第一章
第4話
朝、家を出ると幼馴染がいる。
その風景はもはや見慣れたもので、いつからか、なんとも思わなくなってしまいました。
「おはようございます」
「おはよう美月」
「今日も校門から少し離れたコンビニの前ら辺まで行ったら、離れますからね」
「分かってるわよ。同じこと毎日毎日言わないで」
家から近いという理由と、たまたま制服が可愛くて気に入ったという理由が組み合わさり、今通っている高校に進学した私たち。
徒歩で20分ほどで着くその距離を、最初、幼馴染である彼女は自転車で通おうとしていました。けれど徒歩で行くつもりだった私がその旨を彼女に伝えた途端、急に彼女も一緒に徒歩通が良いと言いだしてきて。どうやら彼女はよっぽど私に劣等感を抱かせたいのだなと少し呆れてしまいます。
「ところでさ」
彼女の隣を通り過ぎて、置いていく勢いで歩き出す私を小走りで追い越して。
よーちゃんは華やかに笑います。
「昨日、私が帰ってから、ナニかした?」
……ニマニマと楽しそうにしてるところ申し訳ないですが、どういう意味でしょうか?
昨日よーちゃんが帰ったあとにしたこと、たくさんあります。
ご飯を食べて、お風呂に入って、アニメを見て、SNSを見て、小説を読んで、時々よーちゃんの見慣れたはずなのに今は恥ずかしい煽情的な姿を思い出したりもして、でも意味わかんないと無理やりに眠って。
「色々ありますけど、どれを言うのが正解なんですか?」
変な質問を朝からしてくる幼馴染に、呆れた様子でそう逆に問うてみます。
「あー、その反応で大体わかったわ。………(私の理想は、美月が私で欲情して一人で自慰に耽ることだけれど。そこまで行けばもう私の勝ちは確定なのだけれど。……今の様子だと昨日の短い時間での下着姿だけじゃ、どうも分が悪そうね。もっと刺激的かつ積極的にアタックしないと、見ての通り美月って鈍感で真面目で、少しお堅いとこがあって自分は男性を好きになると思い込んでいるから。……はぁ。道のりはまだまだ遠そうね)」
………???
本当に彼女は私に何を期待していたのでしょうか。もう彼女のニマニマだったりニヤニヤとした表情は昨夜限りで充分だというのに。
「考え事、してもいいですけど止まらないでください。遅刻します。置いて行きますよ」
「あ!ちょっと、待ちなさいよ!どうせいつも優等生の美月に合わせて絶対に遅刻なんて有り得ない時間に家出てるんだから!ちょっと立ち止まったところで遅刻なんてするわけないでしょ!!」
「うるさいでーす。置いて行きまーす」
「待ちなさいってば!」
私たちが学校に着く時間帯、今日みたいに、まだ人がほとんどいません。
日によれば、生徒で私たちが一番早いときもあるほどに、私は時間において余裕を持って行動するタイプです。
「しっかし小学校と中学校の合わせて九年間で美月と同じクラスになれたこと一度も無かったのに。高校に入ってから一年目で同じクラス引き当てるとか、ようやく私にも運がまわってきたのかしら」
「………あの、もう毎回言ってることですけど、どうして毎度毎度、ここまで結局ついてきちゃうんですか?私、毎朝言ってるじゃないですか。コンビニの手前らへんで別々に登校しましょうって」
「だーかーら、そんなこと毎回言わなくてもいいわよ」
「結局一緒に登校するはめになってるから、毎回同じこと言うんですよ」
「じゃあ私もこの先、何回でも今までと同じこと言うわよ。こんな時間に登校する生徒なんて極僅か!通学路も全然人いなかった!よって美月が懸念してるような私たちがすこぶる仲が良いのを目撃した人物は多分いない!!はい、以上!!!」
そう言ってさりげなく私の手をとり、教室まで歩き出す彼女。
教室に入れば私たち以外にはまだ誰もいなくて、まだ二人だけの時間が続いてくれる。
この時間は正直、けっこう好き、だったりします。
朝の誰もいない教室で、よーちゃんと二人きり。
今まではなかなか味わえなかった感覚で、こんな時、よーちゃんと同じクラスになれたことの幸福を私はその身で味わう。
「こんなに静かな空間に私たち二人っきりだと、なんかバレたら終わりなイケナイこと、したくなってこない?」
「なんですか?それ。私はこの空気感だけで満足ですけど?」
「そう?じゃあさ、例えば―――」
「――――ここで私たちがキスしてたら、それはイケナイことで、ドキドキしてこない?」
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