第2話
「………それ、暑くないんですか?」
飲み物を取りに行ってまた自分の部屋に戻ってきたら、私が寝るときに掛けている、ベッドの上に畳んで置いてあったはずのタオルケットに幼馴染の彼女がまるで上半身を覆い隠すかのようにくるまっていました。
「………暑いわよ。見たら分かるでしょ?逆に涼しそうに見えるわけ?」
「じゃあ私のタオルケット、返してくださいよ」
「それはダメ!」
彼女が暑そうにしているから、そのくるまっているタオルケットを剥がそうと手を伸ばしたら。よーちゃんは私の手から逃げるようにその私よりも大きな身を縮こませ後ずさりました。
そんな態度に少しだけショックを受けたりする私がいたりもします。
「どうしてですか?暑いんですよね?」
「暑いわよ。暑いけど、これは今、絶対に取っちゃダメ」
「えぇ、せめて理由を教えてくださいよ」
「それはまだ!心の準備が出来たら、絶対に言うから。それまでこの格好のままでいさせてよ」
「はぁ?……まぁ、わかりました」
彼女に伸ばしていた手を引っ込めて、私は少し距離を空けて彼女の隣に座ります。
私の部屋にはリビングにあるもの程ではないけれど小さなテレビがあって、昔から私とよーちゃんでよく、この小さなテレビの前に並んで座って、オタク趣味な私の好きなアニメや、乙女心溢れるよーちゃんの好きな恋愛ドラマなどを見てきました。
今日も例にならってテレビの前にタオルケットにくるまりながらも座る彼女を見て、なんだか嬉しい気持ちとむず痒い気持ちになったりします。
テレビをつけて、私のスマホの中にインストールされているアニメやドラマが見放題のサブスクを開いて連携させます。
「今日はどうしますか?」
「今日は、そうね。さっき一つ見たいのを思いついたんだけど、それで良いかしら?」
「ドラマですか?最近よーちゃん、韓国ドラマにもハマってますもんね」
「違うけど。なんで私が韓国ドラマにハマってること知ってるのよ。美月に言ってないわよね私」
「だってよーちゃん、学校で誰かが韓国ドラマの話をしてると、こうやって、耳をぴくぴくっと動かして、急にそわそわしだすじゃないですか。それで幼馴染なら気づけますよ。あ、韓国ドラマに興味あるんだなぁって」
耳を頑張って私もぴくぴくっと動かしてみて、どうして彼女のハマってるものを知っているのかを解説します。
すると彼女は目をほそめてジロッと私を横目で見たあと、「ふ、ふーん?」と満更でも無いような声を出しながら右に左に、ゆらゆらと揺れます。
こうやってゆらゆらと揺れるのは彼女が上機嫌のときの癖みたいなもので。
そんな彼女を私はまじまじと見て、なんだか胸の内がほわほわと温かい何かに包まれたような感覚がしてきます。
「確かに韓国ドラマは好きだけど、今日見たいのはアニメよ」
「アニメですか?珍しいですね。よーちゃんって私がおすすめしたやつ以外でアニメに興味を持ったことって今まで無かったじゃないですか。どうしたんですか?もしや学校で高嶺の花として生けるよーちゃんも、遂に私に感化されてオタク趣味に目覚めましたか?」
「べつに、美月に感化されたとかでは絶対に無いわ」
「あ、そうですか」
真正面から私の言葉をストレートに否定されて少しだけシュンと落ち込みます。
「その、そもそも美月は、百合って知ってる?」
よーちゃんはうっすらと頬を赤色に染めながら、そんなことを問うてきます。
「聞いたことはありますね。百合とか薔薇とか。あっ、お花のことじゃないですよね?」
「う、うん。………そっか。知ってはいるんだ」
「そうですね。女の子と女の子が仲良くしたり恋をしたり。の百合ですよね?」
「そ、そうそう」
「それで、その質問を今するってことは、よーちゃんが見たいアニメって所謂、百合アニメってやつですか?そういえば今季のアニメで、そういうジャンルのアニメも二本ぐらい始まってますもんね」
確かSNSでも、一部のそういうジャンルが好きな界隈の方々がアニメ放映記念で盛り上がってましたっけ。
「そうなんだけど。きょ、興味とか、美月はあったりする?」
「んー、正直そういう世界があることは知ってましたけど、興味があるか無いかと聞かれたら、今はまだありませんね。実際に見てみないと正直、あまり想像が出来ないんですよね。そういう定義はなんなのか、とか」
「………そ、そう。じゃあ、興味ないなら、や、やっぱりやめとこっか」
露骨によーちゃんが落ち込んだのが分かります。
そのアニメ、そんなに見たかったんですね。私の興味の有無なんか気にしないで、見たいならもっと正直に見たいって言えばいいのに。
そんな不器用なところが少し可愛くも思えたりして、私は助け舟を出してあげることにします。
「それじゃあ、そのよーちゃんが見たい百合アニメを今日は見ましょうか」
「えっ?でも、興味ないって、さっき」
「そんなの、昔からよくあったじゃないですか。私の見たいアニメが必ずしもよーちゃんの興味あるものでは無かったし。よーちゃんの見たいドラマが必ずしも私の興味あるものでは無かった。けど、見てみたらお互いにドハマりするなんてこと、多々あったじゃないですか」
「たしかに」
「だから、物は試しです。もしかしたら私も、その百合とやらに興味が湧くかもしれませんから」
そうして私たちは少しだけいつもよりも空いた距離感で、百合アニメを見ることにしました。
その後から、私の感性が少しずつ変化していくことなど、想像すらしていませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます