第2話
2話「計画」
…国外へ逃げよう。
そう決めた夜が明け、一番に母に話しかけた。
「…母さん、俺…やっぱ国外に行く。」
母は一瞬驚いたが、すぐ優しく自分に声をかけてくれた。
「…麗也、あなたが本当に行きたいなら、行きなさい。私も、あなたがこの国をどれだけ嫌いか理解できるわ。ただね、麗也…絶対に、無理だけはしないで頂戴。私にはもうあなたしか居ないのは、わかっているわね?」
…やっぱり母さんは優しいな、今はこの国で唯一、この国の本質を理解している。
「わかってるよ、母さん。…ありがとう。」
「一ついいかしら。どうやって国外に出ようとしているのかしら?ここから出るのは一筋縄じゃ行かないわよ?」
…確かにそうだ。国民すべての詳細情報を記録して監視しているような国だ。逃れられるかわからない。
ましてや俺は魔法使いだ、詳細は知らないが特殊な管理下にあるらしい。
監視が厳しく、地続きになっている国もない島国から脱出する方法…
輸出・輸入を行う貨物船や飛行機からなら…
いや、それはダメだ。チェックが厳しい。
魔法の運動エネルギー変換…これで空を飛んでくか…?
いや、これもダメ。魔法なんてまともに使ったこともない、いつ途中で落ちるかわからない、危険すぎる。
父さんが生きてりゃ、少しは何か抜け道があったかもしれないけど…
父さん…そうだ、政府の元で働いていた父さん…よく政治の話をしてくれたっけ…この国を変えたいって、よく言ってた…
自分の利益なんかより、家族もそうだし、国民のみんなを本当に思っていた人だった。
そして何より、国の本質を僕たち家族に教えてくれた人だ。
ある時、例の2つの法とその他魔法使いを圧迫している法の撤廃を求めたらしい。
議会でも異例の事態だったらしいが、主に魔法使いである国民やその他の国民からもそこそこの支持を受けた。
…問題はその後、だ。
…ある日のことだ
"不慮の事故"で、亡くなったと、通達が来た。
…何が、"不慮の事故"だよ、このクソッタレが。
そう、父さんはきっと、国に殺された。
…事故の状況、遺体の様子からも、話に聞いた交通事故のようには思えなかった。
法の撤廃も、それ以降一切が話題になることはなかった。
だめだ、今はそんなことを振り返っているヒマはない。
…父さん?…父さん、そうだ!
「大丈夫。母さん、いい考えがあるから心配しないで。」
麗也はこう考えた。
父さんは趣味で釣りをしていた、その熱中ぶりと
言ったら、漁船を自分で買ってしまうほどである。
功翔におけるこういった乗り物たちは国に一つ一つが登録されており、位置情報などのデータが国に届いているが、その厳重さ故に直接的な監視が行われていない。すぐに捕まるなんてことはないはずだ。
それにこの船はうちの家族の所有物だ、船のキーもうちが所有している。自分が乗っても怪しまれないはず…だ。
…国外に出たらすぐ通報されるらしいが、全速力で逃げればなんとかなるだろう。
そして漁船はたいてい深夜に出航する、周囲の目も少い。
…浅はか。この考えはとても浅はかである。第一に魔法使いへの監視とはGPSやその他諸々最新鋭のシステムを備えた完璧なものであった。
だが麗也はここから早く出たい一心であったのだ、そんなことなど考えているヒマはなかった。
「…それじゃあ麗也、今はあなたを信じるわ。あとは…くれぐれも気をつけて、命だけは、絶対に守るのよ。それと、あっちに行ったら携帯で毎日連絡を取ってちょうだいね。…じゃあ、いってらっしゃい。」
泣きそうな顔で母は言う。
正直麗也は、優しい母であるとはいえ、こんな簡単に許可が下りると思っていなかった。
まだ自分の脱出の計画すら話していないのだ、さすがに驚いた。
父も死んでしまい、多少おかしくなっている…のか?いや、それ以上にこの国が異常すぎたのだ。
…母さん、俺は絶対にこの国を変えてやる。
それまで待っててね…
そして麗也は、国を出る準備に取り掛かった
2話 終
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コラム
功翔
功翔とは世界が再建され、人類が十分に発展してからできた国である。
島国であり、元々ある程度他国とは隔たりがあった。
当初は魔法使いへの圧迫はなかったが、人口の比率的には他国と比べても圧倒的に非魔法使いの割合が多かった。
ある時、一部の政治家たちは、「利益を独占するためには魔法が発展する前に魔法の使用を禁ずることが手っ取り早いのでは?」という考えに至った。
人の欲とは怖いもので、それに賛同する政治家も少しづつ増えてゆき、結果的に今のような国家が出来上がったのである。
魔法を禁じたものの、というよりかは魔法が無いからこその発展を果たし、文明の利器はここで復活を遂げることとなった。
そして現在、最も「戦争」という概念を生み出そうとしている国はここと、その他に魔法を禁じた国である。
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