天使と悪魔のディナーショー

温泉での騒動が一段落し、6人の少女たちは大広間に集まっていた。

夕暮れ時の柔らかな光が障子を通して差し込み、和の雰囲気を際立たせている。


アリエルは、湯上がりで頬を薄く染め、金髪を乱れたまま肩に垂らしている。

温泉で火照った肌が、まだほんのり赤みを帯びていた。引き締まった体にゆかたがぴったりとフィットし、普段の反抗的な雰囲気とは異なる、柔らかな魅力を醸し出している。


「まったく...あんな騒ぎになるなんてな」


セラフィナは、長い紫髪を丁寧に梳かしながら、優雅な仕草で座っていた。透き通るような白い肌が、ゆかたの襟元からわずかに覗いている。

その姿は、まるで古典的な美人画のようだ。


「でも、意外と楽しかったわ」


ミカは、ピンクの髪を両サイドで結び、はしゃぎながら部屋を走り回っている。

小柄な体つきながら、意外なほどにしなやかな動きが目を引く。


「もう一回お風呂入りたいな~!」


ルシフェルは、赤い長髪を湯上がりタオルで包み、艶やかな肌を露わにしたゆかた姿で座っている。

悪魔の角が隠れているせいか、普段より柔らかな印象だ。


「まさか天使たちと一緒にお風呂に入ることになるなんて...」


アスタロトは、銀髪を乱雑に掻き上げ、ゆかたを肩から少し崩して着こなしている。細身ながらも筋肉質な体つきが、その着こなしに独特の魅力を添えている。


「へっ、案外悪くなかったぜ」


ベルフェゴールは、金髪のツインテールをほどき、髪を下ろした珍しい姿。

幼さの中に垣間見える妖艶さが、より際立っている。


「みんなで入るお風呂、楽しかったね!」


そこへ、ザカリエルが現れた。相変わらずのサングス姿だが、今度は浴衣姿だ。


「よっしゃ!いよいよディナーショーの時間だぞ!」


6人の少女たちは、一斉に顔を見合わせた。温泉での騒動で、すっかり忘れていたのだ。


アリエルが慌てて立ち上がる。

「くそっ!衣装は?曲は?」


セラフィナが冷静に言う。

「リハーサルもしていないわ」


ルシフェルも焦りの色を隠せない。

「どうしましょう...」


ザカリエルは、にやりと笑う。

「心配するな。温泉コラボの続きってことで、浴衣のままでいいんだよ」


「えぇーーー!?」

6人の悲鳴が響く。


しかし、時すでに遅し。

ホールからは、お客さんたちのざわめきが聞こえてくる。


アリエルが深呼吸をする。

「しょうがない...やるしかないか」


ルシフェルも覚悟を決めた様子で頷く。

「ええ、最高のショーにしましょう」


6人は、互いに見つめ合い、軽く頷き合った。天使と悪魔の垣根を越えた絆が、確かに芽生えていた。


ホールに入ると、そこには旅館の宿泊客たちが集まっていた。和風の照明が、幻想的な雰囲気を醸し出している。


ザカリエルが、マイクを手に取る。

「皆様、お待たせいたしました!本日の特別ディナーショーは、天使アイドルグループ『セラフィム』と悪魔アイドルグループ『デビルズチャーム』の奇跡のコラボレーション!」


客席からどよめきが起こる。


「さぁ、それでは始まりますよ!天使と悪魔の湯けむりショータイム!」


スポットライトが6人に当たる。アリエルとルシフェルが前に出て、歌い始める。


アリエルの力強く伸びやかな歌声と、ルシフェルの妖艶で魅惑的な歌声が絡み合う。二人の歌声は、まるで天と地がせめぎ合うかのような迫力だ。


セラフィナとアスタロトは、即興で楽器の演奏を始める。

セラフィナの繊細なピアノの音色と、アスタロトの激しいギターの音が、不思議な調和を生み出している。


ミカとベルフェゴールは、愛らしい振り付けで観客を魅了する。二人の小柄な体が、ステージを軽やかに舞う。


6人の浴衣姿での歌とダンスは、予想外の魅力を放っていた。和の雰囲気と、天使と悪魔という異質な要素が融合し、観客を釘付けにする。


しかし、ショーも佳境に差し掛かったその時...


「きゃっ!」

ミカの背中から、小さな白い翼が突然現れた。


同時に、ベルフェゴールの尻尾も跳ね上がる。


アリエルとルシフェルが慌てて二人の前に立ち、隠そうとする。

しかし、その動きで二人の浴衣が乱れ、思わぬ露出シーンが生まれてしまう。


セラフィナとアスタロトは、必死に演奏を続けながら、状況を収拾しようとする。


観客席からは、驚きの声と興奮の声が入り混じって上がる。


「すごい!リアルな衣装だね!」

「天使と悪魔のコスプレ、完璧だわ!」

「これって、何かの新しいパフォーマンス?」


ザカリエルが、咄嗟に叫ぶ。

「そうです!これこそが天使と悪魔の奇跡のコラボ!超リアルな特殊メイクと衣装で、皆様を天界と魔界の狭間へとお連れします!」


その場しのぎの説明に、観客は大いに盛り上がる。


6人の少女たちは、驚きと安堵が入り混じった表情で顔を見合わせる。そして、意を決したように、最後の歌声を響かせた。


アリエルとルシフェルの歌声が、天界と魔界を繋ぐかのように会場に響き渡る。

セラフィナとアスタロトの演奏が、その歌声を支える。ミカとベルフェゴールは、翼と尻尾を隠すことをやめ、堂々とそれらを披露しながら踊る。


その姿は、まさに天使と悪魔そのものだった。


歌が終わると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


ショーが終わり、6人は再び大広間に集まった。疲れきった様子だが、どこか達成感に満ちた表情を浮かべている。


アリエルが笑う。

「まさか、こんな形でバレずに済むなんてな」


ルシフェルもくすりと笑う。

「本当に奇跡ね」


セラフィナが付け加える。

「観客の想像力に感謝ね」


アスタロトが肩をすくめる。

「人間ってバカだな。でも、それがいいのかもな」


ミカとベルフェゴールは、はしゃいでいる。

「また一緒にやろうね!」


そこへ、ザカリエルが現れる。

「よくやった!これで天界に報告する実績ができたぞ!」


6人は、またため息をつく。しかし、その表情は嫌々というわけでもない。


アリエルが言う。

「まぁ...悪くない経験だったかもな」


ルシフェルも頷く。

「ええ、思いがけない出会いもあったしね」


二人は、ちらりと視線を交わす。そこには、わずかな好意の色が垣間見える。


セラフィナとアスタロトも、なんとなく距離が縮まっているようだ。二人の間で、静かな会話が続いている。


ミカとベルフェゴールは、すっかり親友同士のように寄り添っている。


ザカリエルは、そんな6人の様子を見て、満足げに頷く。

「よしよし、これで天使と悪魔の壁も少しは溶けたかな」


夜が更けていく。月の光が障子を通して差し込み、6人の少女たちを優しく照らしている。


天使と悪魔。相反する存在同士が、思いがけない形で交わり、新たな絆を育んでいく。


彼女たちの冒険は、まだ始まったばかり。

天界に戻る日は、まだまだ遠そうだった。

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