第35話 最強武器
「あいたっ」
破獣が前衛をすり抜けアリーに攻撃。首筋に切り傷、囲んですぐに倒す。ハイポーションを使い回復。
「大丈夫か」
「うん」
たまに後衛にも攻撃が及ぶことはある。だが。
「最近妙に狙われているような」
「それは感じる」
ここ最近の戦いを思い出す。アリーに一直線に向かっていく破獣達。瞬殺していたから今まで気が付かなかった。こいつは異常事態だな、なにかが起こっている。
「もしかして私の生い立ちに秘密が?」
考えたくなかったがそうかもしれない。それにしても嫌な予感しかしない。子供を捨てるわけだ、余程の理由があったのだろう。それもありダークエルフの国には今まで近づかなかった。お互い問題がないならこのまま接点なく生きていければそれが一番だからね。ただ、そうも言ってられなくなってしまった。
「協会に頼んでみるか。俺から話しておくよ」
協会に秘密の依頼を頼むことにした。
「わかった。お前の依頼だ、最速でやってやるよ」
かなり協会に貢献してきたせいかすぐに動いてもらえることに。この国の協会No.2の実力者の人の言葉だ、重みがあるね、すごく安心する。しばらくは街で遊んで暮らすか。まだ行ったことがない場所もある。それだけ広いというのはあるし、次行ったときには別の建物になっているということも。栄枯盛衰、そういうこともあるさ。
「調べはついた、アリーも連れてきてくれ」
「わかりました」
20日経過、結果報告ということで二人共協会に呼ばれる。協会の地下、俺も入ったことがない場所だ、余程のことかも。地下室に入ると依頼を受けてくれた男性が一人、部屋で座って待っていた。
「彼女の情報の件なんだが」
「なにかわかりました?」
突然部屋の壁が下がりダークエルフ達が出現、武器を突きつけ俺達を囲む。
「無駄な抵抗はするな」
かなりの数の魔物使い達がいるな。これでは力ずくで逃げることは難しそうだ、早々に白旗を上げる。
「世界の存亡に関わることなんだ、悪く思うな」
「男は力を奪って牢に入れておけ。女はこちらで預かる」
協会の人間が後ろにまわり俺に首にチクッと針を刺す。これはもしやリセットか。状況がわからないまま地下の秘密の通路を使い地上へ。わざわざ地下室を選んだ理由はこれか。馬車に乗せられ王城地下の牢に。ということは王国もグルか。兵士が俺の牢の前に座り、小声で話しかけてきた。
(おそらくこのままだと死刑だろうが大人しくしていろ、もしかしたら好機があるかも)
減刑されるってことか? 言いたいことがよくわからないが。しかし、協会の貢献者からいきなり死刑囚か。一気に下がりすぎだろ。暴れたいくらいだが力を奪われては暴れるどころでは。力を? あれ、ステはいつもどおりだ。これはまさか。針を刺したのは俺と仲の良い協会の人。兵の言葉を思い出す、わざわざ死刑と言っているからこのままここにいるのはマズそうだ。そして大人しくしていろっていうのは力で無理やり脱走ではなくここから抜けるチャンスがあるってことか? 言葉の意味がわかった。もし誰かに聞かれてもいいように分かりづらい言葉にしたわけか。俺にしか本当の内容はわからない話だな、聞かれてもかわいそうと思って慰めの言葉をかけたとか適当にごまかせる。どうやら俺に協力者がいるようだ。三日後、牢を守る兵士が交代。
「おつかれ」
「もうそんな時間か、じゃあ後は頼む」
兵士と魔物が入ってくる。ん、見覚えのある顔だ。あー、シークレットで酒が好きすぎるから問題児とされた人か。囚人のお守りは暇だとお酒を飲みだす男。相変わらず酒が、いや、あの時魔物の前で酒を辞めると誓っていた。そして魔物は無反応。そうか、彼が協力者か。酔っ払い、よたよたとこちらへ向かってくる。
「へへ、やっぱり酒の世界はいいものだ」
その場に倒れ込みいびきをかきながら寝てしまった。わざわざ鍵をわかりやすい位置にして。ありがとう、恩に着る。鍵を抜き取り牢屋から脱出、魔物は全く動かない、目で早くいけと催促している。地下の作りは知っている。シークレットでここに来ているからだ。問題なく脱出、城から抜け出した。しかし今は裸一貫、このままではなにもできない。俺の拠点は抑えられているだろう、どうする? 考えていると潜んでいる森の木の上から声が聞こえた。
(俺だ、木をつたってついてこい)
頭上に協会の人が。木に登り木から木へ移動を繰り返し、一軒のボロ家へ。明かりをつけ二人はテーブルに付く。
「助かりました」
「なに、いいってことよ」
「一体何がおきたんです?」
「それはだな、彼女は特異点なんだ」
話は過去にさかのぼる。破獣の制御装置はダークエルフの魔力によって作られていた。そして当時稀代の魔法使いと呼ばれるダークエルフが制御装置の作成に協力、一気に研究は進んでいった。獣に装置を埋め込み、作戦は一時期成功していた。しかし急造による弊害か、装置が暴走、破獣達をコントロールできなくなる。そして食うほど強くなるという特徴を見に付けた破獣。襲われる人間達、そうしている間にも破獣は力を高めていく。強化した破獣達に人類は抗う術を持っていなかった。襲いかかる破獣達、協力者は全魔力を開放、自爆してその場は収まった。
「じゃあまさか奴らはアリーを殺す気か?」
「そこは大丈夫だ」
協力者はただ自爆したわけではない。複雑な術式を施し破獣がこれ以上強くなるのを防いだ。ダークエルフから稀にその力を持って生まれてくる者がいる。破獣が力に目覚めたその者を喰らえば、「食うほど強くなる」の能力の封印が解かれ力をつけた破獣たちの世界になってしまう。防ぐ方法は、力が目覚める前に殺すこと。ダークエルフの国は生まれたばかりの子供でも一度魔物使いにして調べている。
「本来は本人以外能力を見れないはずでは?」
「ああ、改造されていてな、丸見えだ」
世界のため特別製の機械を使っているとか。
「もう一つある」
力を持った者が完全に力に覚醒し術を上書きさせる方法。完全覚醒までまだかかることと術の習得にかなりの時間がかかるからすぐに彼女が死ぬということはない。一年はかかるとか。すでに力に目覚めてしまったため今彼女を殺すと封印が解かれる可能性はゼロではない。そのため現在彼らはアリーの覚醒を待っているだろう。しかしここからどうする。彼女を助けたとしても世界は破獣に支配されるだけか。
「そこでだ、幻の三つ目」
「誰だ?」
小屋へ入ってくる人間、彼はこの国の王子。シークレットでトラブルを解決したときに仲良くなった。
「破獣作戦を止めようとした者が居た、それがこの国の王だ」
機械による獣を強引に襲わせるという無茶な作戦に異を唱える者は当然居た。しかし無視され、せめてもしものときのためにとこっそりと制御破壊装置を作っていた。
「覚醒したアリーによりこの装置を起動させればすべての装置は破壊される。破獣だけでなく人間、魔物に取り付けた装置もだ。しかもアリーが死ぬことはない」
「そんなものが」
「この歪んだ世界にはうんざりだ。世界は元の場所に戻るべき」
「作戦は簡単だ。アリーを奪い、この装置を起動させること。ただ場所は決まっている」
装置を受け取る。マイクのような品、拡声器の一種かな。装置に向かって彼女が魔力を放出すると起動、生物に取り憑いた装置を破壊できる。
「頼んだぞ、アレス」
最終決戦だ、準備を整えよう。王子に連れられ王城の巨大地下室に。俺達が集めたものは全てここに。ありがたい。今後は個々が俺の拠点に。ここは古代の力がまだ残っている場所。地下室に入ることで機能が開放された。
「ん、こいつは」
ゲームでは見たことがない武器がクラフトに追加された。
「ああ、最強武器七重か。残念だが虹の石が必要だ」
「持っている」
「まじで!?」
確かに偶然が重なりすぎている。まあ、神が仕組んだことかも知れないな。この世界をあるべき姿に戻すために俺は呼ばれたのかも。
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