第14話 思わぬ遭遇






 山賊を一人残らず始末した俺は、【蒼き炎】の満面に振り向いた。



「シェナちゃん、大丈夫かい?」


「私は大丈夫です。でも、仲間が二人……」



 シェナは仲間の死を嘆いているようだった。


 一人はハイオークの攻撃で死亡、もう一人は山賊の不意打ちで死亡。


 前者はまだ森の中に入っていないからと油断しなければ死ななかったし、後者はハイオークの襲撃の理由に気付いていたら死ななかった。


 後で言うのは簡単だが、その時の【蒼き炎】のメンバーたちは最善の行動を取ったはずだ。


 その最善が最高の結果に繋がらなかっただけ。



「……ノエル……」


「その子はノエルって言うのかい?」


「……はい。私の幼馴染みで、親友です。ぐすっ、うぅ、ひっぐ」



 大切な人の死を嘆き悲しむのは、人として当然だろう。

 俺はそのノエルというシェナの親友を見て、ふとあることを思った。


 この子、おっぱい大きいなあ、と。



「……シェナちゃん。いや、この場にいる全員、今から見ることを秘密にできるかい?」


「え、なんですか?」


「できるかい?」


「え、えっと、は、はい」



 俺の突然の問いに対し、【蒼き炎】の誰もが困惑しながらも頷いた。


 本当ならここで「俺がもっと早く来ていたら!!」みたいな悲劇のヒーローっぽい台詞を言うだけで十分だった。


 仮に「その通りだ!!」と責められようと、責めてきた相手は罪悪感を感じるから。


 その罪悪感を利用するつもりだった。


 命を助けられた、という事実だけで彼らからの信頼を得るには十分だからな。


 でも、ノエルを見て気が変わってしまった。



「この子が死ぬのは、損失だ」



 ノエルはおっぱいが大きい。


 爆乳手前の美少女が死ぬのは世界の損失と言っても過言ではない。


 だから、生き返らせることにした。



「――リザレクション」



 俺はそれなりに長い詠唱の後、奥の手の更に奥の手を行使した。


 その奥の手こそ、蘇生魔法。


 俺の治癒魔法と支援魔法の師匠、アルネリアが編み出した多大な魔力を引き換えに死者を復活させる魔法。


 閉じていたノエルの瞼が微かに動く。



「うっ、ここ、は……」


「「「「「!?」」」」」



 誰もが目を剥く。

 そして、たった十数人程度とは思えない程の大きな歓声が響いた。


 まあ、当たり前の反応だろう。


 アンデッドとして蘇るならともかく、普通は死んだ人間が生き返ることはない。


 でも実際に生き返った。



「……シェナ? どうし、て、泣いてるの……?」


「ノエル!! ノエルぅ!! ノエルが生き返っだあよお゛っ!!」


「……身体が……動かない、わ……」


「蘇生には術者の魔力だけじゃなくて、対象の体力を著しく消耗する。しばらくは絶対安静だよ」


「あ、貴方は……?」



 こちらに気付いたノエルが、何者か問うてくるので笑顔で答える。



「俺はティオ。よろしくね」


「っ、ど、どうも……」



 俺の笑顔を見たノエルがぽっと頬を赤く染め、視線を逸らした。


 その反応で確信する。


 俺に惚れたな。ま、俺は顔もいいし、強いし、命の恩人だし。


 惚れるのも仕方ないというもの。


 せっかくなので今後はその好意を存分に利用させてもらおうそうしよう。



「あ、あの、ティオさん、本当にありがとうございます!! でも、どうしてティオさんがここに――」


「おっと、もう一人の治療もしなくちゃだね!!」


「あ、はい、あっちの彼もお願いします!!」



 危ない危ない。


 何故俺がここにいるのか、という問いは想定していたが、今のタイミングで聞かれるとは。


 咄嗟に誤魔化せてよかった。


 礼を言おう。ありがとう、ハイオークの一撃で死んでしまった少年!!


 と、その時だった。



「ん?」



 俺の耳が遠くから凄まじい速度で近づいてくる何者かの足音を聞き取った。


 本当に速い。


 音からして木々の間を縫うように動いてるし、獣人だろう。


 山賊の仲間――ではないと思う。


 あらかじめ山賊の数は把握していたし、頭目も含めて確実に皆殺しにした。


 どうすべきか。



「シェナ、しばらくプロテクションを維持していてほしい」


「え? あ、は、はい!!」


「誰かが近づいてきてる。敵かもしれない」



 シェナが防御魔法をそのまま維持し、俺は目を凝らして茂みの奥を見つめる。


 しばらくして――



「山賊の匂いがするのです!! ――もう死んでるのです!?」



 知ってる顔だった。


 顔立ちは綺麗に整っており、ピンと立った狐の耳ともふもふの尻尾。


 年齢は十二、三歳程度と少し幼い。



「なんだ、ナギか」


「ティオ!? 何故ここにいるのです!?」



 【闇夜の星】でも上位のノルマ達成率を誇っていた優良パーティー。

 パーティーメンバー全員が狐人族で構成されている『月狐』のリーダーである。



「あの、ティオさん? その子は……?」


「む。子供扱いするな、なのです!! 私はこう見えてもB級冒険者なのです!!」


「ええ!?」



 自分よりも幼いであろうナギがB級冒険者と知って驚愕の声を上げるシェナ。

 まあ、俺ほどではないにしろ、ナギは年齢の割に昇級が早いからな。


 驚くのは無理もない。



「ええと、彼女はナギ。B級冒険者で、俺の知り合いだよ」


「……ティオ。お前、どうしてそんな気持ち悪い話し方してるのです?」


「うん、ナギ。ちょっとこっち来て」



 俺はナギの腕を引っ張って【蒼き炎】からできるだけ離れる。


 せっかく【蒼き炎】の面々に善人アピールしてきたのだ。

 ナギの失言のせいで善良なイメージを崩されるわけにはいかない。



「ナギ。あとでジャーキーあげるから俺の話し方や態度については何も言うな。返事」


「わ、分かったのです」


「よしよし、いい子だ」


「っ、お前!! 尻尾触るななのです!!」



 相変わらずもふもふで触り心地のいい尻尾だ。


 アヴィアやナディア、カレンやアルネリアのおっぱいの次に好きかもしれない。



「ところで、ナギの方こそどうしてここに? 『月狐』のメンバーはどうした?」


「……皆は故郷に帰したのです」


「ふむ? ならどうして、辺境とはいえナギはまだ帝国にいるんだ?」


「お前には関係ないのです」



 ツンツンして俺の問いには答えないナギ。



「仕方ない、じゃあ当ててやろう。お前、カレンと仲直りしたいんだろ」


「!? ……ち、違うのです。あんな奴、もう知らないのです」



 ナギの尻尾がピーンと伸びている。


 口では違うと言ってはいるが、とても分かりやすくて助かる。


 俺はニヤリと笑う。



「もっと正確に言い当ててやる。仲間と一緒に帝国を出ようとしたけど、国境付近でカレンと喧嘩したままなことを後悔してお前だけ引き返してきた」


「ギクッ」


「でも移動に必要な食料やら何やらを買うお金が無くなったから、近くの村から山賊退治でも引き受けたんじゃないか?」


「む、むむむ……」


「ちなみに組合を通さないクエストは受けない方がいいぞ。報酬をすっぽかされる可能性が高い」


「そ、そんなこと分かってる、のです!!」



 こりゃ分かってなかったな、絶対に。



「そうだな、もし俺の言うことを聞くならカレンと仲直りする方法を教えてやってもいい」


「!? ほ、本当なのです!?」


「俺は嘘は言わないぞ」


「でもお前は本当のことも言わないのです」


「それができるのが大人ってもんなんだよ。でも、今回は誓ってやってもいい。俺に協力したらカレンと仲直りさせてやる」



 俺がそう言うとナギは一瞬だけ目を輝かせて尻尾をぶんぶんした。


 しかし、途端にしゅんとしてしまう。



「……いいのですか?」


「ん? 何がだ?」


「私は、お前をギルドから追い出す嘆願書に名前を書いたのです」


「どうせ食べ物で釣られたんだろ」


「ギクッ」


「当たりか」



 ナギが尻尾と耳をペタンとさせる。



「お、お肉で釣られたのです……」


「カレン、じゃないか。あいつは買収とかそういうのはしないどころか発想すらないし。『叡知の結晶』の『導師』か?」


「何故分かるのです!? いい加減キモイのです!!」



 キモイとは失礼な。


 でもまあ、俺のおっぱい以外の癒しであるナギが戻ってきて本当によかった。


 是非うちのギルドに入ってもらおう。


 そして、もふもふが癒しだし、ナギは将来おっぱいが大きくなりそうな予感がする。


 もふもふもぱふぱふもできるとか最高だからな。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「もふもふとぱふぱふ、どっちがいい?」


テ「両方」



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