第7話

 七月上旬。暑い。かなり蒸し暑い。


「今日の放課後、服買いに行くわよ」

「えぇ、はやく家に帰りたいんですけど」

「なに?文句あんの??」

「はやく家に帰りたいが文句のつもりだったんですけど」

「私は美月の露出度高めな服を買いに行きたいの」

「はぁ、そうですか」

「じゃあ行くわよ」

「???」


 言われるがままに放課後、私はショッピングモールにやってきました。

 解せませんね。ほんとに。せめてもの配慮として、よーちゃんも行先のショッピングモールは電車に揺られて小一時間ほどかかる割と離れた場所にしてくれたみたいですけど。

 今日一日学校でずっと登校中のやり取りを考えてましたが、やっぱり私には話の脈絡を理解することが出来ませんでした。


「今日はたくさんお金を使うわよ!」

「え、私ぜんぜんお金持ってきてませんよ?」

「美月の服は全部、私が買うから安心して」

「え、そんな!私なんかの服のためによーちゃんがお金かけないでくださいよ!」


 彼女が日頃から貯金していることは知っています。

 お年玉に月のお小遣い。オシャレな服は親から買ってもらっている彼女はどうやら以前好きだと言っていた百合漫画や百合小説以外にお金の使い道が見つからず、貯金だけが増えていく一方だそうです。


 それに対して私はお年玉やらお小遣いで小説に漫画、アニメのグッズ(所謂、推し活)などを買い漁るため、わりと金欠気味。それでも最低限の貯金は私もしているつもりです。よーちゃんがお金を使わなすぎなだけなんです。


「前から思ってたのよ。美月、私服ってほとんどパーカーにジーンズとかじゃない。髪型とかもオシャレとは程遠い感じだし。……いっそのこと今日美容院にも行ってその邪魔な前髪、綺麗に切って整えてもらいましょうよ」

「それだけは絶対に嫌です」

「……でも、ぁの時、じゃま、だったじゃない?」

「え?」


 ちょっと、急にもにょもにょ喋るのやめてくださいよ。全然聞き取れないじゃないですか。


「……っ//………ほ、ほら!このまえ、き、キスしたとき!美月の前髪が邪魔だったって言ってるの!」

「ぅぁ///ちょ、ちょっとよーちゃん!もうそれは忘れてくださいって言ったじゃないですか!」

「忘れられるわけないでしょう!?」


 あの日、朝、私たち二人しかいない教室で私から喰むようなキスをした日。


 時間が経つに連れて、恥ずかしさも増していきました。仕返しすることしか考えてなかった私だけれど、彼女と重ねた唇の感触が一向に忘れることが出来なくて。

 それは家に帰ってからも続いて、なんだか悶々として。


 その日はネットで『女性同士 キス』なんて調べちゃったりして。結果もっと悶々としてしまった私は胸や下腹部に手を伸ばしかけて………。

 同性間の触れ合いであそこまで性的興奮を覚えてしまった自分自身にショックを受けた私は寸前で理性を保ち、抱えた悶々を抑えつけるように眠りました。


 そんな自分が少し怖かったから、だから言ったんです。

 翌朝、「昨日のキスはお互いにとって、よくよく考えてみれば悪手でしたね。もう忘れましょう。と言うか、出来れば無かったことにしましょう」って。


 その時の彼女の表情と言ったら。

 怒ったような。でも少し分かっていたかのような。そんな顔をしていました。


 だって、本当に怖かったんです。


 性的興奮をした際に発散する行為についてのやり方は一応知っています。けれど、過去、実際にやってみた時にズキンと、熱くなるような痛みに襲われて。それから結局、私は今までの人生で悶々とした気持ちを抑え込むことしかせず、発散したことがありませんでした。


 それが、まさか同性同士のあれこれを見て初めて自分で気持ちよくなろうとするなんて。なんだか自分は同性愛者みたいで。


 そういう人たちのことはなんら可笑しくない当然の権利を持った同じ人間だと思っていたのに。いざ、自分がそうなのかもしれないと思うと、それはどうしても納得できなくて。


「………まぁ、髪については追々どうにかするとして」

「どうにかしないでくださいよ」

「今日の目的は美月にたくさんのガーリー系の服を着てもらうことね」

「えぇ、パーカーが一番ですよ。女の子らしい服って、私みたいな地味子には似合いですもん」

「そう思ってるのは美月だけってことを今日、証明してあげるわ!」


 自信満々にそう言いながら私の手を引く彼女の後ろ姿を見て、『大丈夫。よーちゃんは大切な幼馴染だけど、恋愛対象ではない。私のタイプは趣味が合う優しそうな男性』と心の中で何度も呟きながら、後を追うのでした。





 帰宅後、両手に二袋ずつ、様々な可愛らしい服が詰まった紙袋を持った私が満更でも無さそうな顔をしていたと、お母さんは言っていました。


 意味がわかりませんね、まったく。

 こんなの、たまにしか着ることなんて無いでしょうに。

 嬉しくなんて無いんですから。



〇 〇 〇

これじゃあ、どっちがツンデレかなんて分かりませんね。

それと、本作品の現段階での作者である私が考えている展開を近況ノートにあげているので、気になる方は見に来てください。

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