第13話 暗躍




「ティオさん!? ど、どうしてここに!?」



 俺の姿を見たシェナが心底困惑したように声を荒らげて言った。


 ふむ、どう答えたものか。



「……可愛い女の子が大変な目に遭ってたら、助けるのが男ってもんなんだよ」


「っ、ティオさん……」


「まあ、シェナちゃんはそこで仲間たちを守っていてくれるかな? その方が俺も戦いやすいからさ」


「は、はい!!」



 シェナがプロテクションを展開し、【蒼き炎】のメンバーたちを包み込む。


 これで守りは万全。あとは山賊の始末だ。



「おいおいおい。ガキが一人乱入したくらいでどうにかなると思ってんのかよぉ!!」


「ひゃひゃひゃ!! 手足を千切って犬の餌にしてやるぜぇ!!」


「死ねぇ!!」



 俺は自前の武器である剣槍を構え、魔法の詠唱を破棄して行使する。

 普通は詠唱を破棄した魔法は効力が落ちるが、俺の場合はそれくらいでいい。



「ストレングス、ストレングス、ストレングス、ストレングス、ストレングス……」


「支援魔法……?」



 俺が何の魔法を使っているのか気付いたシェナが青ざめる。


 今から何が起こるのか、想像したのだろう。


 俺は向かってきた山賊数名に向かって一切の躊躇をすることなく、剣槍を振るった。


 筋力上昇魔法の重ねがけで何百倍にもなった筋力から放たれる横凪ぎの一撃は、ただそれだけで虚空を切り裂く刃と化す。


 山賊たちの身体が上半身と下半身でズレた。



「「「「「「え?」」」」」」



 山賊も俺の後ろにいる【蒼き炎】の冒険者たちも目を瞬かせていた。


 まあ、人間がいきなりバラバラになったらそういう反応にもなるよなあ。



「ま、魔法!! 魔法で殺せ!!」


「もう遅い。お前以外、全員殺した」


「……え?」



 山賊の頭目が慌てて部下たちに魔法で攻撃するよう指示を出すが、誰も応じなかった。


 そもそも応じる者がいなかった。


 全員、一人の例外もなくその首が胴体とお別れしてしまったから。


 うーむ。流石は俺、見事な秒殺劇である。



「な、え、あ……」


「さて、残るはお前さん一人だな」


「ひっ、ま、待て!! そ、そうだ、依頼主!! 女がそこのガキ共を襲撃するよう依頼してきた奴がいるんだ!! そいつの情報を言う!! だからオレだけは見逃してくれ!! いや、見逃してください!!」



 そう言って仲間たちを殺した俺に必死の命乞いをしてくる山賊の頭目。

 仲間の死を悲しむわけでもなく、依頼主を売ると言う。

 


「うーん、別にいいかな」


「な、ど、どうして!!」



 俺はシェナたちには聞こえないよう、小さな声で山賊の頭目に話しかける。


 聞かれてはならない内容だからな。


 今から死ぬ山賊の頭目が可哀想なので最後にネタバラシしてやろうってわけだ。



「だってその依頼したの、女装した俺だもん」


「……は?」



 山賊の頭目が間の抜けたような、如何にもアホらしい顔を見せる。


 ああ、そういう顔は見ていて面白い。


 女装は俺の精神に凄まじいダメージを与えてくるものだったが、その顔が見られるならまた女装してもいいかもしれないな。


 そうして俺は、ほんの数日前の出来事を思い出すのであった。


 










 数日前。


 時は俺が冒険者組合でシェナに接触する少し前に遡る。


 【新星】のギルドホームにて。



「下級ポーションの買い占め、ですか?」


「そうだ」



 俺はアヴィアとナディアの二人に極秘任務をお願いしていた。



「【蒼き炎】より先回りしたいからな。下級ポーションを買い占めて、彼らが辺境の森に向かうまでの時間を稼ぐ」


「ティオさま、質問してもいいですか?」


「なんだ、ナディア?」


「下級ポーションは需要が高いから供給も多いです。今日買い占めても明日には元通りかと」



 ナディアは中々どうして鋭い指摘をする。


 しかし、俺とてその程度のことは重々承知した上で言っている。



「たった数時間、時間稼ぐだけでも十分だからな。まあ、念には念を入れてイリーシャ――仲のいい知り合いに依頼して街道で工作してもらっている。三日は下級ポーションが帝都に入ってこないさ」



 あとは組合の掲示板に貼り出されている依頼書の中から【蒼き炎】でも挑めるクエストを減らし、特定の場所に誘導すればいい。


 今回はレナート帝国の辺境にある村近くの森を舞台としよう。


 ちょうどその森に出るハイオークの討伐クエストがあったはずだ。

 あの森には最近になって腕っこきの山賊が住み着いたとイリーシャから情報を得た。


 あとは山賊を【蒼き炎】にけしかける。



「何故そのようなことを?」


「アヴィアは人間が一番従うのは、どういう相手だと思う?」


「そう、ですね……。やっぱり偉い人でしょうか」


「ナディアはティオさまだから従う」


「ははは、ナディアの方が正解に近いな」



 無表情のまま胸を張って誇らしげなナディアと、そのナディアを微笑ましく見つめるアヴィア。


 この二人は絵になるなあ。



「人間が従うのは、自分にとってもっとも尊敬できる人間だ。だからその尊敬できる人間に、つまりはヒーローになろうってわけ」



 仮に【蒼き炎】が山賊に追い詰められてしまったとしよう。

 そこに颯爽と現れて山賊を倒したら、俺は【蒼き炎】の彼らにとってヒーローそのものだ。


 もしヒーローの俺からギルド提携の話や吸収合併の話を持ちかけたらどうなる?


 きっと上手く話がまとまるだろう。



「で、だ。【蒼き炎】が山賊の住む森に行っても都合よく襲ってくれるとは限らない。だからダメ押しとして、貴族の令嬢に成りすまして依頼しようと思う」


「「令嬢に成りすます……?」」


「おっと、変な誤解をするなよ。正体も隠せて女の方が男より警戒されない。金でも渡した上で『私を好きにしてもいい』とか適当なこと言って財欲と性欲を少し煽ってやれば男は簡単に動く。女装ってメリットが多いんだよ」


「「……」」



 すると、何を妄想したのか。アヴィアとナディアは各々の反応を見せた。



「……ちょっと、響くものがありますね……」


「ティオさまに手を出す奴は殺す」



 何故かうっとりした様子のアヴィア。


 対してナディアはまだ見ぬ山賊たちに殺意を滾らせていた。


 本当に何を妄想したのだろうか。


 とまあ、そういう感じで細工をした後、俺は冒険者組合でシェナと接触し、そこでククルカとも遭遇した。


 ククルカは【蒼き炎】に同行するわけでもなさそうだったからな。


 計画通りに事を進めた。


 女装して辺境の森に向かい、山賊に【蒼き炎】を襲うよう依頼したのだ。


 だからわざわざ山賊の頭目に依頼主を教えてもらう必要はない。

 そういうわけで俺は躊躇わずに頭目の頭を潰すのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「女装する主人公……」


テ「文句あるか?」



「圧倒的邪悪で草」「女装する主人公……」「笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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