夏祭り

温泉旅館での騒動から数日後、真夏の夜空が街を包み込んでいた。セラフィムとデビルズチャームの面々は、地元の夏祭りに参加することになった。


浴衣姿の6人が、賑やかな祭りの通りを歩いていく。

提灯の明かりが彼女たちの艶やかな姿を柔らかく照らしている。


アリエルは、赤と金の縞模様の浴衣を身にまとい、普段の反抗的な雰囲気とは打って変わって、しっとりとした大人の魅力を漂わせていた。金髪を緩く結い上げ、首筋の白さが際立っている。

「くそっ...この格好、動きにくいな」


セラフィナは、深紫の浴衣に銀の桜の模様が施された、気品溢れる装いだ。長い紫髪を優雅に結い上げ、うなじの曲線が妖艶な印象を与える。

「でも、日本の文化って素敵ね」


ミカは、ピンクの浴衣に白い兎の模様が散りばめられた、愛らしい姿。髪を両サイドで結び、はしゃぎながら歩く姿は、まるで妖精のようだ。

「わぁ!みんな可愛い!」


ルシフェルは、漆黒の浴衣に赤い彼岸花の模様が描かれた、妖艶な装い。赤い長髪を高く結い上げ、細身の体つきが浴衣越しにも分かる。

「人間の祭りか...興味深いわね」


アスタロトは、青と白の縞模様の浴衣を肩から少しはだけて着こなし、反抗的な雰囲気を醸し出している。銀髪を乱雑に整え、首元に付けたチョーカーが印象的だ。

「へっ、案外楽しそうじゃねーか」


ベルフェゴールは、黄色の浴衣に橙色の向日葵模様が描かれた、明るい印象の装い。金髪をツインテールに結い、無邪気に飛び跳ねる姿が目を引く。

「お祭り楽しい!ミカちゃん、一緒に回ろう!」


6人の後ろを、浴衣姿のザカリエルがついてくる。

今日も相変わらずのサングラス姿だ。

「よーし、みんな楽しむぞ!...って、おい、置いてくなよ!」


祭りの屋台が立ち並ぶ通りを、6人は興味津々で歩いていく。


アリエルが、金魚すくいの屋台の前で立ち止まる。

「ふむ...これが噂の金魚すくいか」


ルシフェルも興味を示す。

「やってみる?」


二人は向かい合って、金魚すくいに挑戦する。真剣な眼差しで金魚を追いかける姿は、まるで戦場にいるかのようだ。

しかし、ポイが破れるたびに悔しがる表情は、どこか愛らしい。


セラフィナとアスタロトは、輪投げの屋台で腕を競い合っていた。


セラフィナが優雅に輪を投げる。

「フフ、意外と難しいわね」


アスタロトは挑戦的な笑みを浮かべる。

「へっ、俺様に任せろ」


二人の間で、静かな競争が始まる。時折、手が触れ合うたびに、わずかに頬を赤らめる。


ミカとベルフェゴールは、綿あめの屋台で目を輝かせていた。


ミカが嬉しそうに言う。

「わぁ!雲みたい!」


ベルフェゴールも負けじと声を上げる。

「天界の雲より美味しそう!」


二人は、大きな綿あめを頬張り、顔を寄せ合って笑う。

その姿は、天使と悪魔というよりも、仲の良い少女同士そのものだ。


祭りを楽しむ6人の姿を見て、ザカリエルは満足げに頷く。

「よしよし、これで天使と悪魔の交流も深まるってもんよ」


夜が更けていく中、祭りの舞台では盆踊りが始まった。


アリエルが戸惑いの表情を浮かべる。

「お、おい...これも踊るのか?」


ルシフェルが少し緊張した様子で言う。

「ど、どうやって踊るのかしら」


セラフィナが冷静に言う。

「周りの人の動きを真似ればいいのよ」


アスタロトが肩をすくめる。

「まぁ、やってみるか」


ミカとベルフェゴールは、すでに輪の中に飛び込んでいた。

「わーい!踊ろう踊ろう!」


6人は、おぼつかない足取りで盆踊りの輪に加わる。

最初は戸惑いながらも、次第に楽しさに引き込まれていく。


アリエルとルシフェルは、向かい合って踊る。二人の動きが徐々に息を合わせていき、時折視線が絡み合う。


セラフィナとアスタロトは、隣同士で踊っている。

優雅な動きと荒々しい動きが、不思議と調和している。


ミカとベルフェゴールは、手を繋いで楽しそうに踊り回る。二人の笑顔が、周囲の人々の目も引く。


踊りの輪が大きくなるにつれ、6人の距離も縮まっていく。

天使と悪魔の垣根を越えた友情が、確かに芽生えていた。


踊りが終わり、人々が花火大会の準備で騒がしくなる中、6人は少し離れた丘に移動した。


アリエルが息を整えながら言う。

「はぁ...まさか、こんなに楽しいとは」


ルシフェルも頷く。

「ええ、人間の文化って面白いわね」


セラフィナが付け加える。

「こういう経験も、悪くないわ」


アスタロトが不敵な笑みを浮かべる。

「へっ、たまにはな」


ミカとベルフェゴールは、まだ手を繋いだまま。

「お祭り楽しかったね!」


そこへ、ザカリエルが駆け寄ってくる。

「おーい、花火が始まるぞ!」


6人は、丘の上で花火を見上げる態勢を整える。


最初の花火が夜空に打ち上げられると、6人の目が輝いた。


アリエルが思わず声を漏らす。

「うわ...綺麗だな」


ルシフェルも感嘆の声を上げる。

「まるで、天界の光のよう...」


セラフィナが静かに言う。

「人間って、素晴らしいものを作るのね」


アスタロトも珍しく素直な感想を漏らす。

「悪くねぇな、これ」


ミカとベルフェゴールは、はしゃぎながら花火を指さす。

「わぁ!キラキラしてる!」


花火の光が、6人の顔を柔らかく照らす。

その瞬間、彼女たちの表情は、天使でも悪魔でもない、ただの少女たちのものだった。


アリエルとルシフェルの手が、自然と触れ合う。二人は驚いて顔を見合わせるが、そのまま手を離さない。


セラフィナとアスタロトは、肩が触れ合うほど近くに座っている。二人の間に、静かな温もりが広がる。


ミカとベルフェゴールは、抱き合うようにして花火を見上げている。


ザカリエルは、少し離れた場所から6人を見守っている。

「ふむふむ...これは良い進展だ」


花火が終わり、祭りの喧騒も静まっていく中、6人は帰路につく。


アリエルが空を見上げながら言う。

「なぁ...もう少し、この世界にいてもいいかもな」


ルシフェルも同意する。

「ええ、まだまだ知りたいことがあるわ」


セラフィナが付け加える。

「人間界には、学ぶべきことが多いわね」


アスタロトも珍しく素直な感想を漏らす。

「まぁ...悪くはねぇな」


ミカとベルフェゴールは、まだ興奮冷めやらぬ様子。

「明日も遊ぼうね!」


6人の間に、確かな絆が芽生えていた。天使と悪魔という壁を越えて、彼女たちは新たな友情を育んでいく。


その姿を見守るザカリエルの表情には、少しの安堵と、大きな期待が浮かんでいた。


人間界での冒険は、これからもまだまだ続いていく――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る