第11話 デカイ子には寛容






「ちょ、あの、ククルカさん!!」



 赤いリボンとツインテールが可愛らしい『探求者』のリーダー、ククルカはシェナの手を引っ張って冒険者組合の建物を出た。


 しかし、そのまま足を止めることはなく、無言で歩き続けること数分。



「あの、ククルカさん!! 痛いです!!」



 ククルカがシェナの腕を握る力が強く、シェナは悲鳴のような声を上げる。

 そこでようやくハッとしたククルカが慌ててシェナの腕を離した。


 そして、咄嗟に謝罪する。



「あ、ご、ごめんなさい!!」


「もう、痛いですよぉ。どうしたんですか? さっきのククルカさん、凄く怖かったです」


「……本当にごめんなさい。でも、あの男にだけは関わっちゃダメなの」



 神妙な面持ちで言うククルカに対し、シェナは疑問を抱いた。



「なんでですか? ティオさん、とても親切な人でしたけど」


「顔に騙されちゃダメよ。あいつは顔がよくても性格は生粋のロクデナシの糞野郎なんだから」



 ククルカはシェナの肩をガシッと掴み、必死の形相で訴える。


 普段は冷静沈着なククルカのこの慌て様……。


 シェナは何事かと思って、ククルカにティオのことを詳しく聞いた。



「あいつは【闇夜の星】っていう元S級ギルドのマスターだった男なの」


「え!? 【闇夜の星】って、前にククルカさんが所属していた、あの……? それって少し前に追放されてる人ですよね?」


「そうよ。どさくさに紛れて私の胸を執拗に触ってきたセクハラクズ野郎よ!!」


「ほ、ほぇー、人は見かけに依らないんですね」



 シェナは冒険者組合で親切にしてくれたティオのことを思い出す。

 とてもそういう人には見えなかったが、ククルカが言うならそうかも知れない。



「パワハラも……。いえ、そっちは理由があったみたいだし、別にいいのだけど。問題はあいつが闇ギルドと関わりがあることよ!!」


「闇ギルド?」



 シェナは首を傾げる。


 闇ギルドというのは文字通り、表には出られないギルドのことだ。


 具体的には暗殺者ギルドや盗賊ギルド……。


 その他にも違法な商品を扱う闇商人ギルドもあるが、あくまでもそういうギルドが存在するという噂にすぎない。


 当然、シェナはただの噂だと思っている。


 それを表情から見抜いたククルカは、シェナを激しく揺さぶった。



「アンタね!! その顔ちっとも信じてないでしょ!!」


「だ、だって、闇ギルドなんて噂じゃないんですか?」


「噂じゃないから言ってんの!! ……昔、というほど昔じゃないけど、【闇夜の星】がS級になる前にあったのよ」


「あったって、何が?」


「……当時敵対してたギルドのマスターと幹部が軒並み死んだの。事故とか自殺とか、不自然な死が多かった。でも帝都警察は何も言わないし、結果的にそのギルドは【闇夜の星】の傘下に入ったわ」



 にわかには信じがたい話だが、【闇夜の星】に所属していたククルカ本人が語る話だ。


 一笑に付すことはできない。



「あいつは怪物よ。私は、あいつが怖いの。その気になったら国家の転覆すらコネと金と実力に物を言わせてできる」


「そ、それは流石に言い過ぎじゃ……」


「……そうね。でも実際には不可能だと分かっていても、あいつならできると思えてしまうのよ。だから私はあいつを【闇夜の星】から追い出すことに賛同した。でも、その、まあ、あいつがいなくなったら組織が成り立たなくなっちゃって……」



 そこからはククルカの愚痴大会だった。


 やれよろめいたフリをして抱き着いてきたとか、やれ転んだフリをしてお尻に顔を埋めて匂いを嗅いできた等々。


 聞けば聞くほどティオという男がロクデナシだと分かる内容だった。


 しかし、人は聞いたものより見たものを信じる。



(そういう人には見えなかったけどなあ。何か誤解があるのかも)



 シェナはふとそう思った。


 ククルカの話が真実だとシェナが知るのは、もう少し先のことになる。











「とまあ、あたしが盗み聞きした限りではこんな感じの会話してたっス。あ、ククルカってデカ乳女は【蒼き炎】に同行するわけではないみたいっスね。ただの仲良しってだけみたいっス」


「ご苦労さん。悪いな、大急ぎで仕事頼んで」



 俺は帝都の薄暗い路地裏で、年端も行かぬ少女と話していた。

 栗色の長い髪をポニーテールにした、整った顔立ちの美少女である。


 冒険者にしては動きやすそうな軽装だった。


 ホットパンツとニーハイソックスを穿き、胸にはサラシを巻いているだけである。


 健康的なむっちり太ももが最高だ。


 あともう少しおっぱいが大きかったら、宿に連れ込んでベッドに無理やり押し倒していたかもしれない。



「いしし、ティオの旦那のお願いっスから!! いつでもあたしのこと頼ってくださいっス!!」



 キラリと輝く八重歯を見せて太陽のような笑みを浮かべる美少女。


 彼女の名前はイリーシャ。


 暗殺者ギルドに所属する暗殺者であり、いつも困った時に頼る少女だ。

 俺のことを「ティオの旦那」と慕ってくる可愛い奴である。


 今は十二、三歳くらいだから、数年後には理想のおっぱいになっているかも知れない。



「でも旦那、いいんスか?」


「ん? 何がだ?」


「あのデカ乳女、旦那が闇ギルドと繋がってるって知ってるんスよ? 下手に探られる前にぶっ殺しちゃった方がよくないっスか?」


「よくない。ククルカは俺のストライクゾーンに入ってるからな。あのおっぱいが死ぬのは世界の損失だ」


「むむぅ」



 俺がそう言うと、イリーシャは唸った。



「ティオの旦那はデカ乳に甘過ぎっス。……あたしだって、そこそこおっぱいデカイんスよ? もっとあたしに構ってもいいと思うっス」


「んー。もう少しおっぱいが大きかったらなあ」


「酷いっス!! でもあたし、前より大きくなったんスよ!! なんなら揉んでみるっスか!?」



 そう言って胸のサラシを外したイリーシャ。


 サラシで押し潰されていたおっぱいがぷるんと揺れて姿を現す。



「どーっスか? 好きなだけ触って確かめてくださいっス!!」


「お、じゃあ遠慮なく」


「んっ♡ あ、相変わらず躊躇ないっスね」


「お前が揉めって言ったんじゃないか」



 俺はイリーシャの胸を揉みしだいた。


 たしかに以前お触りした時よりも大きくなっている気がする。



「どうっスか? あたし、どんどん旦那の理想の女に近づいてるっスか?」


「ああ、たしかに成長してるな。でももっとこう、手の中に収まらないくらい大きくないとな」


「いしし、大丈夫っスよ。あたしまだまだ成長期っスから。それに――」



 イリーシャが頬を赤らめながら言う。



「好きな人に揉まれて、またおっぱい大きくなっちゃうっスから♡」


「ああ、期待してるぞ」


「むぅ……。また適当に返事して。美少女に今の台詞を言われたら普通はコロッと落ちるものなんスよ」


「そうか? 悪いな」


「まあ、別にいいっスけど。あたしが旦那好みの爆乳になったら、しっかりお嫁さんにして毎日子作りするっスよ!! 爆乳の女の子たくさん産んで家族でラブラブエッチするっス!!」


「はいはい」



 ちょっとおかしいところもあるが、イリーシャは可愛い奴だ。

 性奴隷にも理解があるし、本当に爆乳になったら嫁にしてやってもいいかも知れない。


 と、そこでイリーシャが溜め息を零した。



「でも許せないっス。あのデカ乳メス、旦那のお嫁さんになれる爆乳資格を持ってるのに旦那。追放しやがって」


「ギルドマスターを辞めたのは自分だけどな」


「旦那は許すんスか?」


「んー。まあ、そう言われると俺を排訴しようとしたことはムカつくかもな」


「じゃあじゃあ!! やっぱりあたしがぶっ殺してきてあげるっス!! 前みたいにしっかり事故とか自殺に見せかけるっスよ!!」



 ここでオッケーを出したら、きっと今から殺しに行くのだろう。


 明日にはククルカが物言わぬ骸になるはずだ。


 さっきも言ったが、爆乳が死ぬのは世界の損失である。



「ダメ。まあ、あいつが全裸土下座で誠心誠意謝ってきた上で性奴隷になるなら許すよ。俺はおっぱいがデカイ子には寛容なのさ」


「むむぅ、せっかくライバルを消せると思ったんスけど。あ、じゃあ旦那、あたしはそろそろ行くっス」


「ああ、今日は助かった。確認だが、結局シェナは辺境の森に出たハイオークの討伐クエストを受けたんだよな?」


「そうっスよ!!」



 なら計画の練り直しは必要ないな。まあ、念のため調整はしておくが、大筋はこのままで行こうそうしよう。


 あと一ヶ月もすれば、シェナの爆乳は俺のものになるゲフンゲフン。

 ギルドをより大きくして、S級ギルドにまた一歩近づくだろう。



「旦那ぁ♡」


「ん? なんだ?」


「さよならのチュー、してほしいっス♡ 恋人がするみたいな激しい奴がいいっス♡」



 そう言ってキス顔を見せてきたイリーシャ。



「お前、俺のこと好きすぎないか?」


「当たり前っスよ!! ……あたしを地獄から引きずり出してくれた、あたしが誰よりも愛する人。旦那が望むなら、あたしは神でも皇帝でも、あたし自身すら殺してあげるっスよ!!」


「いや、重い」


「酷いっス!! もっとあたしの忠誠心と愛に応えてくれてもいいじゃないっス――」



 イリーシャがうるさかったので、お望み通りに濃厚なキスで黙らせてやった。


 すると、イリーシャがにまにまと笑う。



「いしし!! 今日も頑張って生きるっスよー!! じゃあ、旦那!! また何かあったら頼ってくださいっス!!」



 そう言って凄まじい勢いで路地裏から走り去って行ったイリーシャ。


 単純だなあ。


 さて、念入りにククルカの動向に注意しながら計画を進めようそうしよう。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「マジキチ元気っ娘でしか得られない栄養がある」


テ「ほぇー」



「シェナちゃん騙されてて草」「おっぱい触らせてくれるの最高かよ」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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