第3話

3話「逃亡」


…荷物の支度が終わり、父さんの船が残る港へと向かう。


今日の港は妙に静かだ。…他の船も見られないな、もう漁に出ていったのだろうか?


さて、とりあえずさっさと船に乗って、ここを出なければ。


…周りに人はいないな。

監視カメラ…そんな物はもう知らん、今誰にも止められなければそれでいい。


船に乗り込み、エンジンをかけた。

しっかり動くらしい。

全速力で大陸へと向かう。

…もう、ここにはなんの未練もない。


…あまり、いい思い出なんてなかったな

魔法使いとしてこの国に俺は生まれた。

魔法を使うことができない、それだけは大したことはなかった。


学校ではもちろんいじめなんて当たり前。教師からも差別を受けた。


理由?そりゃ俺が魔法使いっていうだけ。


…まぁ、教育を受けられたって言うだけマシか、役立つものなんて少ししか無かったけど。


一度、学校で怒って魔法を使ってしまったことがある。いや、使ってしまったというより、暴発だろう。


…魔法の使い方なんてまず習わないから。


その後に見えたのは侮蔑の目でも怒りの目でもなかった。


ただ全員が恐怖するだけだった。


少し机を飛ばしただけだったのに。


それからというもの、いじめは無くなったが、教師からめちゃくちゃな待遇を受けた。


まぁ、「犯罪者」だもんな。仕方ないよな。


…思い出すのはやめよう。


向こうでは友達、できるかな。


そんなことを考えるうちに、かなり離れた所まで来た。


ここまで来ればあとは心配いらない。ゆっくりと大陸へ向かおう。


「いたぞ!追え!」


…!?

まさかあの船は…国の…!


マズい、急がないと。


あれ、エンジンが動かない…!?


…!そうか、だから国が作るのは電気製品ばかりなのか…


国で操れるようにプログラムされていたのか…


しくった。国が管理しているのはインターネットの情報統制くらいだけだと思っていた。


マズいマズいマズい!


どんどん国の船が近づいてくる…


…そうだ、俺は魔法使いだろ!


…魔法をどんなふうに使うかだなんて、誰にも習ったことはない。でも理論は母さんや父さんが少し教えてくれた。


脳波で魔法エネルギーを運動エネルギーに変えるんだ…とにかくやるしかない…


動け…動け動け動け動け!


ゴゴゴゴゴゴゴ…


う、動いた!動いたぞ!


奇跡だ…!よし!このまま…


バシャーン!!!!!


波…波だ!まずい、船が転覆する…


そのまま麗也は船から放り出された。


冷たい…苦しい…息…息が…!


そこで麗也の意識は消えていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



一方その頃、功翔の船では乗組員たちが会話をしていた。


「おいおい…波に飲まれちまって見失ったじゃねえかよ!」


「あん?わざと装置で波を起こして転覆させたんだよ、バカ。あんな海の真ん中で転覆したんだ。もうじきに死ぬだろう。」


「…捉えて確実に殺さなくていいのか?」


「一応、表面上は事故死にするんだろ。

ってか魔法使いっつっても魔法なんて使えねぇし十中八九死ぬさ。」


「…ならいいがな。でももしかしたら…なんて考えたら怖くてな」


「まぁな。」

 

「ってか、なんで港を出てすぐに殺さねぇんだ。」


「船を転覆させたところで目立つし、国に戻ってくるかもしれないだろ。」


「そうじゃない、そこですぐ息の根を止めたときの話だ。…例えば銃だのでね。なんなら船に乗る前、家を出てから港までの間のいつでも殺せたろ。まぁ、この国で利用するためにある程度魔法使いを残しておきたいのはわかる…だけど、国を出ようとするやつを生かしておく必要はねぇだろ?」


「国内に証拠は極力残さないんだよ。いくら政府の命令で、相手が魔法使いで、しかも法を破った罪人っつっても人を殺す行為ってのは重いし、後処理もめんどくさいからな。」


「ふーん。そんな事いちいち考えるのは面倒くせぇな。」


乗組員たちは乾いた笑いを洩らした。



3話  終

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コラム

功翔の教育・学校条約(一部抜粋)


第一条

国の子供達の教育者として政府の教育部の者をこれに命ずる。


第三条 

労働者 技術者 開発者などの有用な人材を育成することを学校の意義とし、それに準じた教育を施すようにすること。


第八条

教育者により、魔法に関することや行政に関することを学校における児童・生徒に口外することは禁ずる。この規則を破った者は罪の内容によらず解雇処分・懲役2年の罰とする。


…その他28条


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