第3話
「っ!?」
ぴとっ、といつの間にか肩が触れ合ってしまうほどの距離に驚いて、鼓動が高鳴る。
「ど、どうだった?百合アニメは」
私のタオルケットにくるまったままのよーちゃんが、期待半分と不安半分を孕んだ瞳で私を注視してくる。
い、いつの間にこんなに距離を縮めていたんですね。いや、それに気づくことが出来ないほどに私も、この百合アニメに集中してしまっていたんでしょうけど。
正直に言うと、今日見た百合アニメはとても面白かったし、割と過激めの女の子同士のいちゃいちゃがあったりして、私も内心キュンキュンしたりもしました。
未だ私が契約しているサブスクでは13話中の10話までしか公開されていなくて、続きを早く見たいという気持ちにも駆られます。よーちゃんは『百合』というジャンルが好きなんでしょうか。
お昼過ぎから見始めて、気付けば部屋も薄暗くなっています。
テレビの画面を消すと、本格的に部屋は暗くなって、私とよーちゃんの二人だけの息遣いが聞こえます。
「とても面白かったです。見る前までは同性での恋愛だとか、過度な密着が想像できなかったんですけど。なるほど、ああいう感じなんですね」
「その、……ドキドキ、した?」
「……………はい。なんだか悔しいですけど、めちゃくちゃドキドキしちゃいました。よーちゃんはこのアニメが純粋に興味あったんですか?それとも、もともと百合というジャンルが好きだったり?」
私が今も高鳴る鼓動の音を気づかれないように身じろぎして、真隣りに座るよーちゃんから距離を空けようとすると、よーちゃんはまるで私をからかうように、空けたぶんをすぐに詰めてきます。
「うん。私は百合が好きよ。ドキドキするし、キュンキュンするわよね。このアニメの他にも、漫画とか小説とか、実は色々持ってる。……興味ある?」
「あの、ちょ、ちょっと!………ち、近いです///」
「え~?いつも私たちの距離感ってこのぐらいでしょ?」
「ち、違いますよ!」
「なーに、まさか意識してんの?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたまま、それでも頬を赤くしたりもしながら、幼馴染である彼女はどんどん私との距離を詰めて、余分な隙間を埋めてきてしまいます。
どうして顔をそんなに近づけてくるんですか。
どうして私の太ももの上に手を置いてくるんですか。
どうして、どうしてさっきの百合アニメの、あの淫らで過激なキスシーンを、こんな時に意識してしまうんですか。
私は顔に熱が帯びているのを自覚しながら、思い切ってよーちゃんを押し退けます。
◇ ◇ ◇
「い、言っときますけど!私が面白いと思ったのは今日見たこの百合アニメというコンテンツであって、『百合』というジャンルに興味を持ったわけじゃないです!」
私の肩を押して、無理やりに距離を取ろうとして。
けれど私が怪我をしないように全然押す手に力が込められてなくて。
結局、私との距離は変わらず至近距離のまま。
美月はまるで子犬の如くキャンキャンとそう吠える。
「あ、ちょ、ちょっと!や、やめてください!!」
私が美月の噛みつくような甲高い声を無視しながら、彼女のその目を隠すような前髪に手を伸ばすから。
美月も必死に私の伸ばす手を止めようとする。今度は本気の抵抗だった。
私と二人きりのときは、その前髪、必要ないのに。
「あぁ!」
彼女の前髪を手で上げると、そこには涙目の、顔を真っ赤にしたこの世界の誰よりも可愛くてかっこいい中性的な美貌。
「ねぇ、このタオルケット、返してほしい?」
「えっ?」
彼女の露わになったその瞳をもっと近くで見たくて、さらに顔を近づけた状態で問う。
「そ、そうです!さっきは見逃してあげましたけど、こんなことするなら、もうそのタオルケットは返してください!」
「わかったわ」
「え?」
彼女が伸ばしてきた手を、私は拒むことなく受け入れてタオルケットが彼女の手元に渡る。
「この部屋、なんだか蒸し暑いわね」
「え、なっ、ぅあ///」
「なに?どうしたの?顔が真っ赤だけど?」
あぁ、私は今、あられもない黒の下着姿で、隠すこともせずに、高揚としながら彼女に挑みかかる。
顔を赤く染める彼女が可愛くてしょうがない。
ニヤニヤがとまらない。
さすがにまだ、これ以上のことを求めることは恥ずかしいし今すぐに服を着たいけれど。
今日は。この機会は。今夜からは。
私だって、いつまでも美月の幼馴染ポジションで収まり続けるつもりは無い。
今夜、私はちょっぴり淫らな、あなたを誘うネコになる。
〇 〇 〇
ここまでがプロローグです。
急展開すぎたかなと少し心配。
とりあえず、ツンデレがこれから過激に鈍感無自覚幼馴染にアピールしていくよーってことです。
応援よろしくおねがいします。
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