天使アイドル 初Live!
朝日が昇る頃、古びた教会の屋根裏部屋から悲鳴が響き渡った。
「きゃああああ!」
ミカの叫び声に、アリエルとセラフィナが飛び起きる。
二段ベッドの上段で眠っていたアリエルは、慌てて起き上がろうとして頭をぶつけた。
「いってぇ!なんだよ、ミカ!朝っぱらから...」
アリエルが金髪を掻き揚げながら下を覗くと、そこにはミカの姿はなく、代わりに天井にへばりついている小柄な少女の姿があった。
ピンクのパジャマを着たミカが、まるでスパイダー〇ンのように天井にくっついている。
「た、助けて~!降りられないの~!」
ミカのツインテールが重力を無視して上に向かって揺れている様子は、滑稽でありながらも不思議な魅力があった。
セラフィナは、長い紫髪を整えながらため息をつく。
「まったく...夢の中で飛んでいたのね」
アリエルは渋々ベッドから降り、ストレッチをしながらミカの下に立つ。筋肉質な腕を伸ばし、ミカの足首を掴む。
「おい、ミカ。落ちても俺が受け止めるから、力を抜けよ」
ミカは恐る恐る力を抜く。
するとすーっと体が落ちてきて、アリエルの腕の中に収まった。
「ふぅ...ありがと、アリエル」
「ったく、毎度毎度面倒くせーな」
そんな二人のやり取りを、セラフィナは冷ややかな目で見つめている。彼女の紫の瞳には、呆れと微かな愛情が混ざっていた。
「さて、朝食の準備をしましょう。今日はあの人が来るんでしょ?」
セラフィナの言葉に、アリエルとミカは顔を見合わせた。そうだ、昨日突然現れた奇妙な男性、ザカリエルが来る日だった。
三人は急いで身支度を整える。アリエルは黒のタンクトップに赤いチェックのシャツを羽織り、ダメージジーンズを履く。首元には十字架のネックレスが光る。
セラフィナはハイネックの紫のワンピースに黒のレギンス、そして普段からはずさないサングラス。ミカはピンクのフリルブラウスにデニムのショートパンツ、首にはハートのチョーカー。
「よーし、行くぜ!」
アリエルの掛け声で、三人は階段を降りていく。
古い木の階段がきしむ音が、朝の静けさを破る。
教会の台所は小さいながらも清潔に保たれていた。
セラフィナが冷蔵庫から材料を取り出し、手際よく朝食の準備を始める。
アリエルはパンを焼き、ミカはフルーツを切り分ける。
「ね、ね、アリエル。今日のレッスン、楽しみだよね!」
ミカが明るい声で話しかける。
「はぁ?お前な、レッスンって言っても...」
アリエルの言葉が途切れたその時、玄関のドアが大きな音を立てて開いた。
「GООООООD MОRNING!天使アイドル軍団!」
派手な銀髪とサングス、そして原色のスーツに身を包んだザカリエルが、まるでハリケーンのように現れた。昨日と同じ派手な出で立ちに、三人は目を見開いた。
「うっせぇな!朝っぱらからテンション高すぎんだよ!」
アリエルが眉をひそめて叫ぶ。
「まったく...」
セラフィナは冷たい視線を送る。
「ザカリエルさん、おはようございます!」
相変わらずミカだけが笑顔で対応する。
ザカリエルは三人の反応など気にせず、リビングに陣取る。
「さーて、今日は特別な日だぜ!」
「特別って...」アリエルが警戒の目を向ける。
「また変なこと考えてるんじゃないでしょうね」セラフィナが疑いの目を向ける。
「わくわく!」ミカだけがはしゃいでいる。
ザカリエルはニヤリと笑う。
「今日は...お前らの初ライブだ!路上ライブでデビューだ!」
「はぁ!?」
三人の声が響く。
「いや、待て。俺たち、まだ何も準備してないだろ?」
アリエルが必死に食い下がる。
「そうよ。まだ人前で歌えるレベルじゃないわ」
セラフィナも同意する。
「えー、でも楽しそう!」
ミカは相変わらず上機嫌だ。
ザカリエルは三人の反応を楽しむように笑う。
「心配するな。お前らは天使だろ?歌もダンスも天性のもんさ。それに、場所はもう押さえてある」
三人は顔を見合わせる。確かに、天使としての能力はあるが、それでも人前で歌うのは...
「よーし、決まりだな!さっさと支度しろ!」
ザカリエルの一方的な決定に、アリエルとセラフィナはため息をつく。
数時間後、繁華街の一角。
ザカリエルが用意した小さなステージの前に、三人の天使アイドルが立っていた。
アリエルは白と金のツーピース衣装に身を包み、首元のマイクを調整している。セラフィナは黒と紫のゴシックドレスで、エレキギターを手に持っている。ミカはピンクのフリフリワンピースで、笑顔を振りまいている。
「お、おい...マジでやるのかよ」
アリエルの声が震える。
「仕方ないわね...」
セラフィナも諦めの表情。
「楽しもう!」
ミカだけが元気いっぱいだ。
ザカリエルがマイクを手に取る。
「さーて、みなさん!新人アイドルグループ『セラフィム』のデビューライブ、始まるよー!」
その瞬間、アリエルの背中から白い羽が生えかけた。
「うわっ!」
慌てて抑え込む。セラフィナが冷たい視線を送る。
「危なかったわね」
ミカは気づかない様子で、既に観客に向かって手を振っていた。
「こんにちは〜!セラフィムです!」
少しずつ人が集まってきた。好奇心旺盛な通行人たちが、この奇妙なグループに興味を示し始める。
「よーし、行くぜ!」
アリエルが深呼吸をして、マイクに向かって歌い始める。
その瞬間、彼女の歌声が街に響き渡った。天使の歌声は、まるで魔法のように人々を惹きつける。セラフィナのギターの音色が、アリエルの歌声を引き立てる。ミカのダンスは、重力を無視したかのような優雅さで観客を魅了する。
あっという間に、大勢の人が集まってきた。歓声が上がり、携帯電話のカメラが光る。
ザカリエルは満足げに笑みを浮かべている。
「やれば出来るじゃねーか」
しかし、ライブも佳境に差し掛かったその時...
「キャー!あの子、浮いてる!」
観客の一人が叫んだ。ミカが興奮のあまり、少し宙に浮いてしまったのだ。
アリエルとセラフィナは顔を見合わせる。
「やべぇ...」
ザカリエルは慌てて前に出る。
「いやー、すごいダンステクニックでしょ?まるで浮いているみたい!」
必死のフォローに、観客は半信半疑の表情。
三人の天使たちは、冷や汗を流しながらもなんとかライブを続ける。歌い終わると、大きな拍手が沸き起こった。
「ありがとうございましたー!」
三人が深々と頭を下げる。
ライブ終了後、その場を逃げるようにザカリエルの運転するハイエースに乗り込む3人。
「ふぅ...なんとかなったな」
アリエルがペットボトルのスポーツドリンクを手に取り、一気飲みする。
「でも、あんなハプニングが...」
セラフィナは心配そうな表情。
「楽しかったー!また路上ライブしたいな!」
ミカは相変わらず上機嫌だ。
ザカリエルは満足げに頷く。
「よくやったぞ、お前ら。これで人気も出るはずだ」
その時、ハイエースのテレビがニュースを流し始めた。
「今日、繁華街で行われた路上ライブで、奇妙な現象が...」
アリエルは驚いてスポーツドリンクを噴き出し、ハイエースの内装を濡らしてしまった。
「うわっ!何だよ、このニュース!」
セラフィナは冷静に言う。
「まさか、ミカが浮いてるところ...」
ミカは天真爛漫に笑う。
「えへへ、テレビに出られたね!」
ザカリエルは焦りながらもニヤリと笑う。
「まあまあ、これも宣伝になるさ。話題性バツグンってやつだ!」
3人は顔を見合わせる。これからどんな騒動が待っているのか、誰にも分からない。しかし、きっとこの奇妙な天使アイドルたちなら、なんとか乗り越えられるはずだ。
彼女たちの人間界での冒険は、まだ始まったばかり。
天界に戻る日は、まだまだ遠そうだった。
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