第31話 裁縫

「ほい、服ができたよ」

「そろそろ礼服が欲しいと思ってたんだ、ありがと」


貴族にお呼ばれされても問題ない服を作ってくれた。アリーが裁縫の腕をかなり上げていた。一般的な中世ヨーロッパ風のこの世界の服から貴族の服まで。今までは困らなかったが、秘密の仕事をこなしているうちに貴族の男性と仲良くなる機会があり、たまにこちらに来て食事をすることがある。アリーにはタマラ王子と同じ様に偶然仲良くなったと伝えてある。彼としてもディナー等に誘いたいと考えているようだったが俺はそんな貴族と一緒に行動するような服は持ってなかった。冗談交じりにアリーと話していたらじゃあ作るということで服が完成。しかも貴族が着る服よりもゴージャスじゃないか? 大丈夫かなこれと心配になるほど。アリーも自分のドレスを作った。


「凄いじゃないか、これなら問題ないよ、よーし、食事に行こう」


ということで高級料理店に連れて行ってもらうことに。この街でトップクラスのうまさを誇るお店だとか。店につくと入口で止められている人達を見かける。


「申し訳ございません、その服装では当店はお断りさせてもらっております」

「しょうがねー、他行くか」


あるよね、ふらっと寄った店が異様に格式が高くて困惑するってこと。彼らもそんな感じか。店に入りテーブルに付く。貴族の男性もパートナーを連れてきた。ここの料理長がわざわざ挨拶にこちらへ。元魔物使いで貴族の男性と仲がよく、昔は一緒に行動することもあったとか。


「魔物使いのときの縁で良くしてくれるんだ。仲間というのは宝だな」

「はは、よせよ、俺達の仲だろ」


ああーいいね、友情って。貴族も一般市民も関係なく仲良くって素敵なことだ。


「楽しんでいってください」


俺達に挨拶をすると店の奥へ。運ばれてきたものをいただく。う、うまい、高かろううまかろうだけでないな、この世界に来てから確実にうまさランキング一位を越えた。これがプロの実力か。


「ふん、汚い奴らだった」


先程の件だろう、貴族風の男が愚痴っていた。筋金入りの貴族の人間だろうか。酔っているようでついでに同僚や仲間の悪口を並べ立てる男。おいおいこっちは楽しく食事を楽しんでいるんだ、よしてくれよ。体は細く目は鋭い、非健康的な体、魔物使いをしてなさそうだな。魔物使いではない場合は同じ貴族でも下に見られることが多い。そこはこの世界の悪いとこな気はするね。まあ力こそ正義の時代ではあるから仕方ないのかな。その鬱憤が溜まっているのかもしれないな。だが同情しかねるほどの態度の悪さ。


「蜂蜜か、黄金色で美しい、下民に食わせたくないな。俺のように高貴な者だけが食べられるようにしろ」


普通の蜂蜜もある、この世界では高級品。無茶苦茶言い始めたな。まあその蜂蜜って蜂のゲロなんですけどね。高貴っすね。


「ソーセージも俺だけが」


それって大腸とか使ってるんで。もちろんキレイにはなってるけど。全力で地雷を踏み抜いていくこの男のスタイル好きかも。結局は人柄なのかな。普段から微妙な性格してそうだ。お酒で本音が出ているわけだ。


「ここの店員はなっとらん!」


ついには店員にキレ散らかすようになる男。指を鳴らしながら腕っぷしの強そうな店の警備がでてきて強制退場。まあそうなるわな。


「すまないな、いつもはあんな客いないんだけど」

「ある意味楽しませてもらっているよ」

「?」


食事が終わり家まで馬車で送ってもらった。


「今日は楽しかった、また」

「ええ、ぜひ次回も」


とある日、拠点でエン達と食事をする。談笑しながら服の話も。


「俺達もそろそろ欲しいな」

「作っとくよ」


エン達が帰ると入れ替わりにタマラとマヤが拠点に。


「オークション行こうぜ」


どこかから服を入手したことを知って誘いに来たようだ。オークションは便利な施設だ、利用方法を知っておいたほうがいいな。タマラについていきオークションへ。マヤも着飾っている。二人共流石元王族、そこまで高級な服ではないが着こなしていて振る舞いも美しい。勉強になります!


「タマラ様ですね、どうぞお通りください」


メンバーカードが欲しいようだ。カード一枚で一組最大五人まで入場可能。一枚後で手にれておけばいいか。


「それでは始めます」

「10万!」


最終的に高い値段を言った人間が入手する方式。タマラが入札に入る。ものすごい値段だが落札。かなりお金を持ってそうだな。


「ああ、元貴族だからな」


結局二人共王族というのは秘密のままに。まあ貴族みたいなものだからそんなに変わらないか。話からして相当持っているな。しかもマヤも持ってそうだ。後日オークションのカードを入手。たまに来て出品を調べておこうかな。

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