第5話 悪魔的名案の誘惑
あの事件から何が変わったかと言うと……実はそんなに変わった事は無かった。
事情聴取で呼び出されて色々と聞かれたわけで、特に「あの悪魔は何だ」「どうやってテイムした」というのが多かった。
いやそもそもこちらが聞きたいわ。記憶に全くございません。
アナトと名乗る悪魔は昔どうこうとか言ってたけど……。
とにかく、それでさんざん問い詰めらたが何の進展も解決も無し。まあ、そもそも俺は居合わせて助けただけだからな。
まさか、助けた女の子があの志波明日葉だとは思わなかったが、よく考えたらあの場所にいる女の子と言ったらそれしかいないか。
さて、そんな社長令嬢の命を救った俺に対する褒賞、なんだと思う?
『500万円の借金追加、日給500円からさらに天引きされるから27年と4か月無給決定』である。
……なんだよこの理不尽は!? ふっざけんなよクソが!
いちおう説明すると、そもそも俺が拾って使用したカードだ。
「スキルアップカードの相場は知っているかね?」
「300万円だ。それくらい貴重なものなのだよ」
「スキルレベルの高いものは、中々レベルが上がらい。そこにあのカードを使えばあっという間に1レベル上昇……素晴らしいアイテムなのだ」
「君のような低レベルのものが容易に使っていいものではない」
「しかも会社の備品、いや財産を無断使用。職務規定違反だ」
「その責任は当然、君の働きでもって償うべきなのだよ」
……とまあ、こんな感じで延々と責められた。
いや、確かにね? あのカードがそんなに貴重品だとは思わなかった。だが命の危険がピンチで危なくヤバかったんだ。そりゃ使うしかないだろうし、使った結果アナト召喚が成功して、あの明日葉という御令嬢の命も助かって万々歳だろう。
だが、クソ女こと志波零里お義姉様は言いやがった。
「あなたは志波家の養子、つまり明日葉ちゃんの義兄よ。兄が妹を助けるのは当然よね、そこに対価を求めるの?」
ああああああああああああああクッソがああああ! 殴りてえ。蹴飛ばしてえ。
何が志波家の養子だ。借金で売られただけの底辺社畜じゃねえか。
そして服務規程違反だかなんだかのうんぬんかんぬん罰金も合わせて、500万円の借金追加。しかもその借金は別口として現在の給料から天引き、つまり色々引かれてての日給500円からさらに引かれて基本の日給が0円無給、それが27年と4か月である。はっはっは笑えねえ。
……そして現在。
俺は借金組の探索者達の社員寮……という名のタコ部屋にいた。
現在の俺のステータスはこうである。
===========
名前:志波冬志郎
レベル:21
職業:探索者
称号:悪魔使い
筋力:18
体力:16
速度:14
魔力:20
幸運:5
スキル:【モンスターテイミング Lv.5】【生存 Lv.2】【魔神の寵愛 Lv.3】
契約モンスター:魔神アナト
===
「……強くなったよなあ」
俺は探索者カードから投影されるステータスウィンドウを見てつぶやく。
流石はキングトロールというべきか、一体倒すだけでこんなにレベルは上がった。マイナスだった幸運もプラスになっている。
だが……
「けどどうすりゃいいんだ、これ」
俺はため息をつく。
そんなつもりはなかったとはいえ、目立ちすぎた。それも悪目立ちだ。
会社の駒どころか底辺のクズの働きアリだと見られている借金組の探索者、それも“養子”が、A級探索者たちを差し置いて本家血族の御嬢様を助け、しかもよりによって配信に映っていたらしい。おかげで心証は最悪である。
これが普通の社員探索者だったら表彰ものだっただろうが……。
実際はこのありさまだ。そして目を付けられただろうから、もう俺は二階層より下にはいけないだろう。そもそも降りるための通行証を買うことすら出来ない。俺の今の全財産は2300円だしな。
一階層でスライムやゴブリンやらといった雑魚モンスターを狩りながらレア素材が出るのを待つだけの日々しか、俺には残されていないというわけだ。
俺、終わった。
……なんてはいそうですかと受け入れるつもりはない。
あんなクソどもの思い通りに何十年もひたすら社畜として働いて借金返すだけの人生なんてまっぴらごめんだ。絶対に俺は……!
「……といっても、どうすりゃいいんだか」
俺は頭を抱える。
そんな時だった。
「フフフ……へたっぴ……! へたっぴだなあ、冬志郎クンは……!」
「!?」
突然、背後からそんな声がして俺は慌てて振り返る。
そこには……小槻班長がいた。
「班長。へたって何がっすか」
「フフフ……これからどうやって稼ごうか考えて、悩んでいるんだろう」
「まあ、そりゃここにいる探索者全員の共通の悩みでしょ」
ここにいるのは債務者や、借金のカタに養子として売られた若者たちばかりだ。
「ああ、そうともそうとも。だから君の苦しみもわかるつもりさ……! だけど君は大変だ、あのように英雄的な行動をしたにも関わらず、いやむしろそうしたからこそ、上に目を付けられた。まともに稼ぐのは超幸運にも一階層で超レアアイテムを幾つも手に入れるという奇跡でも起きない限りは、無茶ってもんだ」
「……」
はっきりと言うな、班長は。
「そう、目を付けられたのさ冬志郎クンは。それほどまでに英雄的な偉業を達成し、目立ちすぎた……!」
「何が言いたいんだよ」
「ククク、まあそういきり立ちなさんな。君に現状を教えてあげようと言うのさ、フフフ」
そして班長はタブレットPCを立ち上げて、画面を俺に見せる。
「……!」
そこにあったのは動画サイトだった。サムネイルには……俺がいた。
「さ……再生数、百二十万……!?」
「ククク……そこだけじゃあないさ。いろんな所で君の動画は切り抜かれ再生されていて、凄いことになっている。今やネットじゃあ君の話題で持ちきりさ」
「……知らなかった」
そもそも俺はスマホを持っていない。そしてこの寮のPCスペースを使う金も無い。ネットとは完全に遮断されていた。いや俺は昭和の人間かっつーの。
「そう、赤毛の悪魔使い阿久羽冬志郎。その名前はもう有名なんだよ」
それは知らなかった。
「フフフ……さて、そんな有名人な君だからこそ、一発逆転のチャンスがある……と言ったらどうする?」
「一発逆転の……チャンス?」
「フフフ……そうともさ。君も配信者になればいいのさ。ダンジョン配信者、ダンジョンを探索してその冒険を、スリルとサスペンスをお茶の間に届ける花形職業さ。
配信チャンネルは収益化するとね、スパチャという……視聴者がお金をくれるシステムがあるのさ。他にも広告収入もあり、人気配信者ほど莫大な収益を得ている……!
そう、君なら有名配信者になれる。そしてその時は今しかない……! 乗るしかないッ、この……ビッグウェーブに……!」
班長は両手を広げて、大げさに言う。
「な……なるほど」
俺はごくりとつばを飲み込む。
配信者か。確かに、その案は悪くないかもしれない。だが……。
「……無理だ。俺は配信機材なんて持ってない……いやダンレコはあるけど、それはまともな配信には向いてないし」
服などにつけられるそれは、隠しカメラみたいなものだ。普通にしているとガタガタ動いてまともに見れるものにはならない。
「それに……」
俺は壁にかけられているパネルを見る。
そこには探索者たちへ提示された購入用目録が掲示されている。
武器防具のレンタル、消費アイテムの購入。
一日外出権、一日休暇権、一日個室権……そう言ったものの中に、配信許可権というものがある。
これを購入すれば、一か月間外に向けて配信が可能というものだ。無論、志波コーポレーションに不利な言動はAIがチェックし、言った瞬間に配信は切られるというものだそうだが。
その価格は……一回五千円、月額パック10万円である。
「金が無くて手が出ない。機材から配信権まで全部揃えようとするとどれだけかかるやら……」
「ククク……その通り。一回だけならともかく収益化ともなると月額パックを買い続けなければならないし、そのためのお金を一階層で集めるにはどれだけかかるやら……そしてそれが出来た時はもう君の名前は過去の物となっているだろうね、そもそも君が目立つことを嫌がってる上の連中が君の配信を認めるとも思えない、ああ八方ふさがりだ……!」
班長はにやりと笑う。
「だが……! それら全てをクリアする、悪魔的名案があるとしたら……冬志郎クン、君はどうする……?」
「悪魔的名案……?」
俺のおうむ返しの言葉に、班長はもったいぶりつつも言った。
「コラボするのさ……! すでに配信者としてそれなりには登録者数もいる、このワシ……ダンジョングルメ道楽者、小槻五郎のチャンネルに、キミがゲスト出演する……!!」
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