一方その頃、彼女は―― SIDE:新田愛琉
――――SIDE:新田愛琉――――
「み、みんな!お、お待たせしました!」
謎の美少女に連れて行かれたお兄さんを見送った私は、黎ちゃん達が待つお友達宅に到着しました。
「愛琉!待ってたよー!!」
「わふっ!」
ドアを開けると、体に衝撃が走ります。
見ると、見知った顔の女の子が私を抱き締めていました。
「ちょ、陽葵ちゃんー!毎回抱き着かないでくださいっ」
「たはは、ごめんごめん!愛琉って、抱き心地いいからつい♪」
人懐っこい笑みを浮かべて謝ってくるのは、
基本的にノリは軽いですし、髪はピンクに染められて所々にメッシュも入っています。
一見すると取っつきにくいギャルに見えますが、陽葵ちゃんはその見た目に反して相手が本当に嫌うことは絶対にしません。
それに家族思いで、家計を支える(特に二人の妹にいろいろ買ってあげる)ために休日は基本バイトを入れているみたいです。
今時のイケてる容姿だけでなく、家族のために頑張れる優しさも持ってるなんて凄く尊敬します!
今日だって、忙しい中わざわざ時間を作って黎ちゃんのために皆が集まる場所(陽葵ちゃんのお家)を提供してくれました。
「……ん。愛琉、遅い。なにかあった?」
表情はあまり動いていませんが、その口調からはちゃんと私のことを心配してくれている様子が窺えます。
ダウナー系って言うのでしょうか?いつもローテンションで口数も少ないから誤解されることも多いですが、好きなことには饒舌になったり、友達に何かあればいつもいの一番に行動してくれます。
今回だって、黎ちゃんのメッセージに一番最初に反応したのが彼女――
そんな萌花ちゃんは、カーペットの上に置いてあるクッションに顔を埋めながら、両手で携帯ゲーム機を持っていました。
「遅れてごめんね、萌花ちゃん!ちょっとあって……それより黎ちゃんは?」
「あー、黎なら」
そう言って陽葵ちゃんはベッドの方を指差しました。
「……」
そこには、同性でさえうらやむようなスタイルと、艶のある綺麗な黒髪の女の子――水無月黎ちゃんが、いつもの明るい様子とは違い、ズドーンという効果音が見えてきそうなほど沈んでいます。
「……愛琉、来たんだ」
その声も凄く沈んでいて、聞いてるこっちも気持ちが暗くなってしまいそうです。
「で、黎。皆揃ったけど、どうしたの?話したいことがあるって言ってたけど」
陽葵ちゃんが話しを切り出します。
「……ん。黎が突然相談したいとか、はじめて」
萌花ちゃんも同意するように頷きました。
私も二人に続くように、黎ちゃんへと話し掛けます。
「黎ちゃんがあんな風に言ってくるなんて、何かあったんですか?」
「……それは」
答え辛そうな黎ちゃんの様子に、私はふとお兄さんと出会ったことを思い出しました。
「……もしかして、お兄さんと何かありました?」
「――っ!」
私の言葉に黎ちゃんは驚いたようにビクッと震えます。
その後、顔を伏せてしまいました。
「え、ちょ、あの黎が?」
「……衝撃」
私の言葉に陽葵ちゃんと萌花ちゃんも驚いた様子で目を丸くしています。
それもそのはず。
普段学校でも人気者で、成績も優秀。男子にも告白され続けている美少女――黎ちゃん。
そんな黎ちゃんが、実は重度のブラコンであることを私達だけは知っているからです。
「ぅ……その、実は」
そうして黎ちゃんは、昨日何があったのかを私達に話し始めます。
その内容には驚きの連発です。
特に、あのブラコンである黎ちゃんが日頃からお兄さんに酷い対応をしていたと聞いた時は、私達全員声を出してしまいました。
普段の黎ちゃんを知る私達からすれば、お兄さんに対しての行動が照れ隠しや構って欲しいという愛情からくる行為だったと思えます。
ですが、事情を知らないお兄さんからすれば、ただの自分勝手なわがままに思えたに違いありません。
「(……だから、私が「いいお兄さん」って言った時に、あんなにも辛そうな表情をしていたんですね)」
私はあのときの疑問が解けた気がします。
それと同時に、今まで傷付いてきたお兄さんのことを考えると……どうしようもなく、心が痛くなりました。
「(黎ちゃん……お兄さん……)」
私は心の痛みを感じながらも黎ちゃんの話に耳を傾けます。
その後も続く黎ちゃんの告白。
それを聞いた私達はというと――
「それは黎が悪いと思うよ?」
「ん。黎はお兄さんに甘えすぎ。自業自得」
「……黎ちゃん。流石に酷すぎだよ」
満場一致で黎ちゃんをフルぼっこです。
「うぐっ!だ、だって!」
目元に涙を浮かべて反論しようとする黎ちゃん。
「だってじゃないから。ここまで拗らせたのは黎が悪い。お兄さんに全く問題が無かったとは言わないけど、それもこれも黎が素直になってたら変わってたことだし」
「同感……黎、お兄さんのことになるとポンコツ。もう少し自分の行動が相手にどう思われるのか、考えるべき」
「黎ちゃん……流石に今までの行動を擁護はできないよ」
「うっ、ぅう」
またフルぼっこです。
「で、今の黎の話しを聞くに……この集まりはお兄さんのことを慰めて欲しいってこと?」
陽葵ちゃんの言葉。
それを聞いた黎ちゃんは、さっきまでのショックを受けていた様子とは違い、強い意思の宿った瞳で私達を見て――
「――それは違うッ」
ハッキリと否定しました。
「私が間違ってたのは正しいし、慰めてもらって昨日のことを過去にしようだなんて思ってない。ううん、出来るわけない……そんなことをすれば、本当にお兄ちゃんへ顔向けできないから」
そっか。黎ちゃんは起きてしまった出来事を忘れるのでもなく、かといって逃げるでもない。ちゃんと受け止めた上で、お兄さんと向き合っていこうと考えてるんだ。
「ん、ならどうして?」
「お母さんに言われたの……お兄ちゃん近々引っ越すかもしれないって。でも、まだ間に合うからどうしたのかを決めなさいって」
「……黎ちゃんはどうしたいんですか?」
私の言葉に、黎ちゃんは顔を下に向けながら、ゆっくりと何かを確かめていくように言葉を絞り出します。
「私は……お兄ちゃんと仲直りしたい。仮に昔みたいな関係に戻れなくても、今度は今までとは違った関係になって、もっと傍に居たいし居て欲しい……っ」
そう告げる黎ちゃんの必死な表情は、同性である私達ですら見惚れてしまうほどの強い想いと魅力に満ちていました。
「でも……頑張るって決めたけど、どうすればいいのかわからなくて……それにお兄ちゃんは私のこと嫌いだから。もしかしたら、もうどうでも良いって思ってるのかもって考えると……」
再び悲しそうな表情で顔を俯かせる黎ちゃん。
その姿に陽葵ちゃんと萌花ちゃんは何を言えばいいのかわからない様子です。
ですが、私にはある確信がありました。
「黎ちゃん。お兄さんは黎ちゃんのことをどうでもいいなんて思ってないよ」
「え、ちょ、愛琉!」
「……勝手にお兄さんの意思を決めつけちゃダメ」
陽葵ちゃんと萌花ちゃんが慌てて私を止めに入ります。
「――なんで、愛琉にそんなことわかるのよ。いくら友達だからって」
黎ちゃんも先程の沈んでいた表情が嘘のように、その目は怒りに満ちていました。
だけど、私は言葉を続けます。
「――だって私は、お兄さんに黎ちゃんのことを『頼む』って言われましたからっ!」
それから、三人にここへ来る前の出来事を話し始めました。
お兄さんと偶然出会い、話しをして、助けられ、最後には黎ちゃんを任されたことを(ただしあの運転手さんや謎の美少女の一件は秘密にした方がいいと思ったので黙ったまま)伝えていきます。
話しを聞いた黎ちゃんは、頬を赤く染め、まるで恋い焦がれるような表情で遠くを見詰め始めます。
「お兄ちゃんが……私のために……えへへ」
幸せそうにハニカム黎ちゃん。
今まで見たことのない姿に、私も嬉しくなってしまいます。
――だから、つい余計なことまで言ってしまいました。
「はい!彼女を名乗る美少女に引っ張られて一緒の車に乗る前、こうー大きな声で!!」
「――は?今、何て言ったの?」
「ちょっ、うわぁ……愛琉のばかぁ」
「っ、愛琉……それ、地雷」
「え?……ぁ」
二人の焦った声に、私はハッとします。
ギギギという音が聞こえてきそうなほどぎこちない動作で首を動かし、黎ちゃんの方を見ました。
「ふ、ふふ……ふーん、お兄ちゃんに彼女……へー、ふふふ」
そこには先程の恋する乙女顔から一転、般若のような恐ろしい笑みを浮かべた黎ちゃんが立っています。
しかも、心無しが段々と迫って来ている気が!!
「れ、黎ちゃん?」
「――ねぇ、愛琉?」
「は、はぃ」
「お兄ちゃんのことを彼氏だとか戯れ言を抜かして、あまつさえ無理矢理連れて行ったとかいう女について詳しく教えてくれないかなぁ?特に容姿とか喋り方とか距離感とかさ」
顔は笑ってるのに、体中の震えが止まりません。
助けを求めるように二人を見ると、二人は手を合わせて合掌をしていました。
「は、薄情者ですぅぅぅう!!」
「ねぇ、愛琉!私の話しちゃんと聞いてるよね?早く女のことを話してっ!!」
「は、はいぃいいい!!」
真夏の日差しが
「(うぅぅ。それもこれも全部お兄さんのせいですっ!今度会った時は、あの美少女のこととか、お兄さん自身のこととか全部ぜーんぶっ!根掘り葉掘り聞いてやりますからねっ!!)」
胸の内にそんな決意を秘めながら、黎ちゃん達と共にお兄さんへの作戦を立てていくのでした。
――――――――――
春人のあずかり知らぬ所でまた一つ女難の種が芽吹いてしまいましたね(笑)
次回はそんな春人視点に戻ります。
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