本物(マジ)天使、何故か人間界でアイドル修行中

島原大知

アイドル天使 登場

ライブハウス「ヘブンズゲート」の熱気が、まるで生き物のように脈打っていた。


汗と興奮が入り混じった独特の匂いが、狭い空間を埋め尽くし、ネオンの光が観客の熱狂的な表情を彩る。


ステージ上では、アイドルグループ「セラフィム」の3人が、息の合ったダンスと歌声で観客を魅了していた。


中央で歌うのは、リーダーの愛莉。金色に輝く短髪が汗で光り、いくつものピアスが装飾された耳が目を引く。


筋肉質な体型にぴったりとフィットした白と金のツーピース衣装が、彼女の力強さを際立たせている。深い碧眼で観客を見つめながら、パワフルな歌声を響かせる。

「さぁ、みんな!一緒に歌おう!」


その隣では、星奈がエレキギターを奏でていた。

腰まで伸びる紫紺の髪が、ステージの照明を受けて妖しく輝いている。

スレンダーな体型に合わせた黒と紫のゴシック風ドレスが、彼女の神秘的な雰囲気を引き立てる。常にかけているサングラスの奥で、鋭い眼光が光る。

無表情を装っているが、瞳の奥には確かな自信が宿っている。


そして、ステージ右手では、美華がキュートな笑顔で観客を魅了していた。

ピンク色のツインテールが、彼女の動きに合わせて躍る。小柄ながらしなやかな体型を強調するフリルたっぷりのピンクのワンピースが、彼女の愛らしさを引き立てている。

大きな瞳で観客を見つめる彼女の動きは、まるで重力を無視しているかのようだ。


3人の息の合ったパフォーマンスに、会場は熱狂の渦に包まれていく。ペンライトの光が波のように揺れ、ファンの歓声が天井まで届きそうだ。

愛莉は、汗で滴る前髪をかき上げながら叫ぶ。

「みんな、最高だぜ!もっと声出していいぞ!」


星奈は、複雑なギターソロを披露しながら、微かに口角を上げる。

美華は、キラキラした目で観客を見渡しながら声を弾ませる。

「みんな大好き〜!一緒に踊ろう!」


ライブも佳境に差し掛かり、会場の熱気が最高潮に達したその時——。


「セラフィム、マジエンジェル!」


熱狂的なファンの絶叫が、会場を貫いた。


その瞬間、愛莉の動きが一瞬止まる。金髪が汗で顔に張り付き、目を見開いて観客を見つめる。

星奈の指が微かに震え、コードを外しそうになる。サングラスの奥で、目が慌ただしく動く。

美華の笑顔が一瞬こわばる。ピンクの髪が顔を覆い、動きが止まる。


しかし、3人はプロのアイドル。


一瞬の動揺を見せただけで、すぐさま完璧な笑顔を取り戻した。愛莉が機転を利かせ、マイクを持ち上げる。


「みんな、ありがとう!私たちの天使は、ファンのみんなだよ!」

その言葉に、会場はさらなる熱狂に包まれる。ペンライトの光が一斉に揺れ、歓声が鳴り響く。


ライブは大成功のうちに幕を閉じた。しかし、3人の心の中は複雑な思いで渦巻いていた。


楽屋に戻った3人は、ドアを閉めるなり崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。狭い楽屋には、化粧道具や衣装が散らばり、3人の汗の匂いが充満している。

愛莉が額の汗を拭いながら、大きなため息をつく。

「ふぅ...マジで焦ったぜ。あと少しで翼が出るところだったじゃねーか」


星奈はサングラスを外し、疲れた目をこする。

「本当に...あと少しで正体がバレるところだったわ。人間界での生活も終わりかと思ったわ」


美華は相変わらず上機嫌だ。ピンクのツインテールを指で巻きながら、にこやかに言う。

「でも、楽しかったよね!人間の子たちの歓声って、天界の讃美歌より心地いいかも♪」


3人は顔を見合わせ、思わず吹き出した。


そう、彼女たちはマジエンジェル(本物の天使)なのだ。

愛莉、星奈、美華――これは彼女たちのアイドルとしての活動名。

本当の名前は、それぞれアリエル、セラフィナ、ミカ。人間界での生活を始めるにあたり、ザカリエルが考えた偽名だった。


「ったく、アリエルが愛莉ってまだしも、ミカがそのまんま美華ってどうなんだよ」アリエルが不満げに言う。


「安直すぎるわね」セラフィナも同意する。

ミカは首を傾げる。「えー?でも覚えやすくていいじゃん♪」


しかし、なぜ彼女たちがこんな状況に置かれているのか――。


―――――――――――――――――――――――――


天界の裁きの間。眩いばかりの光に満ちた広間で、3人の天使が頭を垂れて立っていた。周囲には厳かな雰囲気が漂い、上級天使たちの視線が3人に注がれている。

「お前たち、反省の意味を込めて人間界へ行ってこい!」


上層部の天使の声が、重々しく響く。その声には怒りと失望が混ざっていた。


アリエルは思わず叫んでいた。彼女の金髪が激しく揺れる。

「えぇ!?冗談じゃねーぞ!人間界なんて退屈すぎるって!」

セラフィナは冷静を装いつつも、内心では動揺を隠せずにいた。

紫紺の髪が顔を覆い、表情を隠す。

「まさか...人間界ですか...私には向いていません」

そしてミカ。

彼女の頭の中はすでに別のことでいっぱいだった。

ピンクの瞳がキラキラと輝いている。

「人間界ってモテるかな?かわいい男の子いるかな?」


こうして3人は、人間界へと追放されることになったのだ。

人間界。古びた教会の前に、3人の天使が立っていた。

周囲には雑草が生い茂り、教会の壁には亀裂が走っている。


その時、派手な銀髪にサングス、派手な柄のスーツという、天使とも人間らしからぬ出で立ちの男が現れる。


「よぉ、お待ちかね。俺様がザカリエルだ。これからはアイドルやってもらうぜ!」


3人は声を揃えて叫んだ。

「はぁ!?」


―――――――――――――――――――――――――


楽屋のドアがノックされ、ザカリエルが顔を覗かせる。派手な銀髪が揺れ、サングラスの奥で目が輝いている。


「イェーイ!天使アイドル軍団、今日も最高のパフォーマンスだったぜ!」

アリエルは目を剥いて叫ぶ。

「うっせーな!」

セラフィナは冷ややかな目で見つめる。

「まったく...」

ミカだけは相変わらずの笑顔。

「ザカリエルさん、今日も元気ですね〜」


ザカリエルは、3人の反応など気にも留めない様子で続ける。

「さぁて、次は教会でのディナーショーだ!準備はいいか?」

「はぁ!?」

再び3人の悲鳴が楽屋に響く。狭い空間に3人の声が反響し、まるで天界の雷のようだ。


アリエルは天を仰ぎ、金髪を掻き揚げながらつぶやく。

「マジでエンジェルなのに...なんでこんなことになっちまったんだ...」

セラフィナはため息をつき、紫紺の髪をかき上げる。

「まさか天界を追放されて、アイドルをすることになるなんて...」

ミカは目をキラキラさせながら、両手を胸の前で組む。

「でも、人間界って楽しいよね!毎日がドキドキワクワクだよ!」


そう、「セラフィム」は、文字通り"マジでエンジェル"なのである。


華やかなステージの裏で、彼女たちは天使としての正体を隠しながら、アイドルとしての日々を送っている。


時に翼が出そうになったり、天使の力が暴走しそうになったり...。


そんなハプニングを必死に隠しながら、彼女たちは人気アイドルへの道を歩んでいる。


果たして彼女たちは、アイドルとしての成功を収められるのか。


そして、いつか天界に戻ることはできるのか。それとも、人間界の魅力にすっかりハマってしまうのか。


彼女たちの笑いと涙の物語は、まだ始まったばかりだった。古びた教会と華やかなステージ。


天使の姿とアイドルの姿。


3人の天使たちの奇妙で愉快な日々が続いていく――。

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