第27話 海の世界

「タマラ王子に関する続報です」


タマラ側の王家と連絡が取れた。王子はすでに王家の者ではなくなっている。国では現状タマラ王子は病気で伏せっている事になっている。それだけ秘密にしてもらえれば後は自由にという返答。冷たく感じるが色々あったみたいだからな。まあ、生命があって自由ならいいじゃない。たまに通りかかるが王子王女の二組は今うまくやっている。現状維持でいいか。


「海中旅行へ行こうか」

「いいね!」


乗り物を手に入れたことで海の中にも進出できるようになった。酸素ボンベは自作できる。空気草という草をいれるだけ。吐いた空気を酸素に即変換、しかも減圧症にも対応するというスーパーな草だ。呼吸器は前に取ったスライムを加工し製作。ゴムやプラスチックの代わりになるからこちらも超使える便利素材。金属製のボンベを作成、耐腐食加工を施す。中に空気草を入れ入口を封鎖、ホースを取り付け呼吸器に接続して完成。近くの川に入り潜って確かめてみる。ふむ、問題なく呼吸ができる、空気漏れもないな、よし。普通のスキューバと違って空気を循環させるから泡が出ない。ジェットにスライムから作った耐水性の荷袋を装着、準備完了。ペンは水中も行動可能。ファングとアニマとペザンテも連れて行く。他の皆は残念ながらお留守番。拠点から出発、近くの浜辺に到着、ここから水中へ。酸素ボンベを装着しジェットを走らせ海の中へ。海中を乗り物に乗って走るなんて味わったことがないな、不思議な気分。海に入るとすぐに海底に生えている海藻が目に入る。


「派手な色の海藻だ」


光っていて目立つ、黄色い線が一直線に伸びていた。この海藻は道代わり、基本は黄色い線に沿って走ることになる。海中を進んでいく、前方に流線型の乗り物を見かけた。魔物が船を引っ張っている。海馬車と呼ばれるこの世界の乗り物。こうして乗り物がない一般人でも海中の旅を楽しむことができる。海馬車を追い越ししばらく走ると海底に街が見えてきた。空気がある地域とそのまま海につながっている場所がある。空気がある方に入るか。海底の地下に向かって伸びている洞窟に入る。Uの字型の道になっている。しばらく進むと上方に門が見えてきた。門が開く、門は二重構造、門から入って水を抜き、門を開いて街に入ることができる。坂道を登り街の中へ。空気がある、呼吸器を外して行動できそうだ。呼吸器と同じ匂いが街に漂う、空気草を大量に使っているんだろうな。宿を取り、街を観光する。街の中は少々薄暗い、陸上と違い太陽光が完全に届いていないのだろう。地面は海底そのままの砂地、草木は生えていないな、海藻もない。頭上にはドーム状の透明な屋根。海の生物が泳ぐ姿を見ることができる、水族館に来たみたいだ。


「もう一つの街へ行ってみよう」


呼吸器をつけ、作っておいた足ヒレを装着し海水で満たされた街へ。当然泳いで進む。


「陸上とぜんぜん違うね」


大きなサンゴを家として使ったり、草木の代わりに海藻が生い茂っていたり、巨大な動物の骨の中に住んでいたりと幻想的な光景が広がる。人工物もあるな、海水に反応して硬化する素材を使った家など。頭上から降り注ぐ陽の光がなおさら美しい空間を作り出している。


「皆泳ぎが上手」


やはり海の中だけあって魚型の獣人が多い。彼らは呼吸器もつけず自由に街の中を泳ぎ回っている。


「あー綺麗だった」


観光にはいいところだな、陸上では味わえない独特の雰囲気がある、結構体力を使うけど。空気があるところに戻り、この街の協会へ。受付も協会の人もやはり皆魚人達だな。近場を調べ軽く狩りへ。ジェットに乗り海の中でも一番弱い破獣と対戦。やはり海の中、思うように動けないな。弓はつかえない。近づいたときに槍で突くくらいか。ジェットと息を合わせ突いたり斬りつけたり。地上戦とはかなり違うな。アリーの魔法は全て海の中でも力を発揮。ペザンテは水中が本番とばかりに地上よりも機敏な動きを見せる、良い盾役だ、流石サンゴの魔物。近くで魚人が破獣と戦闘していた。魔物に乗らず自在に泳ぎ破獣を倒している。やはり海の中は彼らのホームグラウンドなんだな。本格的に海を攻略するとなるとかなりの準備が必要。仲間も水中専用の魔物を揃えないといけない。まだまだ仲間数に余裕がない。まあ、一番の理由は美味しさから考えて先に空の世界を攻略していきたいからだけどね。どうしても後回しになる、海攻略はかなり先になりそうだ。こうやってたまに観光するくらいかな。海中クラフトはほぼ別ゲーになるから楽しいんだけどね。街に戻り晩ごはんを食べる。やはり魚介が多い、生の魚に焼き魚煮物。日本人の俺には非常に馴染みがある食べ物達だ、最高かよ。食事の余韻に浸りながら宿屋へ向かう。


「おや? 彼らは」


男騎士と女騎士を見かける。海馬車に乗り更に奥の海底へ進んでいった。観光には良い場所だからね、二人で旅行に来ているんだろうな。海の街を堪能、拠点に帰る。戻ってすぐにタマラが俺の拠点に。


「も、問題が起きた」

「落ち着け、どうした」


この慌てよう、もしかして正体がバレたか。持っている手紙を読んでくれとこちらに渡す、男騎士が書いた文字だろうか、いいのかな見ちゃって。渋々手紙を読む俺、こ、これは。


「二人が駆け落ちした」

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