第28話 いたいけなJCのウブな反応が楽しくてついつい文章が長くなった結果、前後編になるとはこの作者の目をしても見抜けなんだ……ってなワケでビュッフェ女子会の後編です。


「はぁ……美味しい……」

 

 場の空気に、完全に慣れた恵琉がローストビーフを頬張り、ほっぺたに手を添えながらしみじみ呟く。


「楽しんで貰えてるようで何よりだよ」


 それを見る照輝も楽しそうだ。

 ホットコーヒーを優雅に啜りながら、ローストナッツを口に運んでいる。


 紅久衣は手元のミネストローネを完食すると、一息ついてから二人に訊ねた。


「私はそろそろスイーツに行こうかな。照輝と恵琉はどうする?」

「もちろん、付き合うよ」

「……もぐもぐ、こくん。わたしも行きまーす!」


 そうして、それぞれにスイーツを盛ってきて、戻ってくる。

 スイーツを口に運び、表情を蕩かせてから、恵琉はすっかり忘れていた話を思い出す。


「そういえばグイ姉って、どうやってヒト兄と付き合うコトになったの?」

「んー? 町の中で偶然遭遇しただけだけど?」

「ナンパでもされたのかい?」


 照輝も興味津々な様子で訊ねてくるのに、少し顔を顰めてから、紅久衣は答える為の言葉を探す。


「ぶつかって転びそうになったところを抱き止めてもらったのよ」


 まさか空から落ちてきたところを抱き止めて貰ったとは口にできず、そう答える。


「でもそういうのってお礼を口にして終わりになりません?」


 ショートケーキを頬張りながら訊ねてくる恵琉。その問いを聞いて、照輝もニヤニヤとした視線を紅久衣を向けた。


「……まぁ正直、ネタかと言われると思うんだけどさ……」


 そこの部分は真面目に答えることにする。

 ようするに、リヒトが朝見たテレビの占いの内容とシチュエーションが同じだったせいで、思わずそのことを口走ったのを聞いたというのを説明した。


 その上で――


「最初はちょっと面白いからからかおうかな……くらいの気持ちで、それなら占い信じて付き合ってみる? くらいの感じだったんだけど」

「……ど?」


 ワクワクという様子で、照輝と恵琉が身を乗り出すようにしてくる。


「流れでウチに行こうってなったんだけど、私の家が燃えててさ」


 急に流れの変わった話に、照輝が顔色を変えた。


「え? 待ってくれ。今アンタ、家無しなのかい?」

「いや、そこは大丈夫。リヒトくんが色々手を尽くしてくれて、ちゃんと住まい見つけたわ」

「それで、うちのおジイのとこの二階に引っ越してきたんだ」

「ならいいんだけどさ」


 納得顔の恵琉と、安堵した様子の照輝。

 二人を見つつ、紅久衣は続ける。


「出会って間もないのにさ、私に親身になって色々してくれてさー……。

 打算とか下心とかあんまり感じなくてさ、ちょっと不安になるくらいにはお人好しだと思うんだけど……なんか、その感じにやられちゃったのよ、ね」


 自分で口にしながらなんだか恥ずかしくなってきて、顔が赤くなっていく自覚がある。それをあんまり二人に気づかれたくなくて、紅久衣は少し俯いた。


 もちろん、全く隠せてないので、二人は気づいている。だが恥ずかしがっている紅久衣が可愛かったので、敢えてそれを指摘せずに眺めることにしたのである。


「ほとんど見ず知らずのはずの私を家に泊めてくれたりさ……。

 すごい真面目に私のコトを考えてくれて……なんかそういう優しさが、すごいのよ。

 物理的なモノも、気持ち的なモノも、この短時間で結構色々なモノを貰っちゃったから、何か返したいな――とは思うんだけど、何にも思いつかなくて、さぁ……」


 もじもじするようにそう言って、照れ隠しのように抹茶タルトを頬張る。

 その様子に、照輝と恵琉の乙女センサーがキュンキュンきているのだが、二人はおくびにも出さずに、紅久衣の話に相づちを打っていた。


「恵琉……リヒトくんが何を欲しがってるとか、知らない?」

「その赤面うるる目乙女フェイスをヒト兄に向けてやればいいんじゃないですかね」

「わ、わりと真面目に聞いてるんだけど」

「わりと真面目に答えてるんですけど」


 赤い顔のまま口を尖らせる紅久衣に、真面目な顔で返す恵琉。

 それを見て、照輝はあっはっはと笑った。


「いやぁ、何事にもクールでそつなく素っ気なくこなしていくタイプの女の、まさかこんな表情が見れるなんてねぇ」

「そ、そういう照輝はどうなのよ?」

「何がだい? あたしは別に自分が乙女であるコトを隠したりなんかしてないけど?」

「ぐぬぬ……」


 なんとか自分と同じような状況に引きずり込みたい紅久衣だったが、照輝はさらりと答えて、抹茶ミルクレープを優雅な所作で口に運ぶ。


「それに、あたしは留兎にはほぼ毎日ランチのお弁当を差し入れしてるしねぇ……。

 どこかに一緒に食べに行きたいけど、あいつはあんまり出かけるのは好きじゃないからね。だからまぁ、差し入れして、時々一緒に食べて……もうしばらくはそれでいいさ」


 乙女度と余裕度が50フィフティ50フィフティな感じの顔で、照輝が答える。


「よ、よく分からないけど、すごい敗北感を感じるわ……」

「ふふ。そうかい?」


 乙女顔になったコンビがそんなやりとりをしているのだが、二人のやりとりを聞いていた恵琉はふと思う。


「テル姉のそれって……今の関係から一歩踏み込むのためらってる感じなんです?」

「…………」


 乙女顔から一転、岩石のような硬い表情になって、彼女は動きを止める。それこそ石化してしまったかのように。


「えーっと、恵琉……もうちょっとこう、手心というか……」

「グイ姉もヒト兄の優しさに甘えてるだけじゃなくて、ヒト兄の優しく甘やかしてあげるのが良いと思うんですけど」

「……優しく、甘やかす……なるほど……?」


 言われて、想像した紅久衣はその、なぜか急に恥ずかしくなってきて、今まで以上に赤くなって俯いた。頭から湯気か煙が出ててもおかしくない雰囲気である。


「そ、そういう恵琉はどうなんだい? 学校にそういう相手はいたりしないのかい?」

「いやぁいないんですよね」

「いないのか」

「いたらたぶん、こうやって二人をからかったりしないで、一緒になって赤くなってたと思いますけど」

「気になる相手は?」

「いませんねぇ……わたしの中で男子評価基準がヒト兄なせいで、どうにも……」

「私が言うのもどうかと思うんだけど、正直リヒトくんを基準にするのはかなり危険だと思うんだけど」

「はい。グイ姉の言う通り、マジでそのせいで、どうにもこうにもって感じなものでして……クラスというか学年の男子全員がガキっぽく見えちゃうんですよね」

「リヒトくんも結構子供っぽいところあると思うけど」

「んー……ヒト兄のそれって『子供っぽい』ところであって『ガキっぽい』じゃないんですよねぇ」

「何か違うの?」


 首を傾げる紅久衣に、照輝は下顎を撫でながらうなずく。


「ちょっと分かる気がするね。恐らくは、ある一線を引いてるかどうかってコトだよ。

 留兎も子供っぽいところはあるけど、ガキっぽくはない。

 大人として、あるいは年齢関係なく人として、あまり越えない方が望ましいとされるラインを、調子にのった時に越えるかどうかっていう話だろ?」

「そうそう。そんな感じです。

 例えば調理実習中に友達ふざけちゃうとかあるじゃないですか。それで授業が進んで、火にかけた鍋の周りだったり、包丁を手にしている時とか出てくるじゃないですか。そういう時に、真面目になれるかどうか……みたいなところです。

 そういう場で真面目になれずふざけだすとガキだなって思いますね」

「なるほど」


 照輝と恵琉の解説で、紅久衣も納得する。

 もちろん物事の状況的、あるいは人ごとに基準は違うかも知れないが、恵琉が言うところの『子供っぽさ』『ガキっぽさ』の違いという話は理解できた。


「とまぁそんなワケで、わたしの周囲の男子って実の兄含めてわりとガキっぽく見えちゃってどうにも魅力が感じられないんですよねぇ」

「歳の近い大人との付き合いが多いと、余計そう感じるかもしれないねぇ……」


 抹茶ミルクレープの最後の一口を口に運びながら、照輝がしみじみうなずく。

 恵琉も、今食べている桜とモモのタルトが最後の一口だ。


 二人とも、持ってきたデザートの最後でもある。

 紅久衣は二人より先に、最後を口にしてたので、完食済みだ。


 その様子をうかがいながら、紅久衣は二人に訊ねる。


「二人とも、おかわりは行く?」

「もちろんさ」

「はい!」


 そんなワケで三人のデザートタイムはもうちょっと続き――時間ギリギリまで、デザートを食べ続けるのだった。




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本作と直接関係のない話題で申し訳ないのですが


作者の別作品

【魔剣技師バッカス】の書籍2巻が本日2024/8/9に発売となります٩( 'ω' )و

ご興味有りましたら、よしなにお願いいたします!


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