9 私が来るまでの経緯
この辺の林の景色は、日本のものとかなり異なっている。
季節のせいか下草が薄めか、ほとんど枯れているか。
何より樹木が日本のものと違っている。幹がボコボコしていて、葉が小さく厚め。
少し移動すると、樹種が変わった。葡萄の実を全部取った残りみたいな、ごちゃっとした何かが枝にくっついている。
何の木だろう。食用になるのだろうか。
『地球のイナゴマメと似た種類です。かつて此処にいた人間からは、甘みの素として採取されていました』
イナゴマメ、何処かで聞いたような気がする。覚えていないけれど。
その甘みの素は、いつ頃収穫出来るのだろう。
『あと1ヶ月半くらいで収穫可能です』
ならその頃、採りに来ればいいだろう。
そう思いつつ、歩いてでは無く、地図上に移動地点を指示するという形で、移動していく。
◇◇◇
野ブドウっぽい蔓も見つけたし、クローバーに似ているけれどもう少し小さく、葉っぱが頑丈そうな下草もあった。
あと柑橘類らしい何かの木もあった。残念ながらまだ実が無かったけれど、種類としてはレモンに近いらしい。
探せば結構食べられるものもあるようだ。
ただし野菜類がどうにも見当たらない。これから夏の乾燥時期になるからだろう。葉っぱ系の野菜が少ないのだ。
採取出来たのは、、全知によると、
○ ウマゴヤシに似た品種
○ スベリヒユに似た品種
○ バジルに似ているけれど、香りが弱い品種
の三種類で、あとは食用に適さないらしい。
たとえば、
○ ローレルに似た香りだけれど、毒があるので食用にしない方がいい木の葉
○ どう見てもヨウシュヤマゴボウで、植物体全体に毒があるが、茎や葉はそこまで毒は強くないので、煮沸すれば食べられる
という感じで。
そしてある程度山の上を目指そうとしたところで、全知からストップがかかった。
『これ以上稜線に近づくと、隣接するミョウドーの地の土地神ナハルに気づかれます。今はナハルに会わない方がいいでしょう』
何故だろう。わからないけれど、取り敢えず稜線から離れた場所へ移動する。
すぐに全知から、追加説明があった。
『ナハルは、かつてフタナジマと呼ばれたミョウドー、ケカハ、セキテツ、トサハタの4領域の支配をもくろみました。そして此処ケカハの神が他世界へと去ったのを機に、ケカハへ侵攻、我が物として、更に沖にあるホノサーも併合しようとしたのです』
おっと、神にも領地争いみたいな事がある訳か。
そんな事を思いつつ、私は全知による説明に耳を傾ける。
『しかし侵攻でミョウドーの地を空けた隙を、トサハタの土地神ガシャールに攻め込まれました。結果、ミョウドーの土地は荒れ果て、人々も去ってしまいました。その後、セート海域の海神とセキテツの土地神アルツァーヤによる調停で、ナハルはミョウドーの地のみの土地神に戻る事となったのです』
元の鞘に収まったという訳か。
ただ土地が荒れて、住民が去ったというのなら、神としてのダメージは大きいだろう。自業自得だけれど。
『ですがナハルは、未だケカハ、及び周辺の他領域への侵攻による支配を諦めていません。土地は荒れましたが、それでもフタナジマの4領域の中では最も気候的に恵まれてもいます』
うんうん、こういう奴ほど己の業を顧みず、他人のせいにするものだ。
きっとそれは、神でも変わらないのだろう。
ただ海神と土地神が裁定したというところに、少しだけ疑問がある。
本来、神々の調停をするのは、もっと上位の神、たとえば維持神とかではないのだろうか。
『シナリスにそういった事を望んでも無駄です。ただこの事態は、シナリスがケカハの土地神を配置しなかった事が原因のひとつです。それをセート海域の海神とセキテツの土地神アルツァーヤが訴えた結果、シナリスも渋々ながら動いて、大西彩花さん、コトーミを他世界から召喚し、新たな土地神とした訳です』
うーむ、私が来る前に、そんな出来事があった訳か。
でもそうなると、ケカハの地をミョウドーより先に発展させて力をつけないと、私がナハルに襲われる可能性がある訳か。
『現在のナハルの力はかなり衰えています。ですから300
なるほど。ならその3柱の神に挨拶しておいた方がいいな。
そしてセート海域の海神とは、間違いなく……
『キンビーラです』
なるほど、ならキンビーラが昨日現れたのは、きっと偶然では無い。
こちらの様子をうかがっていたのだろう。どんな神がやってきたかを確認する為に。
なら他の神にも挨拶した方がいいか、キンビーラに聞いておいた方がいいかもしれない。
とりあえずキンビーラには後も世話になりそうだ。だから付き合いは大事にしておこう。イケメンでもあるし。
取り敢えずは今日のうどん、美味しいのを考えることにしよう。
まだ醤油はないけれど、天ぷらは作れそうだし、出汁もいりこが使えるようになったし。
あまり急速にうどんを発展させると、後でマンネリに苦しむ事になるかもしれないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます