天使と悪魔の湯けむり騒動

朝もやの立ち込める山道を、一台のバスが走っていた。

車内では、天使と悪魔の奇妙な一行が、これから始まる温泉旅館でのディナーショーに向けて移動中だった。


最前列には、派手な銀髪にサングラス姿のザカリエルが座っている。

今日の衣装は、青と黄色のストライプ柄スーツという、目を疑うような組み合わせだ。


「よっしゃ~!温泉旅館、楽しもうぜ!」

相変わらずのハイテンションで、ザカリエルが叫ぶ。


その後ろの席では、セラフィムのメンバーたちが不安そうな表情を浮かべていた。


アリエルは金髪を後ろに束ね、赤のTシャツにジーンズという普段着姿。筋肉質な腕を組んで、眉をひそめている。

引き締まった体つきは、まるでスポーツ選手のようだ。

「まったく...温泉なんかで歌って大丈夫なのかよ」


セラフィナは紫の長髪を優雅に結い上げ、黒のブラウスに白のスカートという大人しめの装い。サングラスの奥の紫色の瞳が、窓の外の景色を冷静に観察している。すらりとした長身で、モデルのような佇まいだ。

「翼が見えないよう気をつけないとね」


ミカはピンクのワンピース姿で、窓の外の景色に目を輝かせている。

小柄な体を乗り出すように座り、はしゃいでいる。愛らしい笑顔と、ふわふわとした雰囲気が、周囲を和ませる。

「わぁ~!温泉楽しみ!天使って温泉入れるのかな?」


その向かいの席には、デビルズチャームのメンバーたちが座っていた。


リーダーのルシフェルは、赤い長髪を高く結い上げ、黒のジャケットに赤のミニスカートという大胆な姿。小さな角が、前髪の間からのぞいている。

魅惑的な曲線美と、凛とした態度が、周囲の視線を釘付けにする。

「私たち悪魔は、お湯に弱いんですけどね...」


ベーシストのアスタロトは、短い銀髪にピアスを多数つけた、パンクロックな出で立ち。黒のレザージャケットに、ダメージジーンズという反抗的な雰囲気を醸し出している。細身ながらも筋肉質な体つきが、ロックな雰囲気を強調している。

「へっ、温泉なんて軟弱なもんだぜ」


末っ子のベルフェゴールは、金髪のツインテールに、ピンクのフリルワンピースという、ミカと似たような可愛らしい姿。

大きな瞳をキラキラさせながら、ミカと一緒にはしゃいでいる。幼さの中にも、悪魔らしい妖艶さが垣間見える。

「温泉!温泉!楽しみだね、ミカちゃん!」


バスが山道を曲がると、霧の向こうに古風な温泉旅館が姿を現した。「もみじ湯」と書かれた看板が、風情ある佇まいを醸し出している。


旅館の入り口では、和服姿の女将が出迎えてくれた。

「ようこそ、もみじ湯へ。ごゆっくりおくつろぎください」


一同が靴を脱いで上がると、畳の香りが鼻をくすぐる。廊下を歩く足音が、木の床をきしませる。


女将が案内してくれた大広間は、天井が高く、大きな窓からは山々の景色が一望できた。


「では、お着替えをなさってください。お風呂は、いつでもご利用いただけます」

そう言って、女将は下がっていった。


ザカリエルが両手を叩く。

「よし!まずは温泉に入って、それからリハーサルだ!」


アリエルが慌てて制止する。

「おい、待てよ!俺たち、本当に温泉入っていいのか?」


ルシフェルも不安そうに言う。

「そうですね...私たち悪魔は、お湯で力が弱まってしまうんです」


セラフィナが冷静に提案する。

「では、交代で入りましょう。天使組と悪魔組に分かれて」


その提案に、全員が頷く。


まず、天使組が温泉に向かう。


露天風呂に足を踏み入れたアリエルは、思わずため息をつく。

湯気に包まれた彼女の肌は、まるで大理石像のように美しく輝いている。

「うわ...これ、気持ちいいな」


セラフィナも珍しく表情を緩める。長い紫髪が湯面に漂い、幻想的な雰囲気を醸し出している。

「確かに...悪くないわね」


ミカは、はしゃぎながら湯船に飛び込む。小柄な体が水しぶきを上げ、その姿は妖精のようだ。

「わ~い!お湯だ~!」


三人が湯船に浸かると、湯気に包まれた彼女たちの肌が艶やかに輝いて見える。アリエルの引き締まった体、セラフィナの優雅な曲線、ミカの愛らしい姿。それぞれの魅力が、湯けむりの中で際立っていた。


ミカがセラフィナに寄り添い、「ねえねえ、セラフィナちゃん。背中流してあげようか?」と甘えるように言う。

セラフィナは少し戸惑いながらも、「...わかったわ」と答える。


ミカの小さな手がセラフィナの背中を優しく撫でると、セラフィナは思わずうっとりとした表情を浮かべる。ミカの手つきは意外なほど上手で、セラフィナの肩の力が徐々に抜けていく。


アリエルはその光景を見て、顔を赤らめながら目をそらす。

「お、おい...あんまりイチャつくなよ」


ミカが無邪気に言う。

「アリエルちゃんも一緒にどう?みんなで背中流し合いっこしよ!」


アリエルは慌てて手を振る。「い、いや、俺は大丈夫だ」しかし、その声には少し迷いが混じっていた。


そんな天使組の様子を、脱衣所から覗き見ていたのは...デビルズチャームの面々だった。


ルシフェルが目を丸くする。彼女の頬が少し赤くなっている。

「あ...あれが天使の姿...」


アスタロトは、少し羨ましそうな表情。目が釘付けになっている。

「へぇ...意外とセクシーじゃねぇか」


ベルフェゴールは、目をキラキラさせている。

小さな体を揺らしながら、興奮を抑えきれない様子だ。

「わぁ~!私も一緒に入りたい!」


そんな彼女たちの後ろから、突然声がした。


「おや?みんなで何をしてるんだ?」


振り返ると、そこには何故かザカリエルが立っていた。

相変わらずのサングラス姿で、今度は派手な赤い浴衣を着ている。


「ひゃっ!」

3人の悪魔少女たちは、驚いて転げ落ちた。


その物音に気づいた天使組が、慌てて湯船から上がる。


アリエルが叫ぶ。

「くそっ!何しに来た!」


ザカリエルは慌てて両手を振る。

「いや、違う!覗いてたわけじゃ...」


しかし、その言い訳も空しく、6人の少女たちが湯船から飛び出してきた。


「覗き魔!」「変態!」「サングラス野郎!」


次の瞬間、ザカリエルは天使と悪魔の共同攻撃を受け、廊下を転がっていった。


「待て!誤解だ!」ザカリエルの悲鳴が響く。


しばらくして、事態は落ち着いた。

ザカリエルは追い出され、6人の少女たちだけが露天風呂に残された。


ルシフェルが提案する。

「せっかくですし、みんなで一緒に入りませんか?天使も悪魔も関係なく」


その言葉に、みんなが驚いた表情を見せる。


セラフィナが冷静に言う。「でも、それは危険じゃないかしら。私たちの正体が...」


アスタロトが口を挟む。「いいんじゃねーか?どうせここには俺たちしかいねーんだし」


ミカとベルフェゴールは目を輝かせている。「うん!みんなで入ろう!」


結局、天使と悪魔たちは、一緒に露天風呂に入ることになった。湯船の中で、お互いに警戒しながらも、徐々に会話が増えていく。


アリエルとルシフェルは、お互いの戦闘経験を語り合い、意外な共通点を見出していた。

二人の引き締まった体が、時折触れ合い、そのたびに微妙な緊張が走る。


セラフィナとアスタロトは、音楽の話で盛り上がっている。優雅な紫髪と反抗的な銀髪が、不思議な調和を見せていた。


ミカとベルフェゴールは、すっかり打ち解けて、じゃれ合っていた。二人の小柄な体が、湯船の中で戯れ、無邪気な笑い声が響く。


湯けむりの中で、6人の少女たちの体が艶やかに輝いている。

天使の柔らかな曲線と、悪魔の妖艶な佇まいが、不思議な魅力を醸し出していた。


しかし、その時だった。


「きゃっ!」

ミカの背中から、小さな白い翼が突然現れた。


同時に、ベルフェゴールの尻尾も跳ね上がる。


アリエルが慌てて叫ぶ。

「おい、翼を出すな!」


ルシフェルも焦る。

「ベルフェゴール、尻尾!」


セラフィナは、周りを確認しながら小声で言う。

「まずいわ...他のお客さんに見られたら...」


アスタロトが提案する。

「おい、湯けむりを濃くしてごまかそうぜ!」


6人は必死に湯けむりを立てようとするが、その騒ぎで水しぶきが飛び散り、さらに大騒ぎになってしまう。


隣の男湯から、ザカリエルの声が聞こえてきた。

「はっはっは!これぞ天使と悪魔の温泉コラボだ!」


アリエルが怒鳴る。

「うるせぇ!隣から聞こえてんだよ!」


騒動は続き、6人の少女たちは翼や尻尾を隠そうと必死だった。


アリエルとルシフェルは、お互いの体を支え合いながら、バランスを取ろうとしていた。

セラフィナとアスタロトは、背中合わせで湯けむりを立てている。ミカとベルフェゴールは、お互いの翼と尻尾を隠し合っていた。


その光景は、滑稽でありながらも、どこか魅惑的だった。


果たして、この奇妙な温泉ショーは成功するのか。

天使と悪魔の秘密は守られるのか。そして、ディナーショーの行方は...。


彼女たちの騒動は、まだまだ続きそうだった。

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