第5話
ここで。この未だ私とよーちゃん、二人だけの空間で。
一つの机を挟んで椅子に座って向かい合う二人が。
キス。キスをしている場面を想像してみます。いや出来ません。出来るはずがありません。
「私たち、女の子同士じゃないですか」
「でも昨日のアニメはどうだった?あのアニメに出てきた子たちを私と美月に置き換えてみたら?」
「……………」
昨日見たアニメ………。
横座りしながらテレビを見ているよーちゃん。
そんな彼女の背を目指して、こっそりと近づく私。
肩を優しく、撫でるように叩いて。
えっと、それから。
振り向いたよーちゃんに合わせて私は彼女の正面に回り込む。
それで、えっと、「もう!からかわないで―――」ってこっちを見たよーちゃんの私よりも大きい体にのしかかるように、太もものうえにお尻を置いて彼女の首に甘くねだるように腕を回す。
そしたら……、そのあとに…………。
………っ///
「どう?美月の中で、昨日見たアニメの子たちと同じこと、私たちは出来てた?」
「そ、ぅ、あ、あんな卑猥なキス………っ//」
「むふふ!出来てたんだね、美月の頭の中で、私は、美月と。しかも、ふかーいやつ♡」
あー、もう!
昨日から私はよーちゃんに意地悪されてばかりな気がしてなりません。
それに私自身もなんだかおかしくって。あのアニメを見てから、詩的に言えば見る世界が少し変わったと言いますか。女の子と女の子の愛し合い方を知ってしまったからでしょうか。
変なふうに自分が影響されてしまっているような。
今もそうです。
こうして目の前でニマニマとあざとく笑うよーちゃんを見ていると、その顔を私よりも熱を帯びた赤色に変えたい。私が彼女を辱めたいという欲が爆発しそうです。
「アニメの子たちと同じことが私たちに置き換えて想像できたなら、今、ここで私と美月がキスする想像、できるわよね?」
………あー、こういう子をきっと小悪魔と呼ぶんでしょうね。
朝練を始めた部活動の声が段々と聞こえてきます。
朝陽が差し込んで、彼女が照らされて。
私は陰でほの暗いまま。
なんて対照的。
べつに私は女の子が恋愛対象ではない。
よーちゃんにも恋愛感情は抱いてない。けれど大切な幼馴染。
ずっと一緒にいたいとすら思える生涯の親友。
そんな彼女が、なんで私にこんな無意味な意地悪をするんですか?
よーちゃんだって別に恋愛対象が女性じゃないですよね?
前にドラマに出てた男性の俳優さんが好きだって言ってたの、覚えてます。
じゃあ、こうして揺さぶる必要、無いじゃないですか。
昨日から私おかしいんですってば。
あんなアニメ見ちゃったから、やけに頭では昨日見たよーちゃんの下着姿が艶やかに見えちゃいますし。アニメのキスシーンとかも全然頭から離れてくれなくて困ってるのに。
どうしてそんな状態の私に、そんな試すようなことさせるんですか。
今、この静かな空間。
私たち以外に誰もいない教室。足音の一つもしない廊下。
そんな場所で女の子ふたり、
よーちゃんはきっと私にそんなキス、されないと思っているんでしょうね。
むむっ。
なんかそう考えてたら、悔しくなってきました。
彼女は私とのキスなんてどうとも思わないから、こうして平然とからかうネタにすることが出来るんです。
………ちょっとくらい仕返ししても、文句を言う資格なんて無いはずです。
「どう?出来た?私とキスする想像」
「今、する必要が無くなりました」
「え?」
私は手を伸ばして、彼女の頬を挟むようにその手を添えます。
それから腰を浮かして、彼女に「こっちを向いて?」と先導するように両手で添えた彼女の顔を少し上に向かせて。
「―――ぁむ」
私は彼女の唇を、
自身の唇を持って、彼女のふわふわとした唇を。
あぁ、今の私はだから、おかしいんです。
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