予期せぬ遭遇

真夏の太陽が容赦なく照りつける中、古びた教会の屋根裏部屋では、三人の天使たちが扇風機の前でだらしなく横たわっていた。


アリエルは金髪を後ろに束ね、黒のタンクトップと短パンという最小限の服装で、額の汗を拭っている。

その筋肉質な腕には、いくつかの傷跡が見える。過去の戦いの痕だろうか。


「くそっ...天界にいた時は、こんな暑さなんて感じなかったのになぁ」


セラフィナは長い紫髪を高く結い上げ、薄手の白いワンピース姿で本を読んでいる。サングラスの奥の紫色の瞳が、ページを追うたびにきらりと光る。


「人間の体って、本当に脆弱ね」


ミカはピンクのツーピース水着姿で、床にべったりと寝そべっている。

小柄な体にはかわいらしい天使の羽のタトゥーが背中に描かれている。


「でも、アイス食べられるから良いよね~」


そう言いながら、ミカは口の周りをべたべたにしながらアイスを頬張っていた。


突然、階下から派手な音楽が鳴り響き、三人は飛び上がった。


「なんだよ、今度は!」

アリエルが苛立たしげに叫ぶ。


階段を降りていくと、リビングにはあの派手な出で立ちの男、ザカリエルが立っていた。

今日の衣装は、ネオンピンクのスーツに黄色いネクタイという目を疑うような組み合わせだ。


「よっ!アイドル天使軍団!」

ザカリエルは、相変わらずのハイテンションで三人に挨拶する。


「うるせぇな!こんな暑い日に何しに来たんだよ」

アリエルが眉をひそめて言う。


「ふふ、今日はスペシャルな仕事を持ってきたぜ!」

ザカリエルはニヤリと笑う。


セラフィナは冷ややかな目でザカリエルを見つめる。

「また変なことを企んでいるんでしょう」


ミカだけは目をキラキラさせて、「わぁい!お仕事だ!」と喜んでいる。


ザカリエルは得意げに言う。

「今日は、某有名アイドルグループとのコラボライブだ!」


「はぁ!?」

三人の声が同時に響く。


アリエルが真っ先に反論する。

「おい、待てよ。俺たちまだデビューして間もないんだぞ?有名グループとなんてできるわけないだろ」


セラフィナも冷静に意見する。

「そうね。私たちのレベルでは荷が重すぎるわ」


ミカは相変わらず上機嫌だ。

「えー、でも楽しそう!」


ザカリエルは三人の反応を楽しむように笑う。

「心配するな。相手のグループも新人だ。それに、お前らの実力なら大丈夫さ」


アリエルは疑わしげな表情を浮かべる。

「で、相手のグループってどんなやつらなんだ?」


ザカリエルはニヤリと笑って言う。

「『デビルズチャーム』っていうんだ。悪魔をモチーフにしたグループらしいぜ」


三人は顔を見合わせる。天使の彼女たちと、悪魔をモチーフにしたグループ。なんとも皮肉な組み合わせだ。


「よし、準備するぞ!」

ザカリエルの号令で、三人は渋々準備を始める。


数時間後、ライブハウス「インフェルノ」の楽屋。


アリエルは白と金のツーピース衣装に身を包み、鏡の前で最後の確認をしている。普段の反抗的な表情は消え、真剣な眼差しで自分を見つめている。


セラフィナは黒と紫のゴシックドレスで、エレキギターの調整をしている。長い紫髪が背中で優雅に揺れる。


ミカはピンクのフリフリワンピースで、既に楽屋を飛び回っている。

小柄な体が、まるで蝶のように軽やかに動く。


そこへ、楽屋のドアがノックされる。


「どうぞ」

セラフィナが答える。


ドアが開き、そこには「デビルズチャーム」のメンバーが立っていた。

彼女たちの姿を見て、セラフィムの3人は息を呑んだ。


リーダーらしき少女が一歩前に出る。彼女の名前はルシフェル。

赤い長髪に、黒い革のジャケットとミニスカートを身にまとい、額には小さな本物の角が生えている。背中からは、コウモリのような翼がわずかに覗いていた。


「初めまして、デビルズチャー...」


ルシフェルの言葉は途中で止まった。彼女の瞳が、セラフィムのメンバーを見て驚きに見開かれる。


「ま、まさか...天使!?」


その瞬間、部屋の空気が凍りついた。


アリエルが反射的に身構える。

「くっ...お前ら、本物の悪魔か!」


セラフィナはギターを構え、防御の姿勢を取る。

「まさか、人間界でこんな形で出会うなんて...」


ミカだけは相変わらず上機嫌だ。

「わぁ!本物の悪魔だ!かっこいい!」


デビルズチャームの他のメンバーも、驚きと警戒の表情を浮かべている。


ベーシストのアスタロトは、短い銀髪の間から尖った耳をのぞかせ、鋭い爪をベースの弦に立てる。

「へっ、天使様とご対面か。やれやれ、面倒なことになったぜ」


末っ子のベルフェゴールは、金髪のツインテールを揺らし、背中の小さな尻尾を不安そうに動かす。

「え?天使さん?私たち、戦うの?」


一触即発の空気が流れる中、突然ドアが勢いよく開いた。


「おーい、準備はいいか?」


ザカリエルが顔を覗かせる。

しかし、部屋の異様な雰囲気に気づき、表情を変える。


「おや?なんだこの空気は...まさか」


アリエルが叫ぶ。

「ザカリエル!お前、知ってたのか!?」


ザカリエルは苦笑いを浮かべる。

「いやぁ...まさか本当に悪魔だとは思わなかったんだよ。ごめんごめん」


ルシフェルが困惑した表情で言う。

「ちょ、ちょっと待ってください。私たちは確かに悪魔ですが...戦う気はありません」


アスタロトが付け加える。

「そうさ。俺たちだって、ただアイドルとして活動したいだけなんだ」


ベルフェゴールが不安そうに言う。

「ねぇ、仲良くできないかな?」


セラフィムの3人は、互いに顔を見合わせる。


アリエルがため息をつく。

「まったく...こんな状況になるとは」


セラフィナが冷静に言う。

「でも、考えてみれば私たちも同じよ。人間界で普通に生きたいだけなんだから」


ミカが明るく言う。

「そうだよ!みんなで仲良くアイドル活動しよう!」


緊張が解けていく中、ザカリエルが両手を叩く。


「よし!これで話がついたな。さぁて、ステージの時間だぞ!」


6人の少女たちは、まだ戸惑いを隠せない表情を浮かべながらも、ゆっくりと頷く。


アリエルが言う。

「まぁ...一曲くらいなら、付き合ってやるか」


ルシフェルも微笑む。

「ええ、楽しみましょう」


こうして、天使と悪魔の予期せぬ共演が始まろうとしていた。


ステージに立つ6人。観客の熱気が、彼女たちを包み込む。


アリエルは深呼吸をして、マイクを握る。

「よし、行くぞ!」


音楽が鳴り響き、ライブが始まった。


天使の歌声と悪魔の魅惑的なダンス。

セラフィナのギターとアスタロトのベースが絡み合う。ミカとベルフェゴールのキュートな掛け合いに、観客は熱狂する。


ライブは大成功。楽屋に戻った両グループは、興奮冷めやらぬ様子だった。


「すげぇ...まさかこんなにうまくいくとは」

アリエルが驚きの表情で言う。


ルシフェルも満足げに頷く。

「本当に素晴らしいコラボレーションでしたね」


セラフィナは珍しく微笑んでいる。

「意外と...悪くなかったわ」


ミカとベルフェゴールは既に親友同士のように話し込んでいる。


そこへ、ザカリエルが飛び込んでくる。

「やったぜ、お前ら!大成功だ!」


しかし、その後に続いた言葉に、全員が凍りついた。


「さぁて、次は温泉旅館でのディナーショーだ!」


「えぇーーーー!?」

天使も悪魔も、一緒になって悲鳴を上げた。


アリエルは天を仰ぐ。

「また無茶振りか...」


セラフィナはため息をつく。

「温泉か...翼が見えないよう気をつけないと」


ミカは目をキラキラさせている。

「温泉!楽しみ!」


ルシフェルは困惑した表情。

「私たち...お湯に弱いんですけど」


ザカリエルは相変わらずのハイテンションで言う。

「大丈夫、大丈夫!きっと面白いことになるさ!」


6人の少女たちは、不安と期待が入り混じった表情で顔を見合わせる。

天使と悪魔の奇妙な共演は、まだまだ続きそうだ。


そして、彼女たちの前には、また新たな冒険が待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る