第2話 欠損奴隷を買って治療する





 ギルドの建物を出た俺は、その足で冒険者組合に向かった。


 冒険者組合というのは国を跨いで存在する公的機関の一つであり、冒険者の管理及びクエストの斡旋を行っている。


 俺も【闇夜の星】の運営に携わる前はここで仕事を斡旋してもらっていた。


 クエスト受注の際は細かい手続きが必要な書類が非常に多く、めちゃくちゃ面倒だ。

 ギルドはそういう面倒なものを肩代わりする役割を担うものでもある。


 でもまあ、今の俺は一人なので気軽にクエストを受注することができる。


 俺は掲示板に張り出されている紙の中から手頃なクエストを選び、それを新人と思わしき受付のお姉さんのところまで持って行った。



「お姉さーん、このクエスト受けたいです」


「はい、少々お待ちくださ――ちょ、ちょっと待ってください!!」



 受付のお姉さんが何故か待ったをかけてきた。



「あ、あのですね、こちらはライトニングドラゴンという大変危険な魔物の討伐クエストでして。新人が受けるには危険すぎるというか……」


「あー、まだ十五歳ですけど、こう見えても冒険者三年目の中堅ですよ」


「え?」



 冒険者は一年続いたら脱新人、三年続いたら中堅、五年続いたら熟練と言われている。


 俺は冒険者になって三年目。


 ギルドマスターになってから一年以上活動しているため、実際は三年も続いていないのだが、細かいことはいいのだ。



「ちゅ、中堅ですか」


「イエス、中堅です」


「いや、だったら尚更と言いますか、ライトニングドラゴンの危険性くらい分かりますよね?」


「そりゃまあ、はい。雷を操るドラゴンですね」



 ライトニングドラゴンは標高数千メートルを超える山の頂上付近に棲息している竜だ。

 その咆哮は周囲に雷雲を呼び寄せて辺り一帯を焦土に変えてしまう。


 今回はそのドラゴンが麓に降りてきたので人里に被害が出る前に討伐してほしいという旨のクエストだった。



「前に何度か倒してますし、楽勝ですよ」


「はあ、あのですね。ライトニングドラゴンは危険度Aの魔物です。過去に討伐に成功した例は極めて少なくて、S級冒険者の『極光』や『破戒』の二人のみ。子供が勝てるような魔物じゃないんです。嘘は吐いちゃダメですよ」


「俺、その『破戒』です。ほら、冒険者カード」



 俺は受付のお姉さんに冒険者カードを提示した。


 冒険者カードというのは、冒険者にとっての身分証のようなもの。

 死体を持ち帰れない状況に陥った場合、組合が冒険者の死亡を断定するために使われる代物だ。


 古代の特殊な技術が使われており、擬装は不可能となっている。


 この冒険者カードには冒険者の二つ名やら称号やらが記載されているため、見せるだけで身分証明になる優れものだ。



「ええ!? 『破戒』!? 神官でありながら金、暴力、酒、ギャンブル、女、脅迫とやりたい放題なあの『破戒』ですか!?」


「そうそう」


「いや、嘘……でも、たしかに冒険者カードは本物だし……。『破戒』がこんな美少年なんて聞いてないです!!」


「あ、お姉さん今日の夜空いてる? 俺とエッチなことしない? 大丈夫、赤ちゃんが出来たらしっかり養うよ!! だからおっぱい揉ませて!!」


「うっ、S級冒険者に養われる……魅力的な提案ですけど、誠実な人が好みなのでごめんなさい!!」



 あらら、残念。素直なお姉さんだ。



「というわけでクエストの受注手続きお願いできますか?」


「その、大変申し訳ないのですが、こちらのクエストは三人以上での受注が条件でして」


「え? 前はそういうのなかったと思うけど……」


「実は以前から無茶をして亡くなる方が増えておりまして……クエストに挑むために必要な最低人数を設けているんです」



 むぅ、ルールなら従わざるを得ない。


 いくらS級冒険者と言えど、組合のルールを破ったら賊と変わらないからな。

 俺は渋々ライトニングドラゴン討伐クエストを諦める――



「わけないけどね」



 俺は冒険者だ。


 一度狙った獲物は絶対に逃がさないし、諦めるつもりはない。


 なので人数を揃えようか。



「というわけでやってきました奴隷商!!」



 え? 冒険者を仲間にしないのか、だって?


 ははは、『破戒』の俺とパーティーを組みたがる酔狂な奴がいるとでも?


 というか実際問題、俺と組もうとする輩は何かしら裏がある。

 俺はどちらかと言うと善良ではない人間だが、だからこそ人の本心を勘で見抜ける。


 裏がある人間は信用ならない。


 そこで奴隷の出番である。

 奴隷は強力な魔法契約で縛られており、主を裏切れない。


 人間不信には打ってつけの存在なのだ。



「お客様、お気に召す奴隷はおりましたでしょうか?」


「んー、どいつもこいつもパッとしないなー」



 俺は奴隷商人と共に牢屋の中に入れられている奴隷たちを流し見しながら、溜め息を零した。


 質は悪くないのだ。


 戦闘奴隷はそれなりに強そうだし、性奴隷は見目が良い者が揃っている。

 しかし、どいつもこいつもビンビンとくるものがない。


 もっとこう、こいつだ!! って奴隷はいないものだろうか。



「ん? あっちの牢屋は?」


「あ、ああ、あちらは欠陥奴隷です。身体機能に問題があったり、精神状態がよろしくない者たちですね。正直、奴隷としては売り物にならないため、格安でご提供しておりますが……」


「ちょっと見てみたい」



 俺は奴隷商人にお願いして、欠陥奴隷たちを一人一人観察する。



「――いいね、あの二人」


「え?」



 欠陥奴隷たちの中に二人、磨けば光る宝石のような女たちがいた。


 一人は四肢が無い。いわば達磨状態だ。


 もう一人は四肢こそあるが、目が見えていないようで、声も出せないらしい。


 どちらも全身に青あざがあり、弱っているのが一目で分かった。

 放っておいたら数ヶ月としないうちに衰弱死するだろう。


 奴隷商が治療した後があるものの、それで治るほど甘い状態ではない。



「あちらの二人は姉妹でして。手足がない女の方が姉で、視力と聴力を失っているのが妹です。つい最近まで反吐が出るほどの変態貴族が所有していたのですが、ご覧の有り様です」


「買おう。いくらだ?」


「二人合わせて金貨一枚になります」



 ということは一人当たり銀貨五十枚か。安い。



「本当に格安だな。普通の奴隷なら一人あたり金貨十枚はするだろうに」


「そう長い者たちではありませんから。お客様の方こそ、この者たちをどうなさるつもりで?」


「治療しておっぱいを揉む」


「……え?」



 俺は料金を支払い、所有権をもらってから二人に近づいた。



「……貴方は、一体……?」


「俺はお前たちのご主人様だ。金輪際、お前たちに俺の命令を拒否する権ははない」


「……承知しました」



 四肢を失っている姉の方が深く絶望した顔で俺を見つめる。


 こういう人間はとても御しやすい。


 何故なら原因を一つ取り除いてやるだけで、凄まじく忠誠心の高い人間になるから。


 俺は治癒魔法を行使し、姉の欠損した四肢を再生させてやった。

 失ったはずの両腕と両脚がにょきにょきと生えてきて、その他の身体の異常も全て取り除いた。



「え……? あ、え……」


「おお、思った通りの爆乳美女だな!!」



 全身を癒したら、その奴隷は見違えるような美貌の女に早変わりしてしまった。


 腰まで伸びた黄金の長い髪と真紅色に輝く瞳。


 身長は俺よりも高く、腰が細く締まっていて、太ももはムチムチ。

 肌は色白でお尻が大きく肉感的で、脚が長く美しい。


 そして、めちゃくちゃおっぱいがデカイ。


 メロンどころかスイカ、夏場に売っている大玉スイカおっぱいである。



「う、嘘、手と、足が、ああ、嘘、私は夢でも見ているの? 神様が最後に夢でも見せてくれているの?」



 自分の手足を見て感動している美女。


 奴隷商は目を瞬かせており、何が起こったのか分からないようだった。



「お、お客様、今のは……?」


「俺は酒やギャンブルを嗜むが、立派な神官だ。怪我や病を治すエキスパート。この程度朝飯前だよ」


「神官の扱う治癒魔法は生物の自然治癒力を向上させる魔法のはず……。とてもではありませんが、エキスパートでも難しいと思うのですが」


「なら俺はエキスパート以上ということだ」


「あ、あの!!」



 奴隷商と話している俺の前に今し方治療してやった美女が割り込み、俺に土下座してきた。



「お、お願いします!! 妹も、ナディアも治療してください!! 何でもします、あなた様に全てを捧げます!! ですのでどうか――」


「――アヴィア姉さま」


「え?」



 俺は面倒なことが嫌いだ。


 極力無駄を省いて、二度も治癒魔法を使うような真似はしない。

 まあ、つまりは妹の方も姉とまとめてとっくに治療をしたってこと。



「アヴィア姉さま」



 姉の名を呼ぶ奴隷もまた、姉に負けず劣らずの美女であった。


 目を覆っていた包帯がほどけて、蒼い瞳がキラキラと輝いている。

 肩まで伸びた銀色の髪が光っているような気さえする。


 姉と同等の抜群のスタイル。


 こちらも当たり前のようにおっぱいが大玉スイカサイズで、見ていて大変眼福であった。



「ナディア、貴女、声がっ、声がっ!!」


「はいっ!! 声が出せます!! 目も、目も見えるのです!! アヴィア姉さまの顔がしっかり見えます!! アヴィア姉さまのお体が治ったのも!! 分かります!!」


「ああ、そんな、ナディア!! どうして、奇跡よこんなの!!」


「アヴィア姉さま!!」


「ナディア!!」



 互いの身体を抱きしめ合う美女二人。


 俺はその光景を見て、間に挟まっておっぱいに押し潰されたら気持ちいいだろうなあ、と思った。



「感動のシーンで申し訳ないが、お前ら二人は俺、ティオ・カスティンの奴隷になった」


「「あっ……」」


「というわけで、だ。まずはおっぱいを揉ませろ。あと可能なら二人で両サイドから窒息するくらい強くぱふぱふしてくれ」



 涙ぐんでいた奴隷商が「今それ言う?」って顔してるのは面白かった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「姉妹の愛は素晴らしい」


テ「アンタが言うとやらしい意味に聞こえる不思議」



「受付のお姉さん素直で好き」「治って良かったなあ」「ティオに同感」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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