第10話 素直な子はハメやすい




 F級ギルド【蒼き炎】。


 所属しているパーティーは四つ。そのうちの半数以上が冒険者になって一年未満の新人で構成されている。


 最年長者が十八歳で、経験年数は長くてもわずか二年とのこと。



「そういう情報をまとめたのがこの資料な」


「よくここまで調べたものだな……」



 【蒼き炎】についてまとめた資料をカレンに手渡すと、彼女は食い入るように中を見ながら言った。



「【蒼き炎】に所属する冒険者の交友関係や懐事情まで書いてあるぞ。どうやってこれほどの情報を集めたのだ?」


「そりゃあ内緒って奴だ。俺くらいになると情報を売ってくれる友達もできるんだよ」


「そういうものなのか」



 情報ってのは欲しがる奴は欲しがる商品だからな。


 これで飯を食ってる情報屋は本当にいい商売をしていると思う。



「で、具体的にはどうするつもりなのだ?」


「どうすると思う?」


「……私には分からないが、ティオ殿がとても悪い顔をしていることは分かる」


「正解。結構悪辣なやり方を想定してる。まあ、珍しい方法じゃないけどな。結果が出るまで一ヶ月くらいか」



 ああ、ワクワクが止まらない。



「じゃ、まずはファーストコンタクトと行こうか」


「……よりいっそう悪い顔になっているぞ……」


「おっと。悪いことをするのに悪い顔をしてちゃダメだよな。善良で誰にでも優しい美少年の演技をしなくちゃだ」



 俺は母親譲りの綺麗な顔をしている。


 この顔で善良な人間のフリをしたら大半の者はコロッと騙されるだろう。


 使えるものは何でも使うのが俺のやり方。


 自分でも気持ち悪くなるくらい優しい表情を浮かべて、俺は【蒼き炎】がいるであろう時間を狙って冒険者組合に向かうのであった。










 冒険者組合にやってきた俺は、辺りを見回して目的の人物を探した。


 ああ、アヴィアたちはここにはいない。


 アヴィアとナディアにはやってもらいたいことがあるからな。


 カレンは今回のやり方を快く思わないだろうし、『紅玉の剣』を率いて冒険者組合から回ってきたクエストを処理してもらっている。


 アルネリアは孤児院の子供たちの世話や孤児院の運営費を稼ぐので忙しい。

 というかアルネリアはパーティーの名前を借りているだけなので、何かを手伝ってもらうわけにはいかない。


 そいうわけで今回のターゲットへの接触は俺一人で行うことになった。



「お、発見」



 目的の人物を見つけた俺は、できるだけ優しい笑みを浮かべて近づく。


 その少女は組合がクエストを張り出している掲示板の前で、依頼書とにらめっこしながら唸っていた。



「何を悩んでいるんだい?」


「はぇ? はわわ、だ、誰ですか!?」


「ああっ、ご、ごめんごめん!! すごく真剣に悩んでるみたいだったから!!」



 その少女は、とても美しかった。


 人形のように整った顔立ちと帝国ではあまり見ない桃色の髪と青色の瞳の美少女である。


 ゆったりした純白のローブを着て両手杖を持っているため、一目見てその少女が魔法を使って戦うであろうことが分かった。


 年の頃は俺とそう変わらないだろう。十四、五歳といったところか。


 そして、めちゃくちゃおっぱいがデカイ。


 身長は俺より少し小さいくらいだ。女性としては平均的だが、そのせいでただでさえ大きなおっぱいが更に大きく見えてしまう。



「ど、どちら様ですか?」


「本当に驚かせてごめんね。俺の名前はティオ。よろしくね」


「あ、は、はい。シェナです」



 まだ少し警戒しながらも、俺の人の良さそうな笑顔を見て名前を名乗ったシェナ。

 事前調査で知ってるが、ここは少しキザな台詞を言っておこう。



「そっか、シェナちゃんか。かわいい名前だね」


「か、かわいいなんて……。じゃ、じゃなくて、私に何か用ですか?」


「うーん。用っていうか、とても悩んでるみたいだし、何か困ってるのかなって。余計なお世話だったかな?」


「い、いえ、そんなことはないですけど」



 ここで「余計なお世話です」とか言う奴だったら面倒だが、シェナが素直な子でよかった。


 お陰でハメやすい。


 あ、罠にハメやすいって意味ね。

 決していかがわしい意味でハメやすいって言ったわけではない。


 シェナは俺に掲示板の前で唸っていた理由をぽつりぽつりと話し始めた。



「その、今度ギルドの皆でレイドしようって話になったんです。あ、私、【蒼き炎】っていうF級ギルドのギルドマスターなんですけど、皆から適当にレイド用のクエストを選んできてって言われて……。でもどのクエストがいいか分からなくて」



 まあ、当然ながら【蒼き炎】が近いうちにギルドメンバー全員でレイドを計画していることを俺は把握していた。


 【蒼き炎】をターゲットにしたのはそれが理由と言っても過言ではない。


 【蒼き炎】のギルドマスター、つまりはシェナが爆乳だからという理由でターゲットにしたわけではない。


 ……いや、少しそういう理由もあるが、細かいことは気にしなくていいのだ。


 ちなみにレイドというのはギルドが総力をかけてクエストに挑むことを意味する。

 F級ギルドのレイドなら討伐難易度Dの魔物が相手だろう。


 ここは敢えてシェナのことを褒めちぎる。



「へぇ!! 君、ギルドマスターなんだ!! 俺と同じくらいなのに偉いね!!」


「え、えへへ、そんなことないですよぅ。皆から押し付けられちゃっただけですしぃ」



 俺の言葉にニヤニヤと笑って照れ臭そうにしているシェナ。


 まあ、俺もギルドマスターだがな。


 そのことにシェナが気付く様子は今のところはない。

 冒険者は有名になっても、意外と顔を知られなかったりするものだ。


 というのも、これには五十年前に勃発した戦争が関係している。


 俺の初めての性奴隷、『戦母神』ことアルネリアが帝国に攻めてきた隣国を打ち倒して撃退した、あの戦争のことだ。


 当時のアルネリアを帝国に居着かせようと、面倒な手合いを彼女に寄越したのだ。


 救国の英雄を手元に置いておきたい帝国のお偉方の気持ちは分かるが、アルネリア本人は面倒で仕方なかったとか。


 その件で帝国の執拗な勧誘を当時の冒険者組合は問題視したらしい。


 今では組合職員に徹底した教育を施して情報漏洩を防止するよう努めるようになった。

 また冒険者同士でも、必要以上に相手を詮索することはご法度という暗黙のルールが作られてしまったり……。


 情報を重視している者なら俺を見てすぐ正体に気付くだろうし、新しくギルドを作ったことも知っているだろうが、新人冒険者は知らないだろう。


 まあ、流石に『破戒』の異名を出したら色々バレるかもしれないがな。


 っと、いかんいかん。


 雑考は後にして今は目の前の爆乳美少女のことに集中しよう。



「もしよかったら、俺が選んであげようか?」


「え? ええと、大丈夫なんですか?」


「任せて、こう見えても冒険者を三年やってる中堅だから。F級ギルドって言ってたよね? 人数はどれくらい?」


「パーティーが四つで、人数は十五人です」


「ふむふむ。じゃあ、ハイオークの討伐クエストはどうかな? ほら、ちょうどクエストも貼り出されてるし」



 俺は掲示板に貼ってあった依頼書を手に取り、シェナに手渡した。



「辺境の村近くにある森に出たハイオークの討伐、ですか。わわ、報酬がいいですね!!」


「でしょ? あ、でもハイオークは普通のオークよりずっと手強いから、しっかり準備しなきゃダメだよ? 下級ポーションでもそれなりに数を集めて、可能なら中級ポーションも用意した方がいいかな」


「はい!! でも下級ポーションはいつもしっかりクエスト前に準備してるので大丈夫です!!」


「そっかそっか。それなら安心だ。また何かあったら相談に乗るから、いつでも頼ってね」


「親切にありがとうございます!! えっと、ティオさん」



 シェナが握手しようと伸ばしてきた手を、俺は笑顔で握り返そうとして――


 と、ちょうどその時だった。



「ちょっとアンタ、シェナに何してんのよ!!」



 そう言って俺とシェナの間に赤いリボンで艶のある黒髪をツインテールにした綺麗な顔立ちの美少女が割って入ってきた。


 腰は細いのに太ももはムチムチで、お尻も肉感的でエッチだ。


 しかも巨乳。


 もう少し大きいと俺の理想だが、十分ストライクゾーンに入っている。


 彼女の名前はククルカ。


 【闇夜の星】に所属していたパーティーであり、今はフリーで活動しているはずの『探求者』のリーダーである。


 わずか十六歳という年齢でありながら高位の魔法をいくつも扱える本物の天才だ。


 俺ほどではないがな。


 ……それにしても。

 ククルカが【蒼き炎】と関わりがあるという情報は初耳だ。


 でもまあ、計画に支障はない。


 俺はシェナの手を取って冒険者組合の建物を出て行ったククルカの後ろ姿を、ニッコリ笑顔で見送るのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「素直な子が悪い男に騙されてずぶずぶになる薄い本が好き」


テ「分かる」



「この主人公ほんまクズで草」「素直な可愛い子が酷い目に遭うと興奮する」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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