第23話 王子の恋
数日後の早朝、タマラ王子とまた会い会釈を。ガスクが近づいてきてシロと遊びだす。
「仲が良いですね、余程気にいったのか。まだ遊び足りないようだ、どうです、うちで朝食でも」
「そうですね、ではお言葉に甘えて」
「歳は同じくらいだろう、気にせず普通の話し方にしてくれ」
「わかった、そうするよ」
王子の提案に乗る。順調に仲良くなってきているな。朝食をごちそうになる。パンにスープか、良いもの出してくれるな。
「二人は兄弟?」
「いや、遠い異国の貴族の御曹司とそのお付ですよ」
「へー」
そうだな、男騎士のほうが年上っぽいのに敬語を使っているからな。この世界では高貴の身で他国に修行というのはよくあること。設定的にそのほうが無理はない、嘘も言ってないし。食事をしながら談笑していると目の前を二人の魔物使いが通る。マヤ王女だ。突然の登場にスープを吹き出しそうになるがそこはこらえる。彼女達はただ通りがかっただけのようだ。マヤ王女を見つめるタマラ王子、その目には並々ならぬ熱情が込められている。一目でわかる、彼は恋をしているのだと。通り過ぎるマヤ王女。仲良く談笑していた流れで彼の気持ちを聞いてみた。
「もしかして今の子が好きなの?」
「ああ、そうなんだ」
隠すこともなく自分の気持ちを教えてくれるタマラ。俺は協会側の人間で調査に来ているから非常にくすぐったい気分になる。まあ誰かが確認しないといけないことだから。
「だけど俺には彼女をどうこうする資格はないんだ」
「なんで?」
子供の頃、素行が悪く非常に世間から疎まれていた。ここで男騎士のフォローが入る。複雑な家庭環境なためひねくれてしまっていたという。ひどい状況だったがなんとか気持ちを保てたのは魔物のおかげだった。彼らの無償の愛が王子の心を救った。そんな中、マヤ王女との縁談の話が来る。マヤ王女とは直接言及していない。全く興味がなく断ろうと思っていたが、こちらの国に来ていた王女をたまたま見かける。
「一目惚れだった」
魔物と接したときの笑顔に心奪われたのだとか。それから心を改め生きていこうとするが時すでに遅し、マヤ王女は国から姿を消した。そして彼も国を出て彼女を追いかけてきた。
「ややこしいな」
「だろ?」
まとめるとタマラ王子の片思い。彼女に会うまでは素行最悪。マヤ王女はそんな彼から逃げ出した。タマラを見たことすらない、今ここにタマラがいることを知らない。ここからどうすればいいか、恋愛経験のない俺ではお手上げだ。一旦引き上げ相談できる人に、そうだ、いるじゃないか先生が。
「モオー(相談があるんだ先生)」
「モオウ?(どうしたアレス)」
モテ牛先生に相談。
「モウー(それは難しな)」
心を入れ替えたのならお手伝いをしてあげたいが彼が今までしてきたおこないは消えるものじゃない。彼から迫って正体を知った時彼女は恐怖するだろう、王子から行くべきではない。今は諦めて徳を積むか、彼女が偶然近づいてきてしまったという天運に任せるか。どちらにせよ今動くときではない、と先生。そうだよな、元凶から逃げて、元凶が寄ってきていたなんてただのホラー話だ。流石に先生でもどうにもならないか。礼をして拠点に帰る。
「モオー(俺だ、頼みたいことがあってな)」
五日後、また王子のところへ。
「この国から離れようと思う」
「そうか」
彼女のことは諦めるという。歯がゆいが正直どうしようもない。王女が道を通る、これが見納めかと寂しそうにするタマラ。見ていると二人が入口で立ち止まる。女騎士の様子がおかしい、体調不良かな。こちらに声をかけ、王女と女騎士が入ってくる。もじもじとしながら男騎士の前へ。
「ひ、一目惚れなんです。友達からで良ければ」
「……はい」
少し考え男騎士はOKの返事。
「ふふ、お付き同士、どうやら似たような状態みたい。私達も仲良くしましょ」
「う、うん」
これは。あっという間に仲良く、そして彼女から自然に。天運てやつか、凄まじい運を持っている。いや、男騎士に少し違和感がある。なんというか男の色気が上がっているような。他へ行く準備かと思っていたが違うようだ。彼が仕掛けたのか?
「またね」
「また」
彼女達は帰っていく。違和感に対して聞く、協会がどうしてもということで仕事としてキャンペーン活動のような仕事をしたという。そのときにメイクに力を入れ、これからもある程度やってくれとお願いされたとか。協会か? いやおそらくは牛先生だな。きっと彼が動いてくれたんだ。
「モオー(手間のかかる坊やだ、だが魔物好きを見捨てることはしないさ。自分の正体を教えるときは気をつけるんだぜ)」
まさかの逆転劇、当然街から出ていくのはなくなった。照れている男騎士、まんざらでもなさそうだ。これから王子王女の恋物語はどうなっていくのだろう、非常に興味が湧く。
「モウ?(ところでアレス、お前は人の恋愛の心配している場合じゃないだろ?)」
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