスターは慎重に選ばないといけないな。
そして一層へと戻る階段へ差し掛かった時――そいつは現れた。
「あ、スライム」
それはスライムだった。何の変哲もないスライムだった。
「ククク……冬志郎クン、あれは狙い目だよ……」
「そうなんすか?」
「ああ、スライムは誰もが知る雑魚モンスター。1レベル探索者でも倒せる……しかしその種類、というか進化の系統は無数……!
スライムブリーダーという職種まであるくらいさ……!
あのぷるぷるぷよぷよした水まんじゅうのような外見はファンも多い……!
そしてスライムは強者には挑まないという習性があるので今の君のレベルなら話しかけるだけで契約できるだろう……!
まさにうってつけ……!」
「なるほど……」
確かに、あのぷるぷるした外見は可愛いし、ペットとして飼うのもありかもしれない。
俺はスライムに近づいた。
その瞬間。
「てけり・り」
スライムが、そう鳴いた。
そして――
その水まんじゅうのような体に幾つもの目玉が浮かび、その身体が破裂した。
いや、破裂したように――見えた。
「う……わっ!?」
広がったスライムの身体が、うねる。それは螺旋を描き回転し――ドリルのようになって、俺に激突した。
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読んでいただいてありがとうございます。
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