愛が空から落ちてきて~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
第23話 人を見かけではなくラブスメルで判断する系妹分
第23話 人を見かけではなくラブスメルで判断する系妹分
アントワープに恵琉がやってきて、紅久衣の事情を聞くなり、彼女は言った。
「よし。グイ姉。あたしとデートしよ!」
そしてマスターも、それにうなずいた。
「ああ。行っておいで」
そんなワケで、紅久衣は恵琉と一緒に出かけることになったのだった。
栗摩センター駅前。
「そういえば、グイ姉のスマホっていつ戻ってくるの?」
「あー……」
買い物がてら駅ビルへと向かっている途中、恵琉にそう訊ねられた紅久衣は声を上げた。
「……もうすぐ直ってるかも? ちょっと顔出して見ようか」
「いいですねー! 直ってたらラッキーだし。でも代替機とかなかったんです?」
「純粋なスマホのお店じゃなくて、機械類を色々修理してくれるお店だからねぇ」
「ほへー……そういうものあるんだ」
そのお店に恵琉を連れていって良いのだろうか――と僅かに考えた紅久衣だが、別に非合法のお店というワケでもないので問題ないだろう。
そうして、恵琉を連れてあまり人通りの無さそうな路地裏の先にある、さらに入り組んだ薄暗い路地の一角に居を構えた申し訳程度の看板を出している小さな店にやってきた。
機械修理承ります『シュガーハウス』。
簡素な看板にはそう描かれていた。
「グイ姉……ちょっとアングラすぎない?」
「そう? この程度はアングラにならないと思うけど」
不思議そうに小首を傾げて入り口のドアノブに手を伸ばす紅久衣を見ながら、恵琉は思わず呟く。
「うーん、グイ姉って変なとこ世間ズレしてる? そのあたりはヒト兄に似てるかもなぁ」
ともあれ、こんな路地裏でひとりぼっちにされても困るので、すぐに紅久衣に後をおってお店の中へと入った。
お店の中は余り広くはない。
真ん中にカウンターがあって、カウンターの向こうに男性が座っている。その奥に扉があるので、まだ奥はあるようだが、接客スペースはかなり手狭に感じる。
「……いらっしゃい」
中で出迎えてくれたのは明らかに無愛想な感じの厳つく強面な男性の姿に、恵琉は思わず声を上げかけた。
彫りの深いイケメンではあるのだが、クールカットにした髪に、左の頬骨辺りから唇の左側を経由して、顎の方へと大きな傷があるのだ。
目つきの悪さや、無愛想な感じも相俟って、ヤクザやマフィアそうでなくても、そういう連中の舎弟とか子分とかではないかと思わせる。あるいは、悪役レスラーか。
さすがに失礼になると思ったので声こそ上げなかったが、恵琉の内心はビビりまくりであった。
「
「ああ。ちょうどさっき終わったところだ。だが、そっちのガキはなんだ? カタギを連れてくる店じゃないぞ」
ああ、やっぱりそういう裏社会の――と恵琉が納得しかけた時、紅久衣がツッコミを入れる。
「辺瀬くんだってカタギでしょうが」
「…………」
言われた辺瀬は困ったように後ろ頭を撫でると、少しバツの悪そうな顔をして立ち上がった。
「待ってろ。依頼品を持ってくる」
「はーい」
辺瀬の後ろ姿が、カウンター奥の扉に消えていったのを確認してから、恵琉は訊ねる。
「カタギのお店なんですよね?」
「そうよ。単に辺瀬くんが、人見知りな上に人嫌いだからああいう態度で
「……つまり常連さん以外と仕事するのが苦手な人ってコト?」
「だいたいあってる」
そう言われると、なんだか辺瀬が可愛い人に思えてくるから不思議である。
なんとなく、カウンター奥の扉を見ていると、ガチャリと背後にある入り口の扉が開いた。
「そういうところが可愛いのさ、アイツはね」
同時に、低い女性の声が頭の上から聞こえてきて、恵琉は慌てて振り返る。
「しかし、何度来ても狭苦しい店さね」
「
「あっはっはっは。否定はしないよ」
どうやらこの大きい人も紅久衣の知り合いのようだ。
そして実際、紅久衣に照輝と呼ばれた女性は大きかった。
身長は二メートル近くありそうだ。百五十センチに届かない恵琉では見上げないと、照輝の顔が見えない。
「おっきい人だ……」
「あっはっはっは。よく言われるよ!」
大きいのは身長だけでなく体格もだ。
いわゆるムキムキマッチョなのだ。手足が太い。
男と見紛うほど見事な筋肉の鎧に全身が覆われていて、仕立ての良さそうなスーツの上からでもそれがハッキリと分かる。
レディース向けのパンツスーツながら、このサイズのものは簡単に見つかるものではなさそうなので、オーダーメイドなのだろう。
左手に何やら小さいバッグを持っている――ように見えるが、彼女との対比で小さく見えるだけで、ふつうに買い物に使うようなサイズのエコバッグだった。
「ん? 照輝か。来てたのか」
「邪魔してるよ、
「ああ」
扉の奥から戻ってきた辺瀬が、照輝の顔を見ると僅かに微笑んだ。
そこにラブの波動を感じた恵琉は、これはこれは――と内心ニヤける。
「待たせた綺村。一応確認してくれ」
「ええ」
紅久衣がスマホを受け取って操作し始めてるのを横目に、照輝が持っていたバッグを辺瀬に差し出す。
「ホラ。どうせ今日も何も食べずに作業してたんだろ? 弁当作って来てやったから食べておくれよ」
「すまん。助かる。いつも悪いな照輝」
「……そう思うなら、コンビニ弁当でも構わないから、ちゃんと食事を摂っておくれよ」
「善処する」
あ、これ絶対食べないヤツだ――と思いつつ、苦言を呈した時に少し顔が赤くなっていた照輝に、恵琉は内心できゃーきゃーはしゃぐ。
ただその様子に気づいたのか、照輝が訝しげに恵琉を見た。
「お嬢ちゃん、随分と楽しそうな顔をしてるじゃないか」
「そこはホラ! あたしも乙女ですので?」
「……そういうコトなら仕方ないね」
どうやら、それだけで伝わったらしい。
「そういや名乗って無かったね。
「原田 恵琉です。テル姉って呼んでいいですか?」
「ああ。構わないよ」
恵琉と照輝が互いを自己紹介しあったタイミングで、スマホの確認を終えた紅久衣がうなずいた。
「うん。問題無さそう。いつもながら良い仕事してくれるわ、辺瀬くん」
「どうも。追加料金が必要な作業はなかったから、受け取りのサインだけして持ってってくれ」
「はーい」
紅久衣は差し出された受領証にサラサラとサインを書いて、辺瀬に戻す。
「これ受け渡し完了だ」
「ええ。また何かあったらよろしくね」
「ああ」
ぶっきらぼうにうなずくと、何かの書類を取り出して読み始める。
「相変わらず仕事が好きなんだから」
「仕方ないさね。紅久衣も、分かっててここを使ってるんだろう?」
「まぁね。実際、腕もサービスも確かだもの」
「店長の愛想がないのと店が狭いコト以外は悪くないものな」
「二人からの評価がいいってコトは本当に良いお店なんですね!」
女三人で笑っていると、辺瀬は視線を書類から二人へと向けた。
「お前ら、そういう話は俺に聞こえないところでやれ」
とっとと出てけ――と手を振る辺瀬に、三人は笑いながら店をあとにする。
「二人はこれからどうするんだい?」
「特に予定はないのよね。恵琉ちゃんと買い物するくらい?」
「そういうテル姉は?」
「あたしかい? あたしも留兎に弁当届ける以外に用事はないんだよね。今日はトレーニングも控えめにして休日にする予定だったしね」
ふーむと三人で悩んだところで、恵琉がポンと手を打った。
「じゃあ、三人でお茶でもしますか。テル姉から辺瀬さんについて色々聞きたいし、グイ姉からもヒト兄について色々聞きたいし?」
「お? 誰だいヒト兄ってのは?」
「ふっふっふ。グイ姉のイイ人でっせ、テル姉」
「そいつぁ……あたしも聞きたいね?」
「自分も聞き出されそうなのにいいの?」
楽しそうに恵琉の提案に乗ろうとしている照輝に、紅久衣が顔を引きつらせながら訊ねる。
それに、照輝が笑った。
「構いやしないよ。むしろクールぶったお前さんにイイ人が出来たっていうんだ。好奇心がうずかないワケないじゃないか!」
「…………むぅ」
かなり不満げな猫を思わせる顔をする紅久衣を見て、照輝がさらに笑い声を高める。
「それにしても、恵琉は人と仲良くなるの上手いのね」
「グイ姉の話題転換に誤魔化されてあげますけど……それよく言われるんですけど、自分ではよく分からないんですよね」
紅久衣の言葉に、恵琉がそう返す。
「まぁ自分が一番得意なコトってのは、案外自分で気づかないコトも多いもんさ」
それに、照輝がそう言ったあとで、少し思案顔をした。
「しかしお茶かぁ……うーむ……」
「あれ? 急にノリ気じゃなくなったの?」
「いやぁ、アフタヌーンティーも悪くはないんだけどね。今日はあたしのチートデイなのさ」
「チートデイ?」
首を傾げる恵琉に、紅久衣が答える。
「食事制限しながらトーレニングする人にとって、あえて自由に食べていい日のコトよ。
完全に制限しちゃうより、時々そうやって自由に食べていい日を作るコトで、ストレスの軽減と、ちゃんとした栄養の補給をするワケね」
「へー」
「そんなワケでさ、二人がダメじゃないなら、あたしのオススメのビュッフェにでもいかないかい? 付き合わせる以上はあたしのオゴリさ」
「何があるお店なの?」
「何でもあるし、何でも美味い店さ。肉も魚も、野菜も……スイーツも」
照輝が、最後にニヤっとしながらスイーツと口にすると、紅久衣と恵琉もニヤっと笑う。
そうして、照輝のオススメの店へと、三人は向かうことにするのだった。
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・
・
「……最近、久慈福氏と一緒にいる女性もまた何らかの能力者で腕利き。
人質などを利用するのであれば、狙ってはいけないそうであるな……」
どこかのビルの屋上。
そこで、小汚い研究者のような格好の男が、あぐらをかいて座っていた。
双眼鏡のようなモノを使ってもいないのに、その男は紅久衣たちの様子を正確に把握しているようだ。
「ならば狙うは近くにいる別の女性――あの小柄な少女が良いかと思ったが……。
なんであるか、あのゴリラのような女は……? あれも能力者? いや、もしやこちらの狙いに気づいて雇ったボディガードの類いであるか?」
だが、把握した結果、男は混乱していた。
「これからビュッフェに向かうそうだし、もう少し様子を見るか……。
私の能力であればむしろレストランの店内で仕掛けた方が、確実であろうしな」
それでも、男は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「久慈福氏がダメでも、彼女を捕らえるのも悪くないそうであるからな。
我らとは異なるアプローチで作り出された人工能力者。その成功体と思われる存在。実に研究のし甲斐があるというモノ」
ぶつぶつと独り言を口にしているその男の影から、サメの背びれのようなモノがいくつか現れると、コンクリートの屋上を進み、壁面を通じて、道路へと降りていく。
「とはいえ、本命は久慈福氏……。
彼を勧誘するのであれば、見せしめとして女三人殺しておくのも悪くはないのであろう。お前がうなずかないから三人は死んだのだと言えば、真面目な彼のコト、嘆きながらうなずくであろうよ」
シャーックックックック……と、奇妙な笑い声を盛らしながら、男は、自身の能力で生み出した存在の目や耳を通して、紅久衣たちの様子ののぞき見を続けるのだった。
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