第28話 駆け落ち

「彼女に子供ができました。悩みましたが申し訳ございません。失礼します」


最初何のことかわからなかったが一日経過して男騎士が帰ってこないことで手紙の内容を理解した。


「子供が産まれたら復帰したらいいだろと思ったが彼らにはそれだけでは済まない事情があった」


騎士として仕えている立場上、主君の命は絶対。時には自分の命を盾として差し出すのは当然。魔物使いはただでさえ命がけの仕事、おそらく王国の騎士団より死ぬ可能性は高い。破獣は危険な存在だが魔物使いがかなり退治しているから現状は比較的平和だからね、世界で戦争してたらもちろん騎士団のほうが危ないだろうけど。俺達もこうして一見平和に暮らしているが、死の話題はたまに流れてくる。そうした話がボディーブローのように効いてきたんじゃないかな。お互いを失いたくないという気持ちが駆け落ちに走らせたか。今から思えば旅行の割には楽しそうな雰囲気ではなく二人共思い詰めた顔をしていたな。


「いいんだが相談してもらいたかったな。いや、それも難しいか」

「彼らはどうする?」

「そのまま、自由にさせるさ」


どうする、見かけたことを話すか? いや、やめておこう。もしどこに行くのかわかれば追いかけたくなるだろう。自由にすると言っているんだ、余計な情報は与えないほうがいい。確かアリーは見てなかったな、口止めの必要はないか。


「ということは」

「当然向こうも」


タマラと顔を見合わせる。女騎士もいなくなったわけだからマヤ王女も同様に。心配ではある、放ってはおけないな。


「わかった、一緒に行こう」

「頼む」


マヤの元へ。外で食事をしている、しかしどこか気の抜けているような姿。


「マヤ」

「タマラ……」


マヤがこちらに走ってきてタマラに抱きつく。そして泣き出した。


「幼い頃から仲が良かった。こんな形で彼女がいなくなるなんて」


王女と騎士だが仲が良い不思議な関係、しかし彼女はもう帰ってこない。


「落ち着くんだマヤ、彼女達の立場を考えれば仕方がない」

「うん、わかるよ」


マヤも彼女の行動は理解している。しかし寂しさと急な出来事に心がついていかなかった。皆椅子に座りマヤが落ち着くのを待つ。


「ありがとう二人共、もう大丈夫」


しかし思ったよりも状況は深刻だ。タマラの正体がバレたら大変なことになるな。いま二人をくっつけることは危険。だが心の拠り所がマヤにはタマラしかいない。ここはもう勝負に出るしかないな。彼女の事情はこちらは知らないことになっている。まずはそこから聞き出して、最終的に実際タマラ王子をどう思っているか、そこを彼女の口から。


「国に帰るのか?」

「ううん、私はもうただの魔物使い。帰る国はない」


彼女は語る。生来わんぱくでとてもじゃないが貴族の妻としてはやっていけないだろうと自覚していた。そこでタマラ王子の話が来る。タマラ王子とは言っていない、貴族の男と変えている。彼の噂は聞いていてそれを利用、王家を飛び出し魔物使いに。


「本当は彼に謝らなくてはいけない。もともと私にも問題があったから」

「実は」

「実は?」

「俺がその貴族なんだ」

「そっかー。って、えーー!?」


驚くマヤ王女。タマラの告白を止めようと思ったが、話からして問題はないとそのままに。素直に今までのことを言うタマラ。少し内容をまろやかにして伝えたほうがいいのではと思ったが彼の切実さが出ているからこのままいこうか。


「一目惚れだったんだ」

「……」


うつむき動かないマヤ王女。色々な情報が一気に流れて整理しきれなくなっているのだろう。少し時間が必要だな。俺達二人は帰って、アリー達に頼むとするか。


「彼女を頼む」

「いいよ」


アリーとレンのお願いして彼女の側にいてもらうことに。王子は俺の拠点に。


「どう転んでも悔いはない。ここまで楽しくできただけでも幸せだった」

「そうか」


掛ける言葉が思いつくほど男女関係には明るくない。難しいトラブルも含まれているからなおさらだ。ただ、一緒に居てやるだけでも気が落ち着くってのはわかる。俺がもしそうなったら仲が良い誰かに側に居てもらいたいからだ。


「ありがとよ」

「ん」


一日経ちアリー達を連れマヤ王女がこちらへ。


「タマラ、一緒に行動しない?」

「いいのか?」

「いいよ。問題児だって聞いて少し迷ったけど、今まで一緒にいて特に悪さをする様子もないし。私も問題児だったし」

「そうか、もちろん一緒に」


いい笑顔で見つめ合う二人。ふぅ、良かった。どう転ぶかわからなかったが二人の恋の物語は今始まったようだ。


「というわけです。もう二人は大丈夫でしょう」

「そのようですね」


話を持ってきた王女の国の人に今まで起きたことを伝えた。今後は二人はただの魔物使いに。国からの干渉は今後なくなる。むしろ心配なのは騎士の二人組。


「そちらはお任せください。彼らと連絡を取って死んだことにします。母国の家族とは会えなくなりますが、王女のお付ですからね、すでに家族とは会えないという覚悟はあったかと」


騎士組もいい着地点で解決しそうだ。実はと深海方面に二人が進んでいったことを伝える。


「それでは私はこれで。二人をよろしくお願いします」


長いお辞儀の後、彼は街から出ていった。

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