愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
第31話 なんとDOGEZA。それはまっこと見事なDOGEZAであった。
第31話 なんとDOGEZA。それはまっこと見事なDOGEZAであった。
「イソロウ、本当にこの公園だな」
「間違いないス」
マインドリップを捜索していたトウヤとイソロウの兄弟。
兄の言葉に、弟はうなずく。
その背中に展開している、蜘蛛の巣の貼ったローポリゴン風の壁を思わせるデザインの黒い翼によって、イソロウは気配を探知しているのだ。
イソロウのSAI能力――
だがすぐに、イソロウが顔をしかめた。
「あ……」
「どうした?」
「んあー……すでにKM-991と遭遇してるようスね。なんか喋ってるっス」
「くッ、遅かったか……?」
「ちょいと傍受させて貰うっスよ……ッ!」
イソロウがその背中に、ノイズ混じりのローポリゴン風の翼を追加する。追加された翼に四角いウィンドウが表示されていた。
そのウィンドウは、傍受したマインドリップが口にしている言葉を、ドットで描かれた文字に変換して表示させていく。
《今だって上司の指示を仰がず、言われる前に動く、指示待ち人間では絶対に持ち得ないこの八方美人っぷりッ、惚れてしまってもええんやで? なのであるッ!》
瞬間――
「BN-108・SAIウィング。
トウヤは自分の背中に、翼を展開する。
その翼は、何らかの計器あるいは、ゲームのゲージ周りのUI、そうでなければメスシリンダーのようなモノを翼の形に変えたような見た目をしていた。
そして、翼の中にはケミカルな緑色の液体のようなモノが満タンに溜まっているようだ。
同時に、トウヤの左腕に同デザインの腕時計のようなモノが現れる。そこにはMAX150%と表示されている。
「先に行く」
「うっス!」
端的に告げ、トウヤは軽く構え――
「ヒートステップ」
――そう口にすると同時に、翼の中に満たされていた液体の上の方が少し赤く変わる。
同時に、トウヤが地面を蹴った。
すると彼は、緑から赤へとグラデーションするかのような炎を纏い、超スピードで走り出す。
これが、彼の能力。
戦闘中に攻撃を当てたり、攻撃を受けたりすることで翼にエネルギーが溜まり、それを25%消費することで短時間の高速移動を行う。
翼に溜まったエネルギーは持ち越せる為、トウヤは有事に備えて常に100%以上は翼に残すようにしていた。
模擬戦などでは非常に溜まりづらい為、実戦で溜めていく必要があるのは性質が厄介だ。だが、他の能力者と異なり、ヒートステップを使っても能力使用の影響による疲労感がないというメリットもある。
(どこだ……?)
ヒートステップの効果が切れると、炎が消え、翼の赤くなっていた部分も消える。
だが、ヒートステップによって加速していた分の慣性は残る。
それを利用して素早く移動しつつも、慣性も無くなってきたら、追加でヒートステップを行う。
(どこだ……? はやく見つけなければッ!)
完全に慣性が無くなる前に使えば、慣性分の加速もプラスされる為、より高速に動けるのだ。
(どこにいる……!? 今ココで失うわけにはいかないんだッ!)
可能な限り効率的にヒートステップを使いながら、それなりの広さがある公園を駆け抜ける。
やがて、100%を消費したところで、三人の姿を見つけた。
探していたマインドリップ。
そして、捕獲ターゲットであるKM-991綺村 紅久衣と、その恋人である久慈福 理人。
(いた――……ッ!!)
そちらへと向かって駆ける。
マインドリップの能力では、久慈福 理人に勝つのは不可能だ。
そもそも久慈福 理人がどうこう以前に、戦闘能力持ってないマインドリップが、戦闘能力を組織に評価されている綺村 紅久衣の前に出てどうするというのだ。
(いくら阿呆が阿呆をやった結果とはいえそれで失ってしまうワケには、いかない……ッ!!)
トウヤのその願いも空しく、マインドリップが胸を張って最悪の言葉を口にする。
「だがッ! 今ココに想い出すはッ、想い出の片隅にひっそりとたたずむ崇高なる使命ッ、その中身ッ! 挨拶しようと上司を探すもやっぱり見つからないものだからッ、指示を待たず自主的に己の活躍を促す謙虚さでこっそり活躍中のワガハイがするべき指示の推測ッ! 出来るメスガキと評判のワガハイが、敢えてザコという言葉を封印してうっそり挑む大仕事ッ! すなわちッ、KM-991ッ、おまえの捕獲であるッ!」
(大馬鹿ッ、野郎が――……ッ!)
さらに25%消費して加速する。
呆れた様子を見せる、綺村 紅久衣と久慈福理人が視界に入る。
膝と腰に大きな負担が掛かるのだが、そんなことは気にせず加速途中で急ブレーキを掛けるトウヤ。
(失うワケにはいかないんだッ、失うワケには――……ッ!!)
慣性の勢いで身体が前につんのめるが、それを利用してマインドリップの後頭部へ目がけて手を伸ばす。
「あれ? インジケーター?」
マインドリップがこちらに気づいて振り返ろうとするが、それよりも早く後頭部を鷲掴む。
「ぐえぇ!?」
そして慣性の勢いのままトウヤは地面に膝を付きつつ、マインドリップの額を強引に地面へと擦りつけつつ、自分の額も地面に擦りつける勢いで下ろした
「申し訳ありませんでしたーッ!」
土下座だ。
(久慈福氏と結んだ停戦協定……ッ! それによってブラック労働から解放されるッ、この自由をッ!)
それはもう、まっこと見事な土下座であった。
組織に付き合いきれなくなっている今、久慈福 理人との停戦協定は大事なのだ。
ちなみに、土下座した瞬間に、トウヤは自分の背中に展開していた翼も消している。
「は、はなせー! インジケーター! 痛いッ! ワガハイが何をしたというのだーッ!」
「お前はッ、上司の指示や状況を確認せずッ、最悪なムーブをしたんだッ!」
土下座したまま叱りつけるも、マインドリップはやはり喚くだけである。
喚きながらも痛みのせいで制御が甘くなったのか、マインドリップが背中に展開していた翼は消滅した。
「えーっと、トウヤさん。とりあえず顔を上げてください。というか立ってください」
困ったようにそう口にするリヒトに、うなずいて、トウヤはマインドリップと共に立ち上がった。
「久慈福氏……この度はなんと弁明すればいいか……」
「いやぁ、まさか当日のうちに協定を反故されるとは思いませんでしたよ」
笑顔で――いや笑顔に見えるだけの顔で、リヒトがそう口にしてきた。
その一瞬、リヒトの足下から小さな何かが散開していくのが見えた。
(まずい……絶対に今、能力を発動したぞ……!
足下に注意を――いや、足下に意識を向けすぎると、本命の拳が来る……ッ!)
いざ対面してみると、なんと厄介な能力だ。
正体や詳細は不明なれど、足下への攻撃と、強化した拳による二段構え。
どちらかに意識をさきすぎれば、片方によって攻撃を受けてしまう。
「言い訳のしようもありませんが……私が認識する前に、このバカが独断専行してしまいまして……気づいた時にLinkerでメッセージを送ったのですが……」
「え? あー……すみません。気づいてなかったです」
リヒトは自分のスマホを取り出してメッセージを確認すると、後ろ頭を掻いた。
「イ、インジケーター……ワガハイ、やらかしたであるか?」
「ええ。超特大のやらかしです」
「……す、すまぬ……すまぬと謝る故に、み、見捨てないで欲しいのであるが……」
完全に泣きの入った目で見上げられて、トウヤは言葉を詰まらせる。
「はい、そこまで。リヒトくんも……えーっとインジケーター? も、一度深呼吸」
パンパンと手を叩いて、紅久衣が割って入った。
「とりあえずリヒトくん。どう考えてもこの子の制御とか無理だし、許してあげたら?
彼だってメッセージをちゃんと送ってくれてたのに、気づかなかったリヒトくんにも非はあるだろうしね?」
「そう言われちゃうと……そうだね。じゃあ今日のことは不問ってコトで」
はぁ――と息を吐いて告げるリヒトに、トウヤも大きく安堵した。
「それとインジケーター。わざわざリヒトくんと停戦協定を結びに来るくらいだもの。求めているモノは私と似たようなモノでしょう?」
「お見通しですか。ええ。否定はしません。むしろ、貴女や貴女の姉に憧れてさえいます」
両手を挙げて素直にそう口にすれば、紅久衣は小さくうなずく。
「だったら、マインドリップも許してあげて。
何より貴方に懐いているようだもの。この子も自分では自覚してなくとも、似たようなモノを求めているんじゃないかしら?」
紅久衣の言葉に、涙目で見上げてくるマインドリップを見る。
「確かに……ちゃんと言えば従う子供を、無理して排除するのは違いますね」
「ええ。何より、簡単に排除を選択肢に入れてしまうのはダメよ。そんなのは組織から植え付けられた思考から逃れられてないもの。
普通の人は、排除だとか殺すだとかの選択肢がそう簡単に思い浮かんだりしなければ、思い浮かんだとしても実行するコトはまず有り得ないわ。覚えておきなさい」
「ご指導ありがとうございます。そういったコトに疎い私には大変ありがたい教えです」
そう口にしてから、トウヤはマインドリップの頭を撫でる。
「インジケーター……?」
「今はトウヤです。そう呼んでください」
「ん。トウヤ……ワガハイ、ダメな子? 廃棄されちゃうのであるか?」
「……しませんよ。あとでお説教はさせて頂きますがね。状況が変わったんで、簡単に廃棄だの殺すだのはしないコトにしたんです。とりあえず今は大人しくしていてください」
「……うむ」
しゅんと萎れた様子で――けれども、怯えた様子を消して、トウヤの服を摑んだ。
そうして見ると年相応か、もう少し下の子供にしか見えない。
「とりあえず、この騒動は終わりでいいかな」
リヒトがそう嘆息し、トウヤが「そうですね」とうなずいたところで、殺気とは異なる――けれども間違いなく背筋が冷える気配を放つ者がいた。
「えーっと、紅久衣ちゃん?」
「さーて、リヒトくん。それからインジケーター……いいえ、トウヤさんと呼ぶべきかしら?」
ニッコリと笑顔を浮かべる紅久衣だが、彼女が発する圧力は、明らかにリヒトとトウヤに向けられている。
一方で、マインドリップは怯えていないところを見ると、その圧力を絶妙にコントロールして彼女だけ避けているようだが――
「停戦協定諸々の話。ここでキッチリ全部ゲロって貰いましょうか?」
――ともあれ、その迫力には勝てなかったリヒトとトウヤは、後から合流したイソロウを交えた上で、素直にゲロってしまうのだった。
当然、リヒトとトウヤは叱られた。
それに巻き込まれてイソロウも叱られた。
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「待って。オレだけ怒られ損じゃないっスか?」
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