●「さみしい魂」に関して

・銀作の故郷 志々間(しじま)の里。名前の由来は沈黙を意味する雅語「しじま」というのが定説だけど、魔を鎮める「鎮魔(しずま)」が訛ったという説もあるらしい。


・小説の登場人物について詰めて考える時、イメージを掴みやすいよう絵に描き起こすことが多いんですが、「さみしい魂」は小説優先で書いていたので、後から絵にしたキャラが多かったりします。

 その前後で一番イメージが変わったのは栄助。

 小説を書いている段階では もっと大柄で ややぬぼっとしたイメージだったんですが、実際絵にしてみるとパッと見の印象が数馬と被りそうだったので、締まった身軽そうな体型に直しました。あとヤンチャで喧嘩っ早いイメージが強くなった気がする(本来は温厚で滅多に怒らない性格)。

 逆に、「怖い先輩」ポジだった佐平と仁太は、ちょっと優しくなったというか、おとぼけ感が出た気がする(仁太は怒鳴ったり殴ったりするわけじゃないけど、小説の方が陰気で近寄りがたいイメージで書いていた)。

 若手マタギ三人衆は、今後シリーズが進んだら再登場する予定です。大分先だけど……


・実は数馬を銀作の「親友」と称するのは、だいぶ違和感があった(「幼馴染」はOK)。正直、銀作は数馬を100%信頼していたわけじゃなかったと思うし、話せないこともいっぱいあったので。

 好きとか嫌いとか感情が乗る前から一緒にいたから、ほとんど家族みたいなもの。

 でも大事には思っていた。


・佐平と仁太は同年で、栄助は彼らより2歳年下。にもかかわらず、この3人は非常に距離が近く、互いにはっきり物を言い合います。

 理由は、彼らが生まれたのが天保の飢饉(天保4年~7年)の真っただ中で、無事に育った同世代が少ないため。

 佐平はこの時の栄養失調がもとで双子の弟を亡くしているため、自分はその分も精一杯生きなければならないという思いが人一倍強い。彼の正義感・責任感が強く熱い性格はここからきています(ただし猪突猛進型で、割とよく暴走する)。

 佐平が暴走気味の時、最初に止めに入るのは主に栄助の役目だが、散々穏やかに説得しようとした末にだいたい取っ組み合いになる。仁太は体格的にも性格的にも喧嘩の仲裁ができるタイプじゃないので、頼れる大人を呼びに行く。


・金熊は玄馬ほど年齢による見た目の変化が大きくないんですが、よく見ると微妙にイメチェンしています。若い頃は結髪・髭無し。銀作が生まれた頃から断髪(特に深い意味はない)し、髭を伸ばし始めます。でも玄馬ほど髭のスタイルにこだわりはなく、伸ばすつもりがうっかり剃っちゃったりしているので安定しない。山入りする時は見苦しくならないように気をつけているが、伸びるのも早いので気を抜くと無精ひげ状態になっちゃったり。


・栄介や佐平は将来太りそうという話をしていましたが、金熊は多分、年取ると痩せそう。ずっと大きいとばかり思っていた背中が、驚くほど小さくなっていることにある日突然気づいて、その背を感慨深げに見つめる銀作がいる。


・「ミナグロ」は実際に秋田マタギの間に伝わる伝説に独自の解釈を加えて描いたもの。

「ミナグロ」は山の神の遣いとされ、ミナグロを獲ってしまったマタギはタテを納める(引退する)よう定められているそうな。

 実際、ツキノワグマの三日月模様の大きさは個体差が大きいらしいので、模様を持たないツキノワグマがいても全く不思議ではないのだろうと思っています。尚、逆に体が真っ白な「ミナシロ」もいるらしい。


・同じく「さみしい魂」の冒頭に登場する「ムササビのごとき小さな生き物」も、秋田マタギに伝わる妖怪「コダマネズミ」の伝説に創作を加えて描いたもの。本来のコダマネズミは人間に出会うと破裂するんですが、ちょっとコミカルな描写を入れたくてアレンジしました。

 コダマネズミにまつわる物語は人情味があってとても好きです。掟は大事だけど、掟に縛られて人の心を失くしてはならないという戒めのお話。


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