愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
第24話 最近、サメがもっとも生きづらい環境はどこなのかと考えた時、一番天敵が多いだろう海な気がしてきてる
第24話 最近、サメがもっとも生きづらい環境はどこなのかと考えた時、一番天敵が多いだろう海な気がしてきてる
ビュッフェへと向かう三人の声が、彼の耳へと届く。
とあるビルの屋上に隠れている彼と、歩道を歩く彼女たちの距離を思えば、本来、話し声など聞こえない。
だが、彼にはそれが出来た。
彼は影から放ったサメらしきものに、彼女たちを追わせているのだ。
そのサメが聞き取った音は、本体である彼の元にも届く。
もちろん、三人はそんなことなど気づかずに、楽しくお喋りをしながらお店へと向かっている。
「映画って言えばさ、照輝。あなたが前に見たいって言ってた映画はもう見たの?」
「ああ。見たよ。ビルディング・シャーク。最高にバカな映画で最高に楽しい映画だったよ」
「あまり聞いたコトないんですけど、有名な映画なんですか?」
恵琉の問いに、照輝はあっはっはと笑いながら首を横に振った。
「むしろマイナーな部類さ」
「でもカルトな人気はあるわよね」
「この映画が……ってよりジャンルが、だけどさ」
二人が楽しそうに笑うのを見ながら、恵琉が首を傾げる。
「どんな映画なんですか?」
「いわゆるサメ映画ってやつさね。今回のはビルの中を泳ぐサメから逃げる話でね」
「……サメがビルの中を……泳ぐ?」
宇宙をバックにしたような猫の顔をする恵琉を見て、紅久衣はオモチャを見つけたような顔をでたたみかける。
「建物の中を泳ぐサメっていうのは、わりとふつうよね?」
「かもしれないね。今回のはふつうにビルの中でなら海の中のように動けるタイプだったよ。建物の真ん中が吹き抜けになってるせいで、どの階へ逃げてもそこから現れるんだよ」
「壁伝いには来ないの?」
「いや来るよ。壁や床から背ビレを出しながら泳いで近づいてくる。あれがあるとグッとサメ感でるね!」
「確かにサメの背ビレは大事かも知れないわ」
二人のやりとりに、ますます宇宙に放り出された猫の顔になっていく恵琉。
だが、このやりとりに戸惑っているのは、恵琉だけではなかった。
(なんだ……今の会話はッ!? 映画の話? まるでこの能力がバレてしまっているかのような……いやだが映画の話だ。映画の話だと思うんだが、そんな馬鹿な設定の映画があるのか?)
能力を使って覗き見している男は戦慄している。
「あの……ジャンルがあるってコトは、そういう変なサメが出てくる映画って他にもあるんですか?」
「あるわよー! 夢のマイホーム。豪邸を買った家族に襲いかかる、家に住み着いているお
「竜巻に乗って町へとやってくるサメの群れの竜巻シャークとかもあったねぇ」
「最近は温泉にも出没してなかったっけ?」
「してるしてる! 水と空以外を泳ぐのだと、コンクリートを泳ぐ能力を得たサメが町で大暴れするシャークinコンクリートジャングルとかあっただろ」
「あったあったー! ファーム・シャークみたいに畑を泳ぐなんて当たり前だしね」
「影を泳いで飛び跳ねて影を渡り歩いていくシャドー・シャークなんてのもいるくらいだしね」
「水と空だけを泳ぐのがサメじゃないっていう感じよね。
奇行系だと、気に入った人間を追いかけて追い詰めて脅迫状やラブレターまで出し始めるシャーク・ストーカーとか!」
「人間を襲うも返り討ちにあって死んだサメが蘇って復讐するアンデッド・シャークなんてのもいたね! ホラーとして結構良く出来てたよ」
「変化球系だと触手の生えたタコシャークっていうのもいたわよね」
「あったねぇ! 同系統のやつだと首が三つあるケルベロシャークっていたな」
「……映画界におけるサメって何?」
遠い目をする恵琉に、紅久衣が首を傾げるように答えた。
「万能モンスター?」
「深く考えるだけ無駄だよ! サメはサメさね。サメの体裁を保ったままどこまでやれるのか挑戦しているのさ!」
逆に照輝は笑いながらそう答える。
二人の答えを聞いた上で、恵琉はさらに首を傾げた。
「水の中以外を泳ぐサメって、サメの体裁保ってるって言えます?」
「それは言わないお約束さ!」
「そうそう。ツッコミを入れすぎたら負けよ!」
二人からそう言われ、恵琉は困惑しながらも受け入れるのだった。
あるいは、意味不明な泣き寝入りというべきかもしれないが。
しかし、そんな中で気が気ではない男が一人。
すぐ近くのビルの屋上で、能力経由で三人の様子を見ていた彼は、驚きのあまり目を見開いている。
(わ、我がチカラ――シャドウ・シャークの能力がバレバレであるのか……ッ?!
いったいどこでバレた? これまでは可能な限り隠密に行動してきたハズであるのにッ!!)
全てが全てその通りというワケではないが、映画の話のはずなのに、自分の能力内容が多分に含まれていたのだ。
(サメを題材にした映画がそんなバカな方向になるワケがなかろう……。
やはりあの女とそのボディーガードには、どういうワケかこちらの手の内がバレているようであるな……!)
それは恐ろしいことだ。
少なくとも、男は紅久衣たちと対面したことがなければ、能力を見せたこともなかったはずである。
(影も、コンクリートも、床なども、私のシャドウ・シャークたちは泳ぐ。
私の可愛いサメたちの能力をここまで完全に把握するなどありえぬはずであるが……)
ましてや、映画に関する話題というていを不自然さを無くした上での盛り上がり方。
シャドウ・シャークの能力を知っていて、かつ男が盗聴していることにも気づいている。
だからこそ、こんなわざとらしい、ありもしないサメ映画の話で盛り上がっているのだ。
(ここまでバレてしまっているなら、一度引き上げた方がいい気がするのであるが……)
ビュッフェ会場でシャドウ・シャークたちを暴れさせようと思っていたのだが、こちらの手の内がバレてしまっているのであれば、うまくいかない可能性の方が高いだろう。
(……あの女の能力は、金属製の翼を作り出し、その羽根を操作しての中・遠距離からの攻撃らしいと聞いている。
ならば、あの女の能力ではないな……ならばゴリラ女か?
情報収集系の何らかの能力を用いてこちらの手の内を読んだ可能性が高いのであるな。あれだけ鍛えているのだ。事前に情報収集をした上で、相手の手の内を躱して近づいて、鍛え抜いた肉体でトドメをさすような戦術を使ってきても不思議ではないのである)
ちなみに全くの誤解である。
照輝は確かに格闘技をやっているし、あの肉体で相手を粉砕するような戦い方をする。
だが能力者ではないし、この手の裏社会系バトルとは無縁の女性だ。
もっとも、この場でそれを教えてくれる者はおわらず、勘違いが訂正されるキッカケもないので、彼にとっては能力者であるという思い込みが事実となっている。
(やはり、一度退くのである……今日はあの女も、一緒に居る少女も、狙うのは難しそうであるしな……)
そう思った時だ。
「キミさぁ……今、紅久衣ちゃんたちのコト、覗いていたよね?」
「……!?」
まだ若い男に声を掛けられる。
「…………」
恐る恐る振り返ると――
「く、久慈福氏……ッ!?」
彼のメインターゲットであるリヒトが立っていた。
「どうして……?」
まずい――と、男は焦り出す。
十匹操れるシャドウ・シャークのうち八匹は町へと放ってしまっている。
今使える二匹だけで、この局面を切り抜けられるかどうか――
「すまないが、綺村 紅久衣を狙われるのは困るのでね」
――だが、この場にやってきたのは、リヒト一人ではないようだ。
「綺村 紅久衣は我々のターゲットだ。余所の同業者に
リヒトの背後から現れた、うだつのあがらないサラリーマンのような見た目の男性は、メガネのブリッジを押し上げながらそう告げる。
「だ、だが――いいのか久慈福氏ッ! いまの話を聞くに、その男は……!」
「紅久衣ちゃんのピンチを教えてくれたからね。一時休戦だよ。キミをどうにかした後で、この人とちゃんとお話をする予定だから」
そう言って、リヒトは拳を握った。
リヒトを見据えながら、男は必死に思考を巡らせる。
(く、来る……ッ! 久慈福氏の能力の詳細は分からない……!
だがこれまでの報告から推測したいが、要領を得ない内容ばかりであったな……!
突然、身体に穴が開いて痛がっている間に、パワー強化系と思われるチカラで殴られた……みたいなのばかりであるしな!)
能力が二つあるわけではあるまい。
何らかの一つの能力を使い分け、さも複数の能力を持っているかのように装っている。
カンが良いのも、もしかしたら能力由来のものなのかもしれない。
(ダメだ。何も手が思い浮かばぬのであるッ! こうなったら……ッ!)
グッとリヒトがチカラを入れながら腰を落とした。
それを見ながら、男が叫ぶ。
「いくのであるッ、シャドウ・シャーク!」
自分の影に潜ませていた二匹のサメを解き放つ。
背ビレを見せつけながらコンクリートの床を泳ぎ、途中で顔を出すとリヒトへと飛びかかる。
「遅い」
だがリヒトは慌てず騒がず、冷静に二匹のサメの噛みつきを躱しながら、中央にある隙間を縫って前に出ててきた。
(た、確かに隙間はあったのだが……正気であるかコイツ……ッ!?)
下がらないとまずい。
男がそう思って後ろに下がろうとした時だ。
ズキリ、ズキズキと……右足が猛烈な痛みを訴えだした。
「なにが……?」
自分の右足を見れば、報告書にあった通り、何らかの能力によって攻撃を受けた形跡があった。
ふくらはぎに小さくも深い穴が開き、スネに深いえぐり傷のようなものが縦長につけられていた。それぞれからかなり出血をしている。
(い、いつの間に……?!)
そちらに気を取られた。
足の痛みのせいで踏ん張れない。
慌ててシャドウ・シャークを呼び戻すも、リヒトの方が明らかに早い。
目の前に――何らかの能力によって、一回り大きくなったリヒトの拳が迫る。
「う、うおおおおお……ッ!」
叫びながらそれに対抗しようとするも、本来の職業は研究者。
研究以外に興味もなく、流行にも疎く、サメ使いのクセにサメ映画もロクにしらない。
じゃあサメの研究でもしているかと言えばそういうワケでもない。
ただバニヤンの弾丸を使用して発現した能力がサメだっただけの男だ。
そんな男が、それなりに身体を鍛え、この手の能力者バトルを何度も乗り越えてきているリヒトの暴力に抵抗できるワケがない。
へっぴり越しに、イメージの中にある格闘家風それっぽい素人ポーズを取ったところで、どうにかなるほど、世の中は甘くないのである。
「ぐ、お……」
強烈な拳が頬を――顔の側面を大きく凹ませながら、振り抜かれる。
男はそのまま吹き飛ばされて、落下防止柵に激突すると目を回す。
サメ使いの彼が意識を失ったことで、彼のシャドウ・シャークたちの姿は消えていった。
目を回す男を、面白くなさそうに見下ろしながらリヒトは、紅久衣や恵琉の前ではあまり見せない冷めたシニカルさを持った表情を浮かべた。
「叫ぶだけで何かが起きて助かったら、世の中色々ラクだよね」
吐き捨てるようにそう口にすると、リヒトはその表情のまま、くるりと向き直りサラリーマン風の男性を見る。
「さて、こいつを拘束したら次は貴方です。しっかり、お話しましょうね」
そんなリヒトの姿に、サラリーマン風の男は、思わず冷や汗を垂らすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます